女帝と呼ばれた悪魔
1932年の11月ごろ。島に新たな客がやってきた。この到着に先立つ同年9月には、まるで凶兆を告げるかのように楽園島に近いフェルナンディナ島が噴火し、ドールは不安に駆られていた。(この時、ウィットマー家が噴火に無関心だった事にドールは怒っている)
そんな時期のある晴れた日の午後、のちに『サタン』と評される女性『バロネス』が郵便入江に降りたった。
『バロネス』というのは彼女の本名ではなかったが『女男爵』という意味があり、実際に彼女は男爵位をもっていた。白銀色の髪に、濃いサングラス、リスのような前歯が真っ赤な唇からチラチラ。歳の頃は30〜40の間に見えた。
バロネスは女王きどりで2人ばかりの従者をかしずかせており、それらは全て男性、つまりWithBだった。
最初にバロネスの来訪に気付いたハインツ・ウィットマーが
「なんか変な奴らが来たよ!」
とフリードに知らせを持って来たが、その知らせに遅れてバロネス一行が顔を見せた。バロネスはまさに女王のような振る舞いだった。
ロバに乗ってやってきて、その背から降りると従者の1人が素早く、いそいそとフリードのベンチをバロネスの元へと運ぶ。もちろんベンチはフリードの備品で、無断使用だ。
このときバロネスのお供をしていた従者はルドルフ・ロレンツという男で、『容姿端麗』な人好きのする男だった。
イケメンに弱いドールは初対面から彼にかなりの好印象を持った――が、とうのロレンツはバロネスの事にしか関心がないようで、ドールの熱い視線に気がつきもしない。
「ロレンツ、眼鏡をはずしてちょうだい」
だの
「足を洗ってちょうだい」
だのと言うバロネスのワガママにかかりっきりだ。
第一印象から挨拶、そして去って行くときまで一貫して不愉快な態度をとり、フリードをかき乱したが、ウィットマー家はもっと不愉快だった。
やれ、なんだか変な女が来たわね、とマルグレットが作業の手を止めて様子をうかがうと、バロネスは挨拶もせず
「泉はどこなの」
初対面での無礼を訝りながらもとりあえず泉の場所を教えると、飲料水も兼ねるそこで足を洗う。
そうして一息つくと、バロネスは自分がしばらくこの島に住むこと、この泉の近くに居を構えること、そしてリター博士が思っていたよりショボい男であること――をまくしたてた。
マルグレットは、どうせこの妙な女もほかの物見遊山の訪問者と同じく、すぐに島を去るだろう――と考えていた。が、バロネスは立ち去る気はなかった。
このゴージャスなマダムは、このフロレアナ島に一大『レジャー施設』を作ろうと画策していたからだ。
『アシェンダ・パラディソ』――スペイン語で『楽園農場』という意味を持つ宿泊施設を島に建設し、富裕層を呼び寄せる計画だという。
実際は『従者』として給料が発生していたワケでもないのに、ロレンツを含む男たちが女帝の寵愛を受けようと必死だったのは、このレジャー施設における共同経営者の座を狙っていたからだとされている。
とはいえ、バロネスにはロバート・フィリップソンという――黒髪で体格の良い夫がおり、このロバートもこのフロレアナ島にも同行してきていた。彼はバロネスより遥かに若く、マルグレットの評によれば『ぶっきらぼうな男』だった。
この男、夫という立場ではあるが、彼は悲しいかな『従者の1人』という扱いに堕していた。
このフィリップソンをふくむこの『従者』――withBたちは、バロネスの性的なパートナーの役目――「バロネスに命じられれば、一つのベッドをバロネスを含む3人で使う」事もいとわない――きわめて不埒かつ不道徳な関係であり、フィリップソンがもつ夫の立場など形骸でしかなかった。もっといえば、バロネスには『正当な』夫であるボスケ氏がおり、法的にはロレンツと同じ愛人の立場でしかない。もちろん共同経営者レースの参加者としては、かなりの有力候補ではあったが。
ともかく、バロネス、美男ルドルフ・ロレンツ、夫のロバート・フィリップソン、そして雇われのエクアドル人バルディビエソという4人が島の新たな住人として加わった。
以上で『ガラパゴス・ミステリー』の主要な登場人物が出揃ったワケであるが、これほど癖のある人物が狭い島に集まれば、トラブルの一つや二つは日常茶飯事となるのは明白で、実際に島の平穏は大いにかき乱された。
最初のトラブルが、この女帝来訪初日に起こっている。
ソレは次のようなものだ。古くからフロレアナ島に寄港する船は、大陸などから郵便物などを運んできてくれる。郵便入り江に設置された郵便樽に島宛ての手紙を入れ、出航するときには島内からだされた島外宛ての手紙を持って行く。
これはほとんど船乗りの仁義なり善意に支えられた楽天的なシステムであるのだが、バロネスがやってきた日、郵便樽に届けられたリター宛ての郵便物、そのほとんどが開封され、酷いものでは封筒すらなく中の手紙だけになっていた。何者かが断りもなく開封したのは明らかで、どう考えてもこの女男爵が怪しい。
超人リターなどは
「手紙のなかの写真まで盗りやがったんだ。あの卑しいアバズレが!」
フリードリッヒ・リター (Friedrich Ritter)
不思議なことに、ウィットマー家宛の手紙はほとんど開封されないままハインツの元に届けられている。
バロネスの狙いは『フリードの2人』であり、ウィットマー家は眼中になかったんじゃないか――と考える諸兄もおられるかもだが、決してそんなことはない。
ウィットマー家は定期的に米を購入していたのだが、船で運搬されてきた米をバロネスが奪い
「欲しけりゃ売ってあげるわ」
と取引を持ちかけた。取引もなにも代金は先に払っている。金のためならモラルや品性を捨て去ることで知られる現代のプロブロガーたちですら、さすがにここまではしない。
この無法きわまる行為に対し、ハインツが強気で抗議すると、バロネスは腰にぶら下げたリボルバーに手をかけ
「アタシをなめるんじゃないよ。死にたいのかい?」
と恫喝し暴力に訴えようとする。プロブロガーはもちろんYouTuberたちでも、さすがにここまではしない。
結局、余分な金のないハインツは不甲斐なくも大事な米を諦めざるを得なかった。マルグレットにも怒られ、たいそう腹が立ったが命には代えられない。ちょっとした怪我でさえ命の危険に繋がる――ここはタフな島なのだ。弱き者は踏みにじられる。
バロネスは島にやって来て間もない頃から、この島を自らの所有物だと主張するようになった。リターやウィットマー家に関しても「仕方なく住まわせてやっている」というスタイルを取り、主に恐怖によってその主張に従わせるようになる。
この時点での島の地図は以下のようなモノになる。
あるとき、サンタ・クルス島からエスタンパというノルウェー人の男がやって来てフロレアナに上陸した時のことだ。
エスタンパは旅行記を書くために暫く島に滞在したい旨、そしてその拠点として『ノルウェー人の廃墟』を使わせて欲しい旨をバロネスに伝えたが、バロネスはそれを突っぱねた。
「ここは自分の島で、ノルウェー人廃墟には自分の荷物もある。ヨソ者は痛い目にあう前にさっさと帰りなさい」
バロネス・ワグナー・ボスケ ( “Baroness” von Wagner Bosquet)
それがゆえに勝手に友人をともなって上陸し、勝手に牛を狩った。
運の悪いことに、その彼は帰り道にバロネス一行と遭遇してしまい牛の代金を請求される。だがやはり所有権を主張されても納得できないエスタンパが抗議すると、ライフルで脅され、しこたま痛めつけられた。
そうして血まみれになったエスタンパはフリードに駆け込み、リターが治療している。
この時点ではバロネスの『所有権』にはなんら法的根拠があるものではなく、暴力による支配はリターやウィットマーにとっても許しがたい行為だった。
当時の島内相関図は以下のようになる。
フリードもウィットマーもバロネス一派を不愉快な存在として排斥したかったが、報復が恐ろしくてアクションを起こせないでいた。
彼らが恐れたバロネスの異常性、その一端をうかがわせる出来事がある。
彼女は退屈しのぎに従者を連れて島内を散策することがあったのだが、その際に『狩猟』も行っている。これだけならハインツ・ウィットマーやウゴもやっていた事だが、彼女の目的は動物を「負傷させること」だった。
銃で撃ち、負傷させ、捕獲し、その『治療』をするのが彼女の趣味だった。この『治療する』という行為に歪んだヒロイズムを重ね、『哀れみ深く、優しいアタシ』に陶酔していたようだ。
自身もペットとしてロバを飼い、動物愛が深かったドールなどは、この行為を非常に野蛮だとして強く非難している。が、もちろん口先介入でバロネスを止めることは出来なかった。
「遺憾の意」だけで相手を止められるなら、外務省はもっと楽をしている。バロネスに言わせれば島内の生物は自分のモノ――どうしようが勝手ではないか――という理屈である。
報復は怖い。だが黙っているのも癪に障る――。
この頃にリターが時のガラパゴス知事に送った手紙が、後年ジャーナリストによって発見され『リアル・ディテクティブ』誌に掲載されている。
超人リターは密かにアクションを起こしていたのだ。
密書は知事に宛てバロネスの横暴・無法を告発するもので、行政によるすみやかな介入と処断を望んでいる。
「(前略)私はこの女性を診断したわけではありませんが、彼女について聞いたすべてのことは誇大妄想の精神錯乱状態にあることを裏付けており、エスタンパ氏の体験もこの女性がどんな罪でも犯しうることを示しております。
しかし、今や冗談ごとでは済まされない状態にあり、行政官の責任を果たすべきときだと思います。この女性が起こしうる犯罪を想定できなければ、エクアドル政府にとって取り返しのつかない不名誉となりましょう。この女性は島全体が自分のものだと本気で考えているという幻想を持っており、誇大妄想の状態にあります。
以上の理由から、私はこの気狂いの女性をサナトリウムに収容して監察下に置くという適切な処置をとられるよう貴下に要請します。(後略)」
フリードリッヒ・リター (Friedrich Ritter)
知事への手紙でもリターがそれを危惧している様子も書かれているが、手紙のやりとりが上手くいったかどうかは判然としない。
だが少なくとも、バロネスが処断されることはなかった。
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Such a lovely place,Such a lovely face
どなたでも――友人たちへ!
ここから二時間でアシェンダ「楽園」です。人生の旅路に疲れた旅人が、ふと安らぎと休息、そして静けさを見つける、そんな幸せを差し上げる場所です。
人生――それは、時のきざむ果てしない継続のほんの小さな一部分にすぎず、たいへん短いものです――だから幸せになりましょう――楽しくやりましょう!
楽園ではあなたには一つの名前があるだけなのです――それは友人です。
海水からとった塩、私たちの庭でとれた野菜や果実、断崖から流れ落ちる冷たい水、そして、ここを通過した友人たちが私たちに持ってきてくれた良き品々をあなたと分け合います。
休息というものを知らない大都会を離れ、いく年月ものあいだガラパゴスに秘められてきた静寂を求めて旅をしてきたあなたと人生のつかのまを共に過ごし、神が私たちの精神と心に与えてくれた幸せと心の平穏を差し上げたいと思います。
――――バロネス・ワグナー・ボスケ
――郵便入江に貼られた手書きの標示より探検隊の来訪
1933年1月の終わり頃。島に訪れた外部の人間による記録が残されている。
これはベレロ三世号という船がフロレアナ島に寄った時のもので、外部の人間を拒絶しがちであったバロネスがこの時は歓迎ムードで受け入れている。理由はシンプル、『待ち望んでいた金持ち』が乗船していたからだ。
このベレロ三世号は「アラン・ハンコック探検隊」のために航海しており、その探検隊の長、アラン・ハンコックその人こそ石油王で実業家という超富裕層だった。これは『楽園農場』の上客となるかも知れない。
だが、この来訪は島で進行しつつある様々な凶事を表面化しただけだった。
フリードのアダムとイブは、ベレロ三世号に乗船していた富豪や科学者にバロネスの異常性を訴えたが、その際にリター自身の『問題のある人間性』が明るみになっている。
ドールがベレロ三世号の船医によって診察を受けた際に手に『肉腫』が確認されたのだが、これが悪性のモノ――つまりは癌であると診断された。この事実をリターは把握していながら、なんの処置も施さずただ見て見ぬフリをしていたのだ。
結局、事の重大さからすぐさま船医によって手術が行われドールの手から腫瘍は取り除かれたが、ドールとリターの間にわだかまりは残った。
アラン・ハンコック探検隊の一団はフロレアナ島に上陸し、さまざまな『ショック』を書き残している。
たとえば、沢山の蝶が舞う――色とりどりな景色のなか道端に座り、死人がごとく虚ろな目でボンヤリしている金髪の青年がいた。
まるで浮浪者のように薄汚れた彼――ロレンツは――探検隊が話しかけると
「私を船に乗せて連れて帰って欲しい。1人ぐらい大丈夫だろう?!」
とすがってくる。
バロネスの寵愛を受けていたロレンツがなぜ? と思われるかも知れないが、この時点でバロネスの『関心』は夫フィリップソンへ移っており、ロレンツは冷遇されていた。もっとも冷遇で済むなら怪我もやつれもしない。これは『虐待』と表現した方が実情に即している。
朝から晩まで休むヒマなく過酷な労働を課せられ、手を抜こうモノならバロネスの乗馬鞭で叩かれる。
一部のコアな諸兄にとって、『乗馬鞭で打擲される』などというのは、いたってライトなご褒美に過ぎず――すなわち
「この豚! 恥ずかしくないのかいッ、こんなにオッ立ててさッ! ほら! 言ってごらん、どんな気持ちかッ!」
というヤツで
「女主人が興奮気味に上気しているとますます高評価だよな」
とか諸兄はシタリ顔で言うのかも知れないが、最近は女性読者からのクレームが少なくないので下品なのはやめてください。警察を呼びますよ。
ともかく、少なくとも、ロレンツはこの苛烈なお仕置きに喜ぶタイプではなかったし、もちろんプレイでもなかった。
そんなロレンツに対し、夫のロバート・フィリップソン、そして雇われのバルディビエソは同情するどころか積極的に虐待に荷担している。病気になってもリターによる診察を受けることは許可されず、ノルウェー人廃墟に放り込まれるだけ。
探検隊が目撃したのは、そんな――ちょうど虐待が過剰になってきた頃のロレンツだった。
金も体力もないロレンツは『誰か』を頼るしかなかったのだ。イケメン好きでロレンツに思いを抱いていたドール、友好的だったマルグレットも彼に同情を寄せていたが、バロネスとトラブルになることを恐れ介入は避けている。そして探検隊も彼を救うことはなかった。
その探検隊が『楽園農場』アシェンダ・パラディソへ訪れた時の様子は以下のようになる。
テントの家はことに乱雑の極みだった。
不調和な色とりどりのランジェリーの下がっている洗濯紐や、泉と庭を取り囲んで不釣合いな垣根は、数えあげていうことのできる乱雑さのほんの一端だった。
給水は茂ったシダやツタで覆われた、おそらく15メートルぐらいの高さがある絶壁の斜面から取られていた。斜面は切り立っており、暗い夜、野牛がよく落ちて死に、テントの近くに土砂を落として危険だということだった。シュミット博士(註 探検隊の一員ウォールド・シュミット博士)は等脚類(フナムシ、ワラジムシ)や水生甲虫(ゲンゴロウ等)を収集するのにはもってこいの場所だということで、飲料水の桶から採取した。
(中略)
バロネスは8ヶ国語を話し、ウィーンやパリ、コンスタンチノープルにいたことがあり、スウェット氏によればハリウッドにも親しい友人をもっているという。しかし家事や衛生といったことにはからっきしだめだし、非常に不潔な状態で住んでいるのにはぞっとした。彼女の猫好きぶりと、罐詰のミルクを子猫たちにやる前に自分の口の中で温めて吐き出して与えるやり方には、すごく胸くそが悪くなった。
ガラパゴスの怪奇な事件からジョン・ガースの記録いわゆる権力者やメディアに対しては外面よく接していたバロネスだが、この探検隊に好印象を与えることはできず、期待していた出資も移住もなかった。
この探検隊は楽園農場はもとより、フリードにもほとんど興味を示さなかったが、『開拓民』となっていた質実剛健なウィットマー家については好意的に評価した。
どうもマルグレットがその人気を支えていたようだ。
探検隊の科学者達はそれぞれに
「島にいる3人の女のうち、一番美人で、金髪で、青い眼をもち、美しい容姿をしていた。美しさを損なっているのは足の虫刺されだけだった」
だの
「ガラパゴスにおけるウォールド(註 前述のシュミット博士)の興味は、75%が甲殻類、24%はウィットマー夫人、そして1%がその他の全てのモノだったようだ」
だのと人妻に対する劣情感あふれる視点を書き残している。
多くの日本人男性がそうであるように、アメリカ人でも科学者でも、地球上の男はみんなドイツ人女性が好きなのである。
島には偶然にもドイツ出身の女性が他にも2人いたが、残念ながらバロネスは常にリボルバーと乗馬鞭を携帯する気の強い中年女で、容姿にしても脱色剤を切らして地毛の黒髪に戻りつつあり、かつ出っ歯だった。ドールは歯すらなかった――それにルックスが良くない相手には素っ気ない。
旅に疲れた探検隊の面々には、気立て良く、まともな容姿で、かつ若いマルグレットが女神のように見えたかのかも知れない。
このアラン・ハンコック探検隊を乗せたベレロ三世号が島を去るとき、バロネスファミリーから雇われエクアドル人バルディビエソが船に乗り込んでフロレアナ島を退去している。
これはバロネスが約束通りに賃金を払わなかったためで、不満をおぼえたバルディビエソは勇敢にもライフルを手にしバロネスに未払い賃金の支払いを要求した――が、逆にリボルバーでやり込められ逃げるようにして島を去ったのだった。バロネスはとても強い。
知事の来訪
バロネスが島に住み始めて半年ほど経った1933年5月。ようやくガラパゴス諸島の知事が島を訪れている。
ようやく正義が果たされるのだ――とフリードとウィットマー家は沸き立ったが、これはヌカ喜びに終わる。
知事はバロネスの歓待を受け、彼女を伴って島を巡り、やがて彼女に『権利』を与えた。
それは『島に住む限り、1000ヘクタールの土地をバロネスのモノとする』というもので、これはほとんどフロレアナ島の支配権をバロネスに与えたようなものだった。知事が観光開発に食指を動かしたか、あるいは賄賂などがあったのかは不明だが、破格の扱いとは言えた。
「追い出せ!」というのに、知事はバロネスに占有の法的根拠まで与えてしまって、フリードもウィットマー家も腹立たしくて仕方ない。
ちなみに、リターとウィットマー家にはそれぞれ50エーカー(約20ヘクタール)という、バロネスに比較して「申し訳程度」の権利だけが与えられている。
『50エーカー』と言われても土地の規模にピンと来ない諸兄のために、某テーマパークにその面積を当てはめてみた。
こうして見ると、けっこう広いような気もする。
一部の諸兄はピンと来ないどころか
「なんだよ! ぜんぜんわかり易くない! こんなん彼女とか居てデズニーに行ったことあるリア充にしかわからんだろ! 正直、俺にはサッパリだ! やりなおせ! 俺の怒りがエレクトリカルになる前に!」
とか否定的・独善的に評するのでしょうが、いつもみたく後でみじめな気持ちになるのだから、つまらないイチャモンはおよしなさい。オカクロ特捜部ですら行ったことあるのですよ? 修学旅行だけど。
ともかく、バロネスはこの『50エーカー』の約50倍にあたる1000ヘクタールの土地を手に入れた。リゾート施設を作るに充分な広さである。
そして知事とバロネスがズブズブの仲――こうなるとリターは都合がわるい。
以前に出した手紙『バロネス告発文書』の内容が知事からバロネスに伝われば――。
謎の銃弾事件
ちょうど、知事に連れだって他の島へ行っていたバロネスが、戻ってきたときに新しい男を連れていた。
男はナッド・アレンズというルックスの良いデンマーク人だ。彼は知事の下で通訳として働いていたが、デンマークへ戻る旅費を稼ぐためバロネスに雇われた。そして『一番のお気に入り』の座にあっさりと着いた。
もちろんグッドルッキング・ガイであったので、ドールがまた恋心を抱いている。
が、島へやって来た新しいフレンズのアレンズは、バロネスの狩猟を手伝っていた際に『謎の銃撃』を腹に受け、瀕死の状態で島から退去した。この件に関しては「バロネスが動物を撃った流れ弾に当たった」という事になっているが、いくつかの説明のつかない点があった。
一説にはバロネスが他の者を撃った流れ弾に当たった――という話もあるが真相は解明されていない。
島は、巨大な密室となっていた。バロネスにとっても――他の者たちにとっても。
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