バラバラ殺人のセオリーを逸脱し、骨格や筋肉を無視するかのように、ただ22センチごとに手鋸で切断されていた。
冷静に解体され、丁寧に梱包され、未明に遺棄された。
多くの謎を残したまま未解決に終わった平成の怪事件、24年目の新証言。
迷宮の散歩者、いまも
注意:この項は事件内容の特性上、遺体の損壊に関する猟奇的な記述・表現が多く含まれています。予めご了承の上ご覧ください。
なおこの記事は以前に書いた『井の頭バラバラ殺人事件―迷宮の深淵から』の続き――補足・補遺編にあたる小ネタ記事となります。未読の方は前編から読まれることを推奨させていただきます。
1994年、東京・吉祥寺。4月23日午前。なおこの記事は以前に書いた『井の頭バラバラ殺人事件―迷宮の深淵から』の続き――補足・補遺編にあたる小ネタ記事となります。未読の方は前編から読まれることを推奨させていただきます。
緑豊かな井の頭恩賜公園で、ある男性の遺体が発見された。
35才の被害男性は27パーツに切り分けられ、24の袋に梱包され、7箇所のゴミ箱に遺棄されていた。
殺された動機、切り分けられた理由、殺害に至った状況、それらのほとんどが謎――まったく解明されないまま、事件は2009年4月23日午前0時に公訴時効をむかえ、永遠の迷宮にその籍を置くこととなった。
世にいう『井の頭公園バラバラ殺人事件』である。
当サイトの熱心な読者諸兄におかれましては――この事件について以前、オカクロ特捜部名義で洋泉社『殺しの手帖<実録>平成の未解決・未解明事件の謎 (洋泉社MOOK)』に記事を掲載させて頂いたことをご存じかと思う。
が、こちらとしても諸兄がぜんぜん本を買ってくれなかったのを存じておるのですよ? ひどいじゃないすか。
財布のヒモは堅いのですね。股間の方はフニャフニャなくせに。
「いやさ下品なのはやめろ。だいたいサイト内の『井の頭バラバラ殺人事件―迷宮の深淵から』のほぼ丸写しのくせに偉そうなことを言うな、お前は」
などとの真っとうな批判もありましょうが、諸兄がぜんぜん買ってくれないせいで続刊の誘いすら来なくなったのですよ?
当サイトの拙い記事はともかく、他の記事は本当に良いモノばかりですので、また気が向いたら買ってくださいね。「伊勢女性記者行方不明事件」「佐賀 水曜日の絞殺魔」など、未解決事件に興味のある諸兄ならきっと満足してもらえる内容かと。
他愛ない恨み節はともかく、事件の概要をご存じない方、または『井の頭バラバラ殺人事件―迷宮の深淵から』を未読の方はそちらから読まれることをおすすめします。こちらは新証言をもとにした追記・補足・補遺編となります。
2017年10月の末。
神奈川県は座間市にて、日本犯罪史上に残るであろう事件が発覚した。
27歳の男が夏の終わりから秋までの短い間に9名もの男女を殺害し、その遺体を詰め込んだクーラーボックスと共に狭いアパートで暮らしていた――いわゆる『座間9遺体事件』である。
被害者、そして加害者に関する報道が連日のように様々なメディアを飛び交い、世間はその凄惨きわまる事件に釘付けになった。
神奈川といえば平塚市のアパートでの5遺体が発見される事件が10年ほど前に起こっているが、今度は座間市で9遺体である。神奈川だか神無側だかわかったモノではない。
ともかく、過熱ぎみとも思える報道合戦のさなか、この座間で起こった猟奇事件がある人物のなかにあった『忘れかけていた、ある出来事』の記憶を想起させた。
それは、その人物が吉祥寺で体験した1994年春の記憶である。
当時、井の頭公園の近くに住んでいたその人物は、その年、その春、その夜、非常に奇妙な体験をしていた。
ずっと忘れていたその夜の記憶が、今回の猟奇事件の過熱報道によりフッと蘇り、特捜部宛にメールをくれた。
1994年春の夜、つまりは『井の頭公園バラバラ殺人』が発覚――公園のゴミ箱から遺体が発見される前日の夜の話である。
個人情報保護の観点から、その人物の氏名はふせ、以後はZ氏とさせて頂く。同様に、これ以後に触れる住所なども特定されない範囲にとどめる。
Z氏から頂いた情報――あの夜の追憶を元に、もう一度事件に違う光を当ててみよう。
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或る夜の出来事
1994年、4月22日の夜、当時まだ少年だったZ氏は兄とともに井の頭公園にほど近い、実家の2階にいた。氏はフジテレビで放送されていた『プロ野球ニュース』を見終わったあと、兄と2人でテレビゲーム『ファミスタ』を遊び始めた。
4月とはいえ蒸し暑い夜で、部屋の窓は網戸にしたうえで開け放されており、通気が良い状態だった。
すると、どこからともなく漂ってくる、何か――異様な臭いが鼻をついた。
Z氏と兄は
「なんだこのニオイは。くさいなぁ」
というようなやりとりを交わして、窓を閉めた。臭いの入り込んでくる原因が窓外にあると考えたからだ。
Z氏が兄とともに嗅いだ異臭。それは以下のように描写されている。
Z氏は「私だけではなく兄も全く同じ感想を持っており、単なる勘違いなどでは消化出来ない」とし、臭いが漂ってきたのは南側の窓――ちょうど氏の公園方向にあたる側だったという。その時にまず思い付いたのが、髪が焼ける匂い。
子供の頃、ストーブやライターで火遊びした時に髪の毛を炙ると物凄く嫌な匂いがするのを私と兄は覚えており、その匂いがしたと刑事が2人来た際に伝えました。
独特の臭気をして、絶対に勘違いや間違いではないと断言する。
家にやって来た警察に『臭気』の話をした――とZ氏は回想するが、すくなくとも、少なくない量の当時の新聞記事あるいは雑誌記事、書籍、などに目を通した調査者として言わせていただけば、それらのなかに『髪の焼ける臭い』に触れたモノは無かったように思う。
これはZ氏を疑うわけではなくて、話が『一部の警察官』にしか露出されなかったため、こんにちまで表に出なかったのだろうと推察される。
井の頭のケースにおいては10月21日付けの東京新聞によるスクープ「杉並区久我山のコンビニで大量のゴミ袋を購入する2人組」なども、コンビニ店長が警察に通報していたが捜査本部に情報が届いておらず、捜査本部が新聞記事で重要証言を知る――という失態をおかしてもいる。
諸兄もご存じの通り、警察は『見立てと違う』情報を軽視ないし無視することがしばしばある。だがこれは仕方のないこと。
別に警察の肩を持つというワケでもないが、捜査に裂けるリソースは限られており、ある程度の方向性は必要だ。この井の頭のケースについて言えば、事件の発覚以後から現在にいたるまで主軸――方向性の中心にあったのは『切断』『バラバラ』であり、『焼却』ではない。
「ギコギコと、ノコギリをひく音が聞こえた」
という露骨なモノならともかくも
「髪が燃える臭い」
に関しては軽視されても仕方ない状況・情報だったと言える。くわえて子供の言うこと――と取り合わなかったのかも知れない。
しかしながら事件から24年が経過し、情報がある程度得られた現在においては、髪――『頭部の焼却処分』はけっして荒唐無稽な発想でもない。
先行記事で触れたように、被害者である川村さんの頭部と胴体はいまだ発見されておらず、その行方は杳として知れない。
腕や足と違い、『22センチ』という『郵便ポスト型のゴミ箱の投入口』に合わせて切断しがたいのが頭部と胴体。
ゴミ箱の投入口サイズに切り分けることが不可能――というワケではないが、人間の頭部や胴体などというものは、ハムのような構造ではなく、中には色々なモノが所狭しと詰まっており、手足に比べてたいへんな労力・精神力を要求されるのは想像に難くない。
こうして考えると、遺体の処分に困った犯人が、もてあました頭部と胴体を灰になるまで燃やそうとした可能性――『埼玉愛犬家殺人』よろしく『ボディを透明に』せんとした可能性はけっして低くない。
遺体に火をつけたという部分をして、未解決事件に造詣の深い諸兄なら『島根女子大生バラバラ事件』を想起されるかも知れない。あの事件でも犯人が被害者の胴体に火をつけた形跡が確認されている。
埼玉愛犬家のケースでは、犯人の関根元および風間博子の両名は『遺体を燃やしたときに出る臭気』を気にして、なるべく遺体を細かく分別したのちに焼却している。
「殺しのオリンピックがあったら俺が金メダル」などとうそぶく悪漢関根ですら、人体を燃やしたときに生じる煙や臭気のケアにはかなり気をつかっていた。
遺体の処理に困って焼く――というのはそうそう珍しい行為でも、突飛な行動でもないようだ。
若かれしZ氏も当時「焼却炉を持っている家」を怪しんだと言う。現代では住宅状況の変化やゴミ処理問題、ご近所問題などのせいか、あまり焼却炉を庭に設置している家を見ないが、当時はまだゆるい時代ではあった。
正面から投入し、着火して蓋を閉めればかなりの高温が得られ、効率的にゴミの処分が出来た。
もしかしたら、井の頭の犯人は焼却炉を使って――あるいは庭先での野焼きにて手元に残った遺体パーツを処分したのではないか。
程度のひくい思いつきを言えば、発見された遺体パーツに施されていた『毛細血管にいたるまで徹底された血抜き』に関しても『焼却』と関連するかも知れない。
人が燃えると得も言われぬ異臭がする――というのは戦地帰りの者や火葬を身近に体験した者の口からよくきかれるが、この異臭を発生させる要因のひとつに『血液』も挙げられるからだ。
「焼き肉はいいニオイするのに、なんで人肉は臭いんだ?」
と、こんな疑問を食いしん坊な諸兄は思いうかべるかも知れない。これに関しては、国内で流通している食肉は基本的に血抜きなどの下処理が施されているためで、残念ながら『燃やした場合』の比較対象としては適当とはいえない。
しかしながら、下処理をちゃんとすれば、人間の肉も――
などと、ちゃんとしたオカルトサイトなら下品かつ浅はかに掘り下げるのが常道なのであるが、思慮深く上品なオカルトクロニクルとしては触れない。
また敵を作るような冗談はともかくも、犯人が『臭気』を気にしたため、わざわざ手間のかかる血抜きをおこなった可能性はなきにしもあらず――かも知れない。
とりあえず以下に周辺地図を用意した。
地図中、赤いサークルで囲った『地区X』が異臭のした場所となる。
Z氏の個人情報保護のため、かなり広範な地域を囲ませてもらっているが、この地区X内に異臭が漂ってきたZ氏の実家、そして被害者である川村氏の自宅も含まれる。
このあたりは閑静な住宅地になっており、比較的広く立派な住宅が建ち並んでいる。地図中央を横切る井の頭通りは深夜でも車両や歩行者の往来があるものの、地区X内は深夜になれば閑静すぎて人通りも少ない。
川村氏は通常、通勤に東西線を使っていたため吉祥寺駅から地区X内を横断する形で帰宅していたが、1994年4月22日には帰らなかった。そして、それからもずっと。
自宅まであと少しという場所、この地区X内で何かがあった――とするなら、犯人はやはり歩いて井の頭公園内に入り、遺体を遺棄して回ったと考えるのが妥当だろう。
地区Xから人の目を忍んで井の頭公園内に侵入できるポイントも幾つか存在している。
当夜、川村さんの身に何があったかは犯人のみぞ知るところではあるが、もし犯人が地区Xに住んでいた者で、処理に困った頭部を焼いたと仮定したとき、これまでに確認されてきた事実と齟齬は生じないか?
あるいは新しい発見、浮かび上がる何かはないか?
次ページでは時系列や他データと照らし合わせて、その夜の出来事にもう一歩迫ってみよう。