静かな日々の怪談を
前ページで触れた詳細をみて、気になった諸兄もおられるかもだが、この事件『全員が自殺』というわけではない。最初に亡くなった板金工のA、その次に亡くなったB。彼ら2人はともに事故死である。
Aに関して言えば、一ヶ月以上も先行して亡くなっており、『連続』と評価して良いかも微妙なところである。
とはいえ、B以降は一週間ごとに死者が出ており、5人全員が自殺ということになっている。
不可解な出来事が起きたとき、その原因が追求されるのは当然の成りゆきで、この熊取連続怪死についても様々な原因が唱えられた。
一つずつ見ていこう。
閉塞した社会のせい説
うかつなことを言えない大人は、この説を唱えるしかない。当時は平成バブルがはじけた時期と重なり、社会不安が多くあった。それが『出口のない閉塞感』となり、感受性の高い若者たちが自ら命を絶ったのだ、という。
不謹慎ながら、うかつなことを言えるオカルト・クロニクルとしては、このような論説は「新味に乏しく、毒にも薬にもならない」と言わせていただく。
そのうち、ボタンを押したら「社会ノ閉塞感ガー! 全体ノ問題トシテー!」とケレン味たっぷりに解説してくれるロボットが登場して、量産型コメンテーターを駆逐してくれるはずだ。何十年も同じ言説で通用するため、アップデートする必要もない。池上さんは別として。
……生意気言ってすいませんでした。
『閉塞感』だけに原因を求めるというのなら、力があり、暴走族をやっていた彼らより、もっと息苦しい環境にあった若者もいたと思うのですがどうでしょう。
ともかく、そんなマクロな話じゃなく、もっとミクロに事件を見てみよう。
暴力団介入説
この熊取連続怪死事件の真相だと、まことしやかに語られている説である。この事件を調べる者は、必ず「ヤクザに殺された」という言葉をどこかで拾うことになる。
ライターの鶴見済氏が現地取材しており、そのルポが収録されている『無気力製造工場』には当地の青少年(?)たちが、なにかに怯えている様子も描写されている。
流布されている噂の内容としては、少年たちが暴力団組長の娘を集団で暴行し、その報復として1人ずつ殺されたのだという。いつかどこかで聞いたような話ではある。
当時、熊取を含むこの地域では、関西新空港の利権目当てで暴力団関係者が増えていた。少年たちのシンナーを都合したのも、暴力団だったという。
では実際に暴力団によって消されたのか?
今まで得た情報を元に考えれば、どうも怪しい。
①『風』のメンバーだけならあり得ない話ではない。だが、生前の彼らの口から『ヤクザに殺される』という言もなく、後追いした者たちも、自分より先に死んだ仲間の死を不思議がっている。思い当たるフシがあれば、少しは言及するのではないか。『白い車』にしても、それを不審がりはするも、ヤクザだと疑っていたと様子はない。
②死に至った状況を振り返れば、Aは仲間と池の中、Bは自宅の自室でそれぞれ心不全で亡くなっており、どうにもヒットマンがヒットするにしても難度の高い場所と死因である。
暴力団が関与した可能性があるとすれば、作業員K、無職Y、旅館従業員Tの3人。女子高生Gと公務員Fの死は偶然ということになる。熊取3人怪死。
③暴力団にしては、回りくどい方法を取っているように思える。事後の状況からして殺害が『見せしめ』にもなっておらず、ヤクザものの意図がわからない。町内では人目につく可能性もあり、報復として『見せしめ抜き』で消したいだけなら、誘拐して山中で処理するのがスマートなのではないだろうか。闇金ウシジマくんではそうしてましたよ。
④『白い車』の関与が疑われたのは事実であるようだ。鶴見氏のルポにも警察も白い高級車を中心に聞き込みをしていたという記述がある。(結局、関連性ナシとして処理された)
もし『白い車』が暴力団だったと仮定しても、犯行に至るまでに時間をかけすぎているように思える
⑤公務員Fと女子大生Gが暴行に関与したとは考えがたい。
と、なんだか上手く嵌らないピースが多い。
とはいえ、暴力団説がデマだと切り捨てる根拠もない。
オカクロも頑張って考えたので、仮説を聞いて下さい。
事件に無関係だったと思われていた公務員Fと女子大生Gは、じつは共通点があった。それは『陸上競技』である。ふたりはトレーニングのために、同じようなコースをジョギングしており、その際にたまたまTの殺害現場を通り、見てはならぬ、聞いてはならぬ事を――。
イマイチであるし、ほんとは暴力団説に懐疑的なのでやめておく。
似た噂で、『少年たちがヤクザものの車から、違法な薬物を盗んで追われていた』というものもある。
だが、これも上記⑤同様、ヤクザのアクションが遅すぎる。資金&ビジネス&メンツに関わることであろうに、車から見つめるだけで半年も手を出さないとは考えにくい。
ヤクザものが、「冤罪を起こさないよう、合法的に、キチンと、地道に『盗難ないし暴行』の証拠を集め、ヤンキーグループの容疑を固めようとしていた」というならあるいは、である。
七人塚の祟り説
やはり、こうでなくてはいけない。オカルト的視点でネットを見れば、熊取に関連して拾えるキーワードが『七人塚』『自殺村』『皆殺しの館』『首吊り山』少し離れて『犬鳴峠』となかなか充実したラインナップとなっている。
この事件に関連するのは『七人塚』だ。まがりなりにもオカルトサイトとして、真摯に向き合いたいと思う。
七人塚というのは落ち武者など非業の死をとげた者を祀るために立てられた塚である。
ちょうど、この事件の死者も七人。これは、偶然なのか。それとも……。
これに関して面白い事を書いているサイトを見つけた。
『文殊菩薩と慧光童子の痣授かる四乃四四こと真言密教僧殊慧が悟りを教える』というサイトだ。とにかく、長い。
コピペ厳禁! したら祟られる! と書いてあるので引用も出来ないが、このサイトの管理人である文殊菩薩と慧光童子の痣授かる四乃四四こと真言密教僧殊慧さんによれば、熊取の七人塚の周囲には霊的なものがウヨウヨいるらしい。
熊取で撮れたとおぼしき心霊写真も沢山貼ってありますので、興味ある諸兄はどうぞ。長い髪の女の心霊写真ソレっぽい。
ちなみに取り憑かれれば必ず死ぬ、って書いてます。法要しなきゃまた誰か死ぬとも書いてます。
熊取の7人もこの祟りにやられたのだろうか……。
と、ちゃんとしたオカルトサイトっぽく煽っておいて申し訳ないが、別に七人塚は熊取だけでなく、全国に点在する。その七人塚全てで七人の死者が出てるならミステリーであるが、そんなことはない。
そしてコトバンクに引用されている渡辺昭五『七塚考』によれば七人塚よりも多い八人塚や、十三塚というモノもあるそうだ。祟りのエネルギーを数だけで単純に考えれば、十三塚は七人塚の2倍近く強い。
サッカーにおいてピッチから1人抜けるだけで大幅に不利になることを思い返していただければ、数の論理は言うまでもないだろう。
ともかく、死んだ彼らが肝試しに行って塚に悪さをした――などのストーリーがあれば調べる側として奮起するのだが、資料を当たった限り特にそういった事実はなさそうだ。
あえて、もっとオカルト的見地に踏み込んで、この事件を『七人ミサキ』の呪いと考えるのはどうだろう?
七人ミサキとは、水難で亡くなった者たちの怨霊で、七人が一列になってやってくる怪異だ。
そして、誰か1人を祟り殺すと、先頭の者が成仏し、祟り殺された者が今度は最後尾に並ぶという。そして1人も増えず、1人も減らず、七人組のまま永遠に彷徨い続ける。
実に怖い。
実際、最初に亡くなったAは水難事故である。
ちなみに、浅学なオカクロ特捜部は知らなかったが、上記サイトによればブログにも結界が張れるらしい。
なんだか原理がよく解らないが、オカクロもそのうち張ろうかなと思う。
サーバーのレベルから張るのだろうか。それともPHPやCSSに記述しているのだろうか。すごく興味深い。
とはいえ幽霊でもアクセスしてくれたら嬉しいから、やっぱり結界はやめておきます。
こんなこと書いて、オカクロ特捜部は祟られるかも知れませんね。
この項を最後にオカルト・クロニクルの更新がパッタリ途絶えたら。「ああ、オカ番まつかく、『野垂れ死に』ならぬ『たたれ死に』したな。馬鹿だけど、イイ奴だった」と数秒の黙祷ぐらいは捧げてやって下さい。
最後尾で待ってます!
七の儀式説
上記の『祟り』がライトなオカルト話だとすると、こちらはヘヴィかつディープである。
『告発の書』というのをご存じだろうか。
これはネットで読める怪文書で、出所はハッキリしない。オウム真理教の機関誌編集部宛に送られてきたともあるが、真偽は不明である。現在は阿修羅さんで公開されているので、我こそはという諸兄は読んでみてはいかがだろうか。
【告発の書 本文】
この告発の書は、ザックリ言うと「この世界は悪によって支配されている」という内容で、様々な事件を引き合いに出してその論証を行っている。いわゆる陰謀論だ。
執筆したという岩永天佑なる人物は、自身をして「オウム関係者ではない」と本文の中で明言しているが、オカクロ特捜部はオウム関係者が書いたモノだと考えている。
ともかく凄まじい熱量を持って書かれているので、胸焼けは必死である。
その『告発の書』の中で、この熊取の連続自殺が触れられている。
記述によれば、これは儀式殺人であり、そのヒントが『殺した側』からキーワードとなって示唆されているという。
それが『七』だ。この7という数字がこの事件を解き明かすヒントとなる。
では書で取りあげられている事件と、登場する『七』を告発の書を元に簡単に整理してみよう。
告発の書では、この松野愛子ちゃん事件と飯塚事件をまとめて、『七山路線バス連続象徴殺人』としている。
と、以上のようなことになっている。実に疲れた……。
どうだろうか。これは偶然だろうか。いや偶然ではない。これは儀式殺人なのだから――。という主張である。
『告発の書』という怪文書は『ポエド委員会“7山(路線バス)連続象徴殺人”報告書』という名の怪文書を引用しているが、怪文書を引用する怪文書というのもなかなか趣深いものである。
趣はともかく、真偽はいかに。
これに関してオカクロ特捜部は真摯に色々と調べたが、やはり怪文書の域を出るモノではなかった。
提示された事件について幾つかの事実の歪曲が認められる。
そのうち別項でやろうかとも思うが、1つだけ触れておくと、『七山路線バス連続象徴殺人』というのは歪曲である。
たしかに北九州に『七山路線』は存在するが、事件のあった飯塚周辺には通っていない。1990年代の当時の路線がどうであったかキチンと調べる必要はあるものの、『七山』自体が福岡県でなく、佐賀県に位置しており、事件のあった場所とかなり距離がある。
ここでマッピング大好きなオカルトクロニクルとしては、以下に北九州の地図を用意した。九州大好き。
どうだろうか。これはバス停に停まるような路線バスが行き来するには、少しばかり遠すぎやしないだろうか。
揚げ足を取るようなマネで心苦しいが、もうひとつ。
告発の書では『七』という数字が入るバス停や路線、地名をキーワードとして随所に登場させている。
だが『七』が含まれるバス停は福岡県内で22カ所。全国では579カ所ある。
市名がダメなら、町名、町名がダメなら字、字がダメならバス停、バス停がダメなら人名、年齢、建築物――と探してゆけば日本で起きた事件の10%ぐらいには『七』を見つけることが出来るのではないだろうか。
熊取の事件にしても、確かに『熊取七山』は存在する。が、そのようわからん組織が儀式として『七』にこだわるなら、熊取での最後の死者であるGさんが亡くなる日付をなんとしても『7月2日』ではなく『7月7日』にするのではないだろうか。
そして、告発の書では事件現場を『七山病院前』としているが、七山病院は『自殺が連鎖した1.2km圏内』から大きく外れた場所に位置しており、最も近い自殺現場でも2㎞以上は離れている。2kmの距離を『病院前』とするのはいささか鷹揚すぎやしませんか。
とまぁ、揚げ足取りでしかないが、この『告発の書』は今ひとつも今ふたつも信憑性に欠ける文章であった。……イマイチな点を数えていったら『今ななつ』になるかも知れないが検証はしない。
飯塚周辺に住んでおられる方で、「適当なことを言うな! 七山路線はあったぞ!」という情報をお持ちの諸兄がおられましたら、メールフォームかtwitterからご連絡下さい。訂正して謝罪し、再度リサーチします。
いやーしかし怪文書っていいですね。えもいわれぬロマンがある。
2、3興味深い事実もあるので、いずれ『告発の書』に関してはキッチリ検証するかもです。
原発の闇説
熊取には、原子炉実験所がある。
その名の通り、原子炉についての研究を行う施設で1963年4月に設立されている。
そこに所属する『熊取6人衆』と呼ばれる研究者たちが有名で、「原発は安全! クリーンである!」と他の学者たちが声高に叫ぶ中で、その6人は原発の危険を訴え続け、異端の研究者とまで言われた。結果として東日本大震災の以後『良識派の学者』として注目を集めている。
この『原発』が怪死事件とどう繋がるのか。これを見ていこう。
ちょうど、この熊取怪死事件が起こった少し前、愛媛県は西宇和郡伊方町で原発誘致を巡ってのイザコザが起こっていた。
誘致に反対する地元住民と、安全性を主張する賛成派の間の対立は、法廷に持ちこまれることになる。
熊取6人衆はこの争いに反対派陣営に協力する形で深く関わっていた。
最高裁まで持ちこまれた争いは、1992年に判決が出されることになっており、ちょうど熊取連続怪死事件の時期と重なる。
小池壮彦氏に言わせれば
まるで熊取の原発反対派を恫喝するようなタイミングで怪死事件が勃発していたのである。『怪奇事件の謎』より ということだ。
日本の注目が原発問題に集まっている時期に熊取で連続怪死事件が発生し、週刊誌や新聞がそちらを大きく報じたため、相対的に原発問題への注目が薄れた。
その流れが影響したかどうかは別として、結果、裁判は原告側(反対派)の敗訴に終わり、伊方原発は稼働する。
時を同じくして1992年。熊取の原子炉研究所も存置と廃炉を巡ってモメている。
地元住民は廃炉にすべきという強硬姿勢であったが、ちょうど7人目の死者がでた1992年4月、京都大学が運転継続を決めている。熊取の怪死がなんらかの圧力であったのではないかと言う話だ。
伊方でも誘致派による買収劇に起因する人間関係のトラブル、自殺、警察による不当弾圧などがあったとされ、闇の存在をうかがわせる。
ここで『怪奇事件の謎』で触れられている斉間満著『原発の来た町 原発はこうして立てられた』を紹介しておく。
この著作は南海日日新聞社から刊行され近年には絶版となっていたが、反原発運動全国連絡会の「多くの人に読んで欲しい」という働きかけで、本人の許可を得た上でネット上に公開されている。
「なんだよ! 原発の陰謀とか、馬鹿なヨタ話なんて聞きたくない!」と諸兄は憤るかも知れない。だがコレを読む限り、裏工作は行われていたようだ。
・原発誘致の記事を書いた他社に先立って書いた記者が記者クラブから出入り禁止。どこからの指示かは不明だが、行政+四国電力の発表をもって一斉に報じなければならないという協定があった。内密に現地調査などが行われていた。
・反対派の雄であった漁師Aが急に態度を軟化させ、仲間から「金を掴まされた!」と非難される。
もちろん事実無根の噂だとされていたが、後に流出した四国電力の極秘資料に反対派全員の個人情報が事細やかに書き込まれており、その中のA氏の記述が「△▽の弟、□◎といとこ、反対共闘委との結び付きが強く最後まで反対すると思われる。自分の存在を認めてもらいたい性格で、簡単には後には引かない。最終的には金と考えられる」
書き出したらキリがないので、このへんにしておく。
当時の記者たちが追った『出来事の裏』が淡々と書かれており、なかなか興味深いので、時間があるときにでもどうぞ。
少なくとも、『クリーン』なやり方ではなかったようだ。
熊取六人衆も結構な嫌がらせを受けていたらしく、原発利権の闇は深そうだ。
ご存じ『福島女性教員宅便槽内怪死事件』や『東電OL殺人事件』も原発がらみという指摘がある。
ちょうど、原発に問題が発生した時期に、スケープゴート的な事件が起こるという。
ちなみに、熊取では2003年5月に『吉川友梨ちゃん行方不明事件(未解決)』が起こっているが、この時期も原発事故隠しが発覚したため、全原発が停止になる事態が発生している。
では、熊取町7人連続怪死事件に原発利権が関係するか?
残念ながら、わからない。
何かしらそれを示唆する資料が流出すれば調査もできようが、現状で物証はなく、あくまで推論なり噂なりの域を出るモノではない。
とはいえ『福島女性教員宅便槽内怪死事件』や『東電OL殺人事件』のように、当事者が原発関係者だったならあるいは、であるが完全に無関係な7人の命を奪ってまで行われた裏工作があるとは、にわかには信じがたい。
こんなこと書いて、またオカクロ特捜部は消されるかも知れませんね。
この項を最後にオカルト・クロニクルの更新がパッタリ途絶えたら。「ああ、オカ番まつかく、消されたな。馬鹿だけど、イイ奴だった」と数秒の黙祷ぐらいは捧げてやって下さい。
涅槃で待ってます!
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この支配からの卒業
この事件を偶然として片付けるなら、以下のようになる。
A=事故。
B=事故。
Y=自殺。仲間たちが成長、変わって行く中で、先に進めない自分を悲観。
K=相次いで仲間を失った事によるウェルテル効果、悲観、突発的自殺。死に場所に選んだのが『いつか買い戻そう』としていた、以前住んでいた土地である事に注目。
T=ウェルテル効果。仲間の死と失恋に直面したことにより突発的な抑鬱に包まれる。
F=全く無関係な自殺。
G=……。町内で自殺が連続した事によるウェルテル効果?
Kの母親が首を吊ったKの状態をして「あり得ない様子だった」と主張するのは、つまり、「死後硬直によって体が固まってから何者かによって吊されたのではないか」という事を意味するのだろうが、これは何とも言い難い。
不自然に思えるほど体が硬直していたとすると、死後15時間以上は経過していると考えるのが自然で、死亡推定時刻の『10日午前1時頃』から計算すると、硬直に要する時間が足りない。
それより前に死んでいたならば、あるいは、であるのだがKは『9日午後11時』に父親と電話で通話しており、死亡推定時刻はさかのぼれない。
『第三者による殺害』の可能性を否定するわけではないが。
『風』の3人、無職Y、作業員K、旅館従業員Tに関して、当時のシンナー仲間による以下の述懐がある。
「あれ(シンナー)をやると、普通では考えられんような理屈に動かされることがある」と、彼は言った。たとえば塀の外にこちらからは見えないが、「人が死んどる」ような「感じ」がする。そこへたまたまカラスが飛んできたりすると、「やっぱりや」と思い込んでしまうようなことがある。
それと同じパターンで、YやKやTには「どないに頑張って仕事しても、俺ら結局あかんのと違うか」みたいな「感じ」があって、シンナー仲間の一人が死んだとき、頭に飛び込んできたその「やっぱり」に動かされてしまったのではないかと。
『不思議ナックルズ』より当時の友人の証言 調べてみれば、シンナーに起因する奇妙な自殺はたびたび起こっている。
1987年北海道白老町でシンナー仲間5人が連続自殺しており、熊取の事件と同年1992年12月には茨城県水戸市で女子中学生5人が、マンション7階から次々に飛び降りた。そのうち内3名が死亡している。この事例ではリーダー格の少女がある施設を抜け出し、仲の良かった仲間たちを呼び出してシンナーを吸っていた際「救護施設に戻ったら罰を受ける」と悲観し始め、そして「それならみんなで死のう、ということになった」という。
他にも前後5年だけでも結構な数のシンナー自殺が起きている。
様々な自殺を取りあげた『十代の遺書 昭和~平成・自殺流行史』に同じようなシンナー起因の事例が多々紹介されている。
どの事例を見ても、通常の理屈からは量れない論理に支配されたことがうかがえる。
旅館従業員Tも熊取に戻ってきてシンナーをやっていた。そこにショックを受ける出来事が重なり、心をむしばんだ悲観がシンナーによって倍加された――と考えるのは不自然ではないだろう。
後ろ手に縛られた手も、『通常の理屈からは量れない論理』によるものと考えることが出来る。
だが、女子大生Gは毛色が違う。
自殺を図った状況、環境、パーソナリティ。それが『風』連中と明らかに異なっている。
シンナーの影響下になく、人通りのある場所で自刃自殺、「違う、違う」という最後の言葉。これはまったくもって不可解だ。違和感アリアリである。
『ためらい傷』が自殺の根拠とされたようだが、最後の女子大生Gだけは、連続自殺として片付けるべきではなかったのではないだろうか。
彼女は7月2日の自殺当日、事に至る数時間前にはスーパーで買い物しており、このスーパーで果物ナイフを買ったというなら自殺の根拠にもなろうが。もちろんそう言う話は伝わっていない。
警察は遺族のためにも閉じた事件の捜査資料を公開して欲しいモノである。
この最後の女子大生だけは、別の事件であるように思われてならない。
最後に発せられた「違う、違う」という言葉の意味は「私は、連鎖自殺じゃない」という意味に捉えてしまうのはオカクロだけではないはずだ。女子大生も自殺が続いていることは知っていたであろうし、疑念は深まるばかり。
とはいえ、もちろん証拠があるわけではなく、根拠は『違和感』だけしかないが。
と、なるべく常識的に事件を組み立てても、『白い車』『黒い車』『違う違う』『高枝のシャツ』という幾つかの不可解な謎は残ってしまった。まったくもって謎である。なにか情報がありましたらお寄せ下さい。
最後になったが、この事件の資料を眺めていて、興味深かったのが『証言』だった。
怪奇探偵こと小池壮彦氏や週刊誌がこの事件をして「日本のツインピークス」と表現していたが、そう言いたくなる気持ちもわかる。
ツインピークスは1990年に放送された海外ドラマで、遺体となって見つかった被害者ローラ・パーマーを調べてゆくと、優等生だった彼女が人々に見せていなかった闇の部分が、次第に明るみになってゆく筋書きだ。
そんなツインピークスを熊取事件に重ねたのは、ちょうど流行していたというだけという理由かも知れないが、少し重なる部分もある。
亡くなった7人に関する証言を追ってゆくと、首を傾げたくなる証言が散見されるからだ。
たとえば、作業員Kの姉は、「弟KとYは別に仲の良い友人じゃなかった」と言い、その一方で「大親友だった」という証言があり、「K、Y、T、A、Bは、いつでもつるんでいた」という証言もあれば「バイク仲間ではあるが、遊びはそれぞれ別のグループだった」ともいう。
誰が正確に彼らのことを証言しているか、今となっては調べようもない。
人は様々な面を持っていて、それらを使い分けて生きている。「誰かのことを知っている」と考えるのは傲慢なのかも知れない。
同時に、自分の事を理解してもらえているというのも空想なのだろう。あなたが死んだとき、誰が正確にあなた語るだろう。
悲しいけれど、孤独だけれど、そうやって社会は回っている。
それを閉塞感というならば、頷けなくはないけれど。
■参考資料 ・事件のはじまり―現在(いま)という出来ごと ・無気力製造工場 ・自殺者―現代日本の118人 (幻冬舎アウトロー文庫) ・10代の遺書―昭和~平成・自殺流行史 ・怪奇事件の謎 (ムー・ノンフィックス) ・あの事件・事故に隠された恐怖の偶然の一致 ・日本人を震撼させた 未解決事件71 (PHP文庫) ・コールド・ケース 未解決File1「連続児童自殺事件」 (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ もっと!) ・完全自殺マニュアル ・平成日本を震撼させた 重大事件未解決ミステリー (PHP文庫) ・日本“怪奇”伝説 (不思議ナックルズ・恐怖コレクション) ・熊取町史 ・「事件」を見にゆく (文春文庫) ・熊取六人組――反原発を貫く研究者たち ・熊取六人衆の脱原発 ・群発自殺―流行を防ぎ、模倣を止める (中公新書) ・週刊文春 1992.7.30 ・不思議ナックルズ vol5 2006.5.25 ・女性セブン 1992.7.30 ・微笑 1992.7.25 ・FLASH 1992.7.21 ・週刊朝日 1992.7.17 ・FOCUS 1992.7.17 ・怖い噂 2009.8・2011.8 ・新聞研究 (494) ・犯罪月報, 第 2~4 号:古書 ・原発の来た町:PDF ・★阿修羅♪:告発の書 ・大阪熊取町 謎の連続自殺 ・オワリナキアクム:大阪府熊取町の謎の連鎖自殺 ・文殊菩薩と慧光童子の痣授かる四乃四四こと真言密教僧殊慧が悟りを教える:■名指しシリーズ)一週間に一人づつ若者を自死(自殺)させた祟り!自殺村■忘却の七人塚【罰】四乃四四12