群盲象を評す
2009年、世田谷一家殺害事件の遺族を中心とした「殺人事件被害者遺族の会」などが声をあげ、それは翌年の2010年に公訴時効の改正という形で結実した。残念ながら井の頭バラバラ殺人事件は改正前に時効を迎えており、その2010年時点でもう捜査は行われておらず永遠の迷宮へ入っていた。
殺人が絡む未解決事件に関して様々な『犯人説』が立てられるのは世の常だが、この事件はどうであったろうか。
ひとつずつ見てみよう。
やはり身近な人物によるもの説
バラバラ殺人のセオリー通り、被害者に近しい人物が怨恨ないし金銭目的に殺害、遺棄したとする説だ。
警察も当初から、この見立てで動いていたが、結果としてグレーな人物すらあげることができなかった。
未解決に終わったのはセオリーに固執したためでないか、という批判も資料に散見される。
とはいえ、指紋や掌紋の損壊、そしてバラバラと隠蔽となると身近な人物や利害関係にある人物に目を向けるのは当然といえば当然の捜査であるとも言える。
むしろ「そこがハズレなら打つ手なし」という捜査状況でもあったのだろう。
不慮の事故説
川村氏がなんらかの事故に巻き込まれて、その事故を起こした加害者が事故の発覚を恐れ隠蔽工作を行ったとする説だ。
これは近隣住民が聞いた「ドーン」という衝撃音がその根拠とされた。
吉祥寺駅から歩いて10分ほどの距離に川村さんの自宅があり、川村さんはそこまでの帰宅ルートで無軌道な若者なり男なりの2人が運転する自動車による人身事故に巻き込まれた。
この事故により川村さんは亡くなり、男たちは自らの将来を危ぶんで隠蔽工作を働いた。
この場合の『男たち』はいわゆる『ヤンキー』であったり『医者の卵』であったりする。
前ページで書いた時系列を読んで、同じような仮説を立てた諸兄もおられるかも知れない。
時系列に素直に目を通せば、たしかにそのようなストーリーが浮かび上がる。
・21日深夜に事故のような衝撃音。 ↓
・22日朝9時にゴミ袋を買った2人の男。 ↓
・23日朝4時にゴミ袋を持った2人の男。
そして、帰宅ルートとされる井の頭通りの路上にガラス片が散乱していた。
これは車のフロントガラスと考えられ、ここが『事故現場』なのではないかと報じられた。
こうして見ると、極めて説得力の高い説ではあるのだが、ひとつひとつを精査して行くと、幾つかの事実誤認がみとめられる。
まず、一番の根拠とされる『衝撃音』だが、ルポライターの朝倉喬司大先生による聞き取り取材によれば、この音は公園の方から――つまり井の頭通りの反対側から聞こえてきたそうだ。
つまり、少なくともガラス片と衝撃音は別々の要素であり、ひとつには繋がらない。
マンションの住人がいうには、音の聞こえてきた方向は、井の頭通りとは反対側、つまり公園サイドからだったのであり、これはマンションの構造上からいっても、そうとしか考えられなかった。
それを、たやすく「路上に散乱したガラス」と結びつけて、有力情報として打ち出すなど、どうにもほめられた話じゃないなと思ったことだった。
第一、行きずりの人間が通行人を車で轢いたとして、犯行隠蔽のもっとも手っとり早くたしかな方法は、そのままトンズラすることである。
(現に事故の目撃者はいないのだから、近くに人目はなかったとしか思えないのだし)
少年Aの犯罪プラスアルファ
衝撃音もガラス片も、のちの調べによって事件とは無関係だったことが判明している。
さらに、『22日の朝9時に大量のゴミ袋を買った2人組』も、じつは事件とは無関係だったのではないか――と後に報じられた。2人が買ったゴミ袋が、犯行に使われたモノと違う種類だったからだ。
「いや、それでも交通事故に遭った可能性は否定できないだろ!」
と諸兄は憤るかも知れない。
オカクロ特捜部としても事故説を徹底して否定するワケでもないが、これまで根拠とされてきたものが誤認であった以上、事故説に若干の見直しは必要かと思う。。
否定要素を挙げるようで心苦しいが、検死解剖の結果を思い出して欲しい。
検死では川村さんの死因が特定できなかった。
これは遺棄された遺体の部位に死因に繋がるような傷がひとつも見つからなかったからだ。
この事実が交通事故説を否定する一つの根拠とならないだろうか?
川村さんがなんらかの交通事故にあったならば、遺体に交通事故特有の損傷が残っていても良いはず。
いわゆるバンパー創やフロントガラスによる切創や打撲。見つかった手足にそういった痕跡が残るのではないだろうか。しかし、それらは確認されていない。
マインドをコントロール説
まことしやかに語られる説だ。つまりは何らかの宗教団体が関わっていた――とする。
検死解剖を担当した佐藤教授もその可能性を示唆されているので引用してみよう。
複数の人間が協力して、自分の役割を冷徹に遂行しなければ、このような遺体処理は出来ません。果たして犯人たちは何者なのか。私は強いマインドコントロールを受けた過激なカルト教団に属した人間たちではないかと考えました。
なぜなら、普通の人間であれば、遺体を切断し、処理するような作業をするとき、吐き気や頭痛が起こり、逃げ出したくなるような衝動に駆られるはずだからです。
私は真犯人を知っている―未解決事件30 解剖を終えた佐藤教授は、捜査にあたっていた警察官に名指しで『ある宗教団体』の名を告げたという。だがその話を聞いた捜査官は佐藤教授の見解に「いや先生、あそこはそこまでやらんでしょう」と返すにとどまった。
宗教団体の関与は『川村さん、またはその妻が新興宗教にハマっていた』という噂を伴って、根強く囁かれているがそのような事実は浮かび上がっていない。
が、1994年当時といえば新興宗教が様々な事件を起こし、各メディアで糾弾されていた時期であり、疑いの目が向けられても仕方がない事とも言える。
ちょうど井の頭での遺体発見から11ヶ月後には様々な疑惑追求から逃げ道を失い自暴自棄となったオウム真理教によるハルマゲドン――地下鉄サリン事件が起きた。
これをして「井の頭バラバラもオウムがやったのではないか」という説が週刊誌で取りあげられている。
川村さん、あるいは別の誰かの口封じを意図して実行された暗殺だったのではないか――。ということらしい。ちょうどその時期にオウムの在家信者が、川村さん宅に近いアパートに住んでいた事も触れられている。
「そこまではやらんでしょう」と当時の捜査官は言ったが、オウムの暴走を裁判や報道で知っている現代人としては、「当時のオウムならやったかも知れない」と少し身構えてしまう。
とはいえ、オカクロ特捜部としては身構えながらも『オウム犯行説』には懐疑的な立場を取りたい。
たしかにオウム真理教は殺人や過失致死により多くの人命を奪った。
だが、手口が違う。
オウムが人死に際して隠蔽工作を行ったのは判明しているだけで6件。
1988年9月22日、富士山総本部で修業中の信者が亡くなった真島事件。
1989年2月10日、男性信者殺害事件。
1989年11月、坂本堤弁護士一家殺害事件。
1993年6月6日、逆さ吊り死亡事件。
1994年1月30日、薬剤師リンチ殺人。
1995年2月28日、仮谷さん拉致事件。
これらの中で坂本一家の事件を除くいずれにおいても、遺体は必ず焼却し(註:初期は護摩法と称した野焼き、後期はマイクロ波加熱装置)骨も細かく砕いてから、湖に捨てたり風呂場の排水口に流したり――と念入りに隠蔽している。
これらは『遺体遺棄』というよりも、『存在の完全な抹消』を目指した印象がある。4人の命を奪った埼玉愛犬家連続殺人の関根元が言った「人間を透明にする」というベクトルと近い。
井の頭の事件でも、指紋や掌紋を傷つけて身元を隠そうとした意図が見えるが、オウムの徹底した抹消手法を鑑みれば、どうにも違和感が残る。
バラバラにしたとはいえ、人で賑わう公園のゴミ箱に遺棄しては画竜点睛を欠くというものだろう。事件が露見するリスクがある以上、隠蔽工作としては不完全だと言える。
そしてもう一点挙げるなら、オウムはターゲットを路上で襲う場合はサリンなりVXガスを浴びせるという手法を好んで採用している。
もし川村さんがその襲撃被害者であるなら、毒物の痕跡が遺体から検出されてしかるべきだが、佐藤教授は「毒物の痕跡はなかった」としている。
だがたしかに、オウムは別としても、新興宗教関与説には一定の説得力が感じられる。
『藤沢の悪魔祓い殺人』や『北九州監禁殺人』の例を並べるまでもなく、人は強烈なマインドコントロールや暗示下にあると、現実や善悪を正しく認識できなくなる。
酸鼻極まる猟奇的な所業が『聖なる行い』『徳を積む行い』と歪曲された例は枚挙にいとまがない。
新興宗教説が根強く囁かれる要因の一つに、『施設』も挙げられるだろう。
これは『バラバラにして、血抜きもできて、複数人が分担で作業できる場所』が無ければ、犯行は不可能だろうという推測に基づいている。
つまりは何らかの宗教団体の支部なり道場なりが使用されたのではないか、カルト教団なら『場所』も『ひと』も説明が付くじゃないか――というわけだ。
そして、中央線吉祥寺駅の隣駅である西荻窪は、日本でも屈指の新興宗教銀座――スピリチュアル界のロアナプラである事実もこの説に説得力を持たせている。
おそらく、いま諸兄らがそれぞれの脳裡に思い浮かべた様々な宗教団体、そのほとんど全てが西荻窪に拠点を持っている。
証拠も根拠も無いのにそれらの団体を名指しするワケにもいかないので、オカルトクロニクル特捜部としては「いや、あそこはそこまでやらんでしょう」と言葉を濁しておく。
臓器移植目的説
これもまことしやかに語られる。
ストーリーはいま諸兄が想像したものでだいたい合っていると思われるので割愛する。
これは都市伝説の類だとオカクロ特捜部は考えているので、深くは調べていない。
売買用の臓器を欲するならば、東京の中年男性を狙うより、途上国の子供を狙うほうが(言葉は悪いが)手っ取り早いのではないだろうか。大人の臓器では適合サイズという問題も出てくる。
臓器を抜くためには、それこそ『血抜き』や『バラバラ』以上の専門的な知識が必要で、スタッフや施設もキチンと揃えねばならない。
適合するドナーが川村さんだけだった――ならあるいは、であるが。
どうもこの線は薄いように思われる。
余談だが、当時すこぶる評判が悪い病院が吉祥寺にあり、臓器移植説や事故説と絡めてそこの関係者が事件に関与しているのではないか――という噂もあった。現在も名前を変えて診療を続けている。
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人違い犯行説
あまりにも不可解で、犯人に繋がる糸口も見あたらないことから、捜査の初期からその可能性が一部マスコミによって指摘されていた。
「ここまで犯行がチグハグなのは、本来のターゲットが川村さんじゃなかったから」
間違えて殺害してしまったが、とりあえず予定通りバラしてしまおう――。
こんな『裏』があったのではないか、そんな話だ。
そこに「私が真のターゲットだ」と名乗り出た人物がいる。名をエヌ氏としよう。
この話はライターの猪俣進次郎氏が様々な媒体で記事を公開しておられるので、目にした事のある諸兄もおられるかと思う。
ともかく、このエヌ氏は、当時露天商を営んでいた。海千山千の露天商界隈をまとめ上げるリーダー的な立場におり、縄張り争いでたびたびトラブルとなっていた『不良外国人露天商グループ』との折衝に当たっていたという。
このエヌ氏たち日本人露天商グループと、不良外国人露天グループはほとんど歩み寄りできないまま衝突し続け、やがてその燻っていた火種が大きく燃え上がることとなる。
日本人露天商グループがヤクザ者に外国人露天商グループの駆逐を依頼したのだ。
日本人露天商グループから利益供与を受けていた関西のヤクザ者が、いわゆるケツモチとして腰を上げ、外国人グループを襲撃する『X-DAY』が秘密裏に決定し、界隈のトラブルは一掃されるはずだった。
だが、直前になって『X-DAY』の情報が外国人グループ側に漏洩し、『X-DAY』は取りやめとなった。
そこで応報と言わんばかりに『逆X-DAY』が外国人グループによって行われた。
日本人露天商グループの元締めであったエヌ氏は身の危険を感じ、都内のホテルに潜伏したという。
ちょうど、その『逆X-DAY』の3日後、潜伏していたホテルのテレビで井の頭公園でバラバラ殺人があったことを知ったという。
そしてその殺人事件が詳しく報じられるにつれ、エヌ氏は「川村さんは、自分の身代わりに殺害されたのだ」と確信を深めていった。
川村さんの容姿が自分と瓜二つだったからである。
エヌ氏の後の情報収集で外国人露天商グループに外国人マフィアの息がかかった者がいたらしいこと、某国の諜報機関のメンバーがいたこと――も触れられている。
それらの勢力は情報収集を目的として来日し、露天商を行いながら様々な工作を行っていたのだ――と。
そして『商売』の邪魔をしたエヌ氏を抹殺せんとし、井の頭公園に遺棄することで『見せしめ』にした――ということらしい。
どうなんだろうか。
諜報機関だの海外マフィアだの秘密結社だのが出てくると、どうにも話半分で聞いてしまう。
この『エヌ氏人違い説』にしても『新興宗教説』にしても、しばしば『見せしめ』という言葉が出てくる。
その多くが『自宅近くの公園に遺棄するのは見せしめに違いない』という。
だが繰り返しになるが、オカルトクロニクル特捜部としてはこの『見せしめ』という意見には懐疑的だ。
見せしめというなら、指紋や掌紋を削り身元を判らなくしては意味がない。
だいいち、この事件は『たまたま』発覚したに過ぎない。清掃員の女性が猫好きの人物でなく腹を空かせた猫を気に掛けていなければ、そのまま遺体パーツは開梱されることなく焼却場へ送られ灰になっていた。
その場合、川村さんは行方不明者扱いとなり、猟奇的殺人事件と世間で騒がれることもなかっただろう。
犯罪で裁かれるリスクを冒してまで行った『見せしめ』――としては随分と消極的だと言わざるを得ないだろう。
そして本来報復される対象だったエヌ氏は生きている。
ほとぼりが冷めた――と言えばそれまでかも知れないが、本当に某国諜報機関なり闇組織が関与していたなら、事件報道で『人違い』に気付き、裏事情を知るエヌ氏の口封じに奔走するような気もする。
「この井の頭バラバラ殺人事件自体がエヌ氏への脅しになって、結果として口封じになったんだよ!」
と言われればそう知れないが、どうもスッキリしない。結果論であるし、結局メディアで喋ってるし。
やはり、スッキリしない。
とはいえ、エヌ氏に限定しなければ『人違い説』は様々な疑問にシンプルにアプローチできる説ではある。
エヌ氏もどうせなら、全て実名で告発して欲しい。
誰もしらない川村さん説
人違いでないとすると、川村さんに近親者や同僚さえ知らない裏の顔があったのではないか、という可能性も出てくる。
真面目な家庭人で、恨みを買うこともなかった川村さん。ゆえに『動機らしい動機』が見あたらず、捜査が難航した。だが、そんな川村さんに裏の顔があった――とすれば話は変わってくる。
これは朝倉喬司大先生が『井の頭公園・バラバラ猟奇事件のトポロジー』で書いておられる。
「なんで高田馬場から地下鉄東西線に乗らなかったのだろう。そのほうが近いのに。中野から中央線に乗り入れて三鷹まで行く東西線なら1本で行けるのに」
高田馬場で元同僚と飲み、お開きになったその後、山手線で新宿駅まで移動しそこで同僚と別れている。
川村さんは普段、港区内にある新しい勤め先まで東西線を使って通勤しており、本来なら山手線で新宿まで出る必要はなく、高田馬場から使い慣れた東西線に乗ればいいだけの話だ。
新宿駅で元同僚と別れたのが(本人確認が出来ている)最後の目撃証言で、新宿へ行ったのは間違いない。だがなぜ?
当時、K氏が主任に昇進したというので、高田馬場近くの以前務めていた会社の同僚が彼のために祝いの席を設けた。K氏はそれに出席し、終始なごやかに飲み、二次会でカラオケを二曲ぐらい歌って、会はお開き。そして山手線に乗ったというのだが、元の勤め先へは東西線で通っていたはずのK氏が、なぜそれに乗らなかったのか。自宅へ帰るだけだったら、通いなれた電車に乗ってもよさそうなものなのに、と首をひねったことだった。
K氏が山手線に乗ったのには、新宿あたりに何か彼だけの用事があったからではないかという推定がそこに生じる。
少年Aの犯罪プラスアルファ もちろん、「同僚との別れを惜しんで、少し遠回りをした」というだけの話かも知れないが、朝倉先生の取材によって興味深い話が浮上している。
川村さんと元同僚は、二次会で入った店で、以前その店で働いていた上海出身の女性のことを話題にしていた。
その上海出身の女性が新宿歌舞伎町で『D』というクラブのママになった――という会話を店内で交わしていたという。
もしかしたら川村さんは、飲み会が終わった後、その女性を訪ねるために新宿まで出向いたのではないか。そんな仮定が浮かび上がる。
だが、朝倉先生が『D』へ取材に行ったときには既に『D』は店を畳んでいた。ちょうど数日前の閉店――タッチの差で『糸』が断たれ、この上海ハニーへのそれ以上の追跡取材は行われていない。
朝倉先生はこの女性をして、『ナゾめいた存在』と評している。
この上海ハニーが何者だったかを掴むことは出来なかったが、資料をボンヤリ読み返すと、ちょっとした発見があった。
新潮の取材に答える川村夫人の言葉を引いてみよう。
(前略)
ただひとつだけ、警察の方から主人が寄り道をするところがあったのではないか、ということを聞かれました。会社の人に送ってもらったときに、途中でクルマを降りたことが2、3回あったそうなんです。それは私の全然知らないことでした。
場所は高井戸の方らしいのですが、それも頻繁にあったわけではなく、警察でも、それから先の足取りはわからなかったようです……。
殺人者はそこにいる―逃げ切れない狂気、非情の13事件 どうも夫人も知らない行動があったのは確からしく、夫人の言葉が正しければ警察も『糸』の先には辿り着けなかったようだ。
もちろんコレが上海ハニーと繋がるかどうかはわからないが、もしかしたら、夫人も知らない川村さんの裏の顔は本当にあったのかも知れない。
ちなみに、『高井戸』は川村さんが通っていた宗教団体の施設があると噂にあがった場所でもある。
この『誰もしらない川村さん説』について、気になる事実をまだ追いかけている最中なので、身のある調査ができたら追記する予定。
とある大衆酒場が関わっている説
特定されて迷惑をかけるのもアレなので名前は伏せさせていただくが、井の頭周辺に店を構える飲食店が事件に関わっていると周辺界隈で噂された。
5月11日『骨』が見つかった――でも動物の骨でした!
という出来事を時系列に書いたが、その骨の出所がどうもその大衆酒場だったらしい。これは朝倉先生の記事に書かれているものだが、情報源となった人物は「警察関係者から確かに聞いたことだから、まぎれもない事実」と言ったそうだ。真偽は不明。
ともかく、この大衆酒場は『食肉』を扱っており、一時は根強い噂となって周辺界隈を飛び交ったという。
調理場が遺体の解体現場だったされ、強制捜査も入ったらしい。
オカルトクロニクルとしては、『らしい』という助動詞は、『信じるも信じないも――』と同じく、デマを撒き散らす免罪符のように思えて極力使いたくないが、参考記事でこの出来事に触れている朝倉先生が「友人から聞いた」という前置きの上で書かれているので、そういうことらしい。
ただその後の続報はない。
耐震偽装に関する闇説
川村さんは一級建築士だった。
『耐震偽装』と聞いて、諸兄は『姉歯』なり『ヒューザー』なりのキーワードを思い出すかもしれないが、まさしくソレである。
これは2005年ごろに表沙汰となって大騒動を引き起こした事件だ。国土交通省に規定されている耐震強度を満たさない建築物を低コストで造り、そして基準値以下であることを知りながら物件販売を続けていた。
各種メディアに「地震大国日本において、許し難い詐欺行為である」――と糾弾された。
この耐震偽装問題に川村さんが関係していたのではないかという。
井の頭バラバラ事件の捜査本部に、この『耐震偽装問題と井の頭バラバラ事件』についての情報提供があったことがルポライターとして知られる一橋文哉大先生の著作でサラリと触れられている。
以下引用。
「被害者は建築事務所以外の仕事を副業として引き受けた際、後に大きな社会問題になるマンションの耐震偽装事件に巻き込まれたのではないか。当時、彼が関わったと見られる建設会社の中には、暴力団系のデベロッパーや地上げ業者を使い、耐震偽装など違法建築を平気でやっていた連中もいた。鋸できれいに切り刻まれた手口は図面通りに鋸で木片を1センチ、1ミリ単位で丁寧に切る仕事に携わっている者の仕業ではないか」というものだった。
国家の闇 日本人と犯罪<蠢動する巨悪> (角川oneテーマ21) オカクロ特捜部は知らなかったが、捜査本部は水面下でこの方面にも捜査を拡大していたようで(この情報提供に絡んでかどうかはわからないが)建築業者および関連会社への捜査を行った――と一橋本に書かれている。
しかし、それも捜査を進展させるモノではなかった、とも書かれている。
断定的なことは書けないが、川村さん自身に『殺害される動機』があったとするなら、数ある動機の一つとしては、最も説得力があるように思える。
川村さんが耐震偽装に気付き、それを告発ないし明るみに出そうとした矢先――。
など、想像は膨らむ。
だが建築関係者なら、公園に捨てるよりももっと露見しにくい遺棄方法が取れるような気もする。もっと言えば、普通に通り魔として犯行に及んでも足は付きにくいのではないか。当時、耐震偽装は社外秘なり、一部の人しか知らない状況であったろうし。
のちにヒューザーの小嶋社長は詐欺容疑、姉歯元1級建築士は建築基準法違反で実刑判決がおりている。
姉歯氏に関しては薄くなった頭部を隠すためにカツラを着用していたことから、『頭髪も偽装!』と週刊誌に叩かれた。こちらは情状酌量すべきだろう。
ちなみに、一橋本ではこの建築偽装の裏に、一大詐欺事件で知られる『豊田商事』の残党が絡んでいるとしている。日本の闇は深い。
イチョウの呪いに違いない説
川村さんの自宅では以前、父親が『ぎんなん学習塾』という私塾を経営しており、庭には大きなイチョウの木が生えていた。
二世帯住宅に改築する際に、設計上どうしても切らねばならなくなり、結局切り倒されたが、用材として使用することもかなわずイチョウの木は結局『バラバラ』にされて捨てられた。
このイチョウの呪いが降りかかったのだ――という話。
「なんだよバカらしい! 呪いとかそんなワケあるか! そんなもの俺がやっつけてやる!」
と諸兄は怪談での祟られ要員っぽい台詞を言うかも知れない。
が、余談を言えばイチョウは古くから霊木とされており、個人の所有地には植えない方がよいとされる。枝を折ったり、切り倒したりすると災いが降りかかるという。
そんなイチョウの霊性から連想された噂だったのかも知れない。
都市伝説的な説
信じようと信じまいと――の界隈では以下のように書かれている。
事実と異なる。井の頭公園バラバラ殺人事件と言えば、平成六年に起きた猟奇殺人事件であるが、それには隠された事実がある
— フォークロアbot (@folklore__bot) 2015年7月19日
犯人には自殺した妹がおり、彼女を生き返らせるために足りない「部位」を集めていたという
警察が彼の家に踏み込んだ時、既に腐乱した「妹」の体には、真新しい性交の跡が残されていた
野暮を承知で言えば、「妹の足りない部位を集めていた」とあるが、『犯人が集めていた部位=見つかっていない川村さんのパーツ』ということになるが、それは頭部と胴体である。もはや妹じゃなかろう。そして犯人宅に警察は踏み込んでいない。
信じさせる信じさせない以前に、少しは調べてから書くべきである。
と諸説紛々である。
これら諸説が複合された説もポツポツと囁かれてはいる――が、ページ文字数の関係か、編集画面が酷く重いのでそれらは各人に想像していただく事にする。
ここまでは事実と諸説の確認に終始したが、これらを元に新たな足がかりは作れないだろうか?
冗長と野暮を承知で今までと違う角度で事件を見てみたい。
オカクロ初の3ページ目へ続く。
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