それは、誰よりも早く出勤するヒューマノイド。
アメイジング・ヘッチャラ星人
アルゼンチン中部に位置するコルドバ州。その中心部から南東にいけばサンタ・イザベルという工業都市があり、巨大なルノーの車工場が広がっている。事件はそこで起こった。
1972年9月21日、午前5時40分。
この工場に勤めるガードマンのテオドーロ・メルロ氏(56歳)はその日の早朝、鍛造部に属するシャワールームへ向かっていた。
工場の技術者が出勤してくる午前6時までに深夜に施錠したドアを開放しなければならない。
時刻は5時40分、まだ誰かが出勤してくるには早い時間だ。
区画内は無人となっており、いつものようにメルロ氏は更衣室の電灯を点けながら、どんどんと進んでいった。
深夜に施錠して以後、なんら異常はない。
当然だ。工場内はキチンと施錠された密室なのだから。誰も侵入など出来ない。ただひとつの存在をのぞいては。
職員用のロッカールームまで来て、メルロ氏は見た。
流し台に腰を掛けている奇妙な存在を。
まさに「ヘッチャラさ!」と言わんがばかりの自信に満ちあふれたポーズである。
メルロ氏が至近3メートルで目撃したその宇宙人(?)は流し台に腰を預け、右腕を水平に構え、ピンと伸ばした指を鼻のあたりにあてていた。
右手で流し台を掴み、右足はまっすぐに、右足は少し曲げていたそうだ。
流し台が90センチの高さと言うことで、ヘッチャラ星人の身長は2メートル50ほどと推定される。
肌は石膏のように真っ白で、髪の毛はなかった。
施設全体の照明が不可解に点滅し、そのなかで異彩を放つ、ヤツ。服装はタイツとも表現されるタイトすぎる装いで、色はダークブルー。ベルトやブーツのような小物は身につけていなかった。
細くて長い首に、これまた長く尖った耳。目は離れてつり上がっており、東洋人よりも大きかったという。
この自信に満ちあふれたポーズは、完全密室に侵入した『してやった感』に起因するのか。
事件はさらに続く。
この後、移動のため乗り合いバスに乗車したメルロ氏は、バスの室内ミラーにヤツが映ったのを見た。
――ヤツが!
恐怖したメルロ氏は素早く振り返り、25名ほどいた乗客を全て確認したが、どういうわけかその中にヘッチャラ星人の姿は確認できなかった。
そして、乗客の誰もがこの異常事態に気がつかなかったのだという。
事件後、メルロ氏は頭痛と目の痛み、腰痛などの症状に悩まされたが、事件のことは誰にも話さなかった。話してバカにされるのがイヤだったようだ。すこぶるアメイジングでヘッチャラな怪人がこの工場内に潜んでいるなど、誰が信じてくれよう。
メルロ氏は初等教育を受けていなかったが、独学で絵画と彫刻を学ぶ努力の人で、内向的な人物だったらしい。
この事件を追ったライターは、彼をして清廉潔白で、誠実な人と評している。つまり嘘をつくような人ではない、と。
事件は続く。
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へっちゃらな悪夢、いまも。
メルロ氏の恐怖体験から6日後、同工場に勤めるエンリケ・モレノ氏が次の被害者となる。モレノ氏が愛車の三輪バイクに乗って、事務所に書類を届けようとしたとき、悪夢は再来した。
道路の右脇に自動車の用のシャーシが積み重なっている道を走行していたモレノ氏は、道の脇に青緑色の人影をみとめた。
最初は、作業服を着た作業員かなにかだと思った。――だがあまりにも……あまりにも身長があまりにも高すぎる。
人影に30メートルまでの距離まで近づくと、その人影は体を回してモレノ氏の方を見た。
それはまるで石像のようなぎこちない動きだったとモレノ氏は言う。
とたんに三輪バイクの出力が低下し、スピードがぐんぐん落ちた。
やがて人影の前でエンジンはパタリと止まった。
そのときだ。ヤツだ。
見れば、作業員などではない。見るも怪しい怪人ではないか。
身長はやはり2メートル50程。引き締まったガッチリ体型で、角張った顔つきに頭髪のない頭。
驚いたことに、目は黄色く光っていた。
――生物というよりは、機械だった。モレノ氏はそう述懐する。
着衣は例によって青いツナギのようなものを身につけており、幅広のベルトに大きな楕円形のバックルがついていた。
そのベルトの右側は軍人の装備するマガジンポーチのようなふくらみがあった。
モレノ氏の耳は「ブーン」とハエの飛ぶような、あるいは機械の稼働音のような音を聞き、全身がむず痒くなった。同時に手足が麻痺したような感覚に襲われ、鼻にはオイルが焦げるような匂いがまとわりついた。
涼しい夜だったのに、周囲だけ妙に暑い。
口が乾き、吐き気もする。首筋と背中が痛み、目からは涙が流れる。コンディションは最悪だ。
つかの間の邂逅。
時間にして、約30秒。
ヤツは動かず、モレノ氏は動けなかった。
すると突然バイクのエンジンがかかり、いつもは時速5キロほどしか出ない三輪バイクが時速50キロもの勢いで走り出した。
かくしてモレノ氏はへっちゃらな悪夢から生還した。
事件後、記者にインタビューされたときもモレノ氏はショックから立ち直っていなかった。
吐き気と口の乾きはその後24時間続き、首筋と腕の痛みはインタビューされたときもまだ癒えていなかった。
事件直後、彼の血圧は7にまで落ち(海外サイト情報)モレノ氏は意識を失った。
病院での注射で一時的に回復し、救急車で家まで送られたそうだ。
モレノ氏も前項のメルロ氏と同じく時計の故障を訴え、調べてみればその時計は強烈な磁力を帯びてるのが確認された。
原因は不明である。
ヘッチャラの悪夢、みたび。
今度は9月28日の午前3時40分頃、トラック運転手のロドリゲス氏がモレノ氏と同じような体験をしている。ヤツが現れたとたんにトラックのエンジンが止まり、モレノ氏と同じようなバッド・コンディションにたたき落とされたそうだ。
今までの遭遇事件と明らかに違うのは、ヤツが左手に『輝く玉』を持っていたことだ。出没するたびにアイテムが増えている。
ぎこちない歩き方に、機械のような容貌。ヤツに違いない。
証言によるイメージ図を参照していただけば一目瞭然だ。
間違いない。ヤツだ。
いささか角張が顕著になっている気もするが、全体の印象はほぼ同じ。
手に大事そうに持つ玉は何を意味しているというのか。
胸がパチパチするほど騒ぐ、なんらかの玉であろうか。Sparkin’
ヘッチャラ・センセーション そして伝説へ
日本ではあまり注目されていないが、海外では地味に人気がある事件のようで、検証サイトなどもそれなりにある。やはり、3人の目撃証言が酷似していることから興味を引くらしい。見た目のインパクトも充分であるし。出現時の状況もアメイジングきわまる。
しかし、周辺でUFOの目撃もないことから、宇宙人という表現はされていない。
行き過ぎの意見に思えるが、(ごく一部の有識者の間では)この怪人は『イースター島のモアイ』との関連が取り沙汰されている。
つまり、この怪人はモアイ像が造られた古代から存在しており、遠くイースター島で祀られていた。
怪人によってなんらかのテクノロジーをもたらされた事により、イースター島民はモアイ像制作を易々とこなせたのではないか、つまり地球外テクノロジーは存在した!
という古代宇宙飛行士説へと話は繋がってゆく。
無駄に壮大な事件である。