今日が 青く冷えてゆくシベリア
現地へと急行したマッケール隊を待ち受けていたモノは!丸い沼だった。
なんだこれは。見事に丸くはあるが、ちっとも大鍋じゃない。
期待していた特異構造物と対面は出来なかったが、ここでガッカリしてはいけない。
諸兄もご存じの通り、『鍋やドームは必要に応じて地表に突出する』からだ!
マッケールたちはさっそく沼の調査に移った。
もしかしたら、このドロ沼の底に鍋が眠っているかも知れない――!
沼に入って棒で水中を探った結果、マッケールはあることに気付いた。
なにか、沈んでいる――そんな感じがする。
「叩いた音からすると金属で、中が空洞になった物のように聞こえたので、水没した大鍋を見つけたと思いました。それから、またひとつ、もうひとつとよく似た土地が見つかりました。どこでも磁気の大きな変動が起こっていました。このような事実すべてが地中に大鍋が埋まっていることを指し示す証拠だと私は考えています」
さらに調査を進める必要がある。
だが、ここでトラブルが発生する。
マッケール以下、探検隊のメンバーが次々に体調不良に陥ったのだ。吐き気や頭痛に始める急激な症状が隊員を襲い、調査続行は不可能になった。
その病状はヤクート諸族の人々が伝承していた物によく似ていたという。
マッケールは無念を隠せない様子で後のインタビューにこたえている。
「突然、酷いめまいがしてフラつき始めたと思ったら吐き気と熱に襲われたんです。原因はさっぱり思いつきませんでした。歩くことも出来ず、目はかすみ、水を飲むことすら出来ません。瞳孔が急激に拡大していたというので、なにかの中毒だと思いました。家に戻ってから精密検査を受けましたがこの症状を引き起こした原因は医者も突き止めることが出来ませんでした」
結局、マッケールが発見した沼、そしてその底に沈んでいたモノは何だったのか。
番組では放射能の影響を示唆していたが、これに関しての考察は後述するとして、最新の調査まで資料を読み進めてみよう。
2008年8月
マッケール隊の成果は沼や、そこに水没した『何か』を発見しただけに留まらなかった。『注目を集めた』ことも大きな功績だった。『旅人の日記』という番組で知られるテレビ業界人、エフゲニー・トローシンは大鍋の話を小耳に挟むと、資金力にモノを言わせて全てを明らかにしてやろうと目論んだ。
その調査隊メンバーたるやそうそうたるものだった。考古学者に地質学者、医師そしてロシア科学アカデミーの関係者を含む20名からなる調査隊を送り込み、大鍋の謎に迫ろうというのだ。
トローシンはスポンサーを募り、資金力で決着をつけようとした。日本のテレビ局にも企画を売り込んだようだが、情報が乏しく詳細は不明。
以下は『パートナー』として名が上がっていた団体。
■遠征のパートナー
サハ共和国政府
ALROSA
■情報スポンサー
報道機関「ITAR-TASS」 ラジオ局「Ekho Moskvy」
雑誌「ナショナルジオグラフィック ロシア」
雑誌「GEO」 雑誌「ロシアレポーター」 雑誌「Ogonyok」
■サポート
ロシアの極地探検の会
ミールヌイ地区管理
■出版関係
報道機関「ランブラーマスメディア」 報道機関」Rosbalt」
報道機関「ニュース・サイエンス」 情報局 「YASIYA」
TRC 「SURGUTINTERNOVOSTI」 「Rossiyskayaガゼッタ」
新聞「Argumenty Nedeli」 新聞 「生命」 新聞「ヤクート」
新聞「Mirninskyワーカー」 新聞 「Vestnik ALROSA」
新聞「ファッションニュース」
「Mediaatlas.ru」「yakutia24」「kimberlit.net」「sunhome.ru」「city-portal.ru」
と知らないメディアばかりだが、とにかく数だけは凄まじい事になっている。
かくして資金力にモノを言わせて空からの調査が行われる――予定だったが、結局20人編成のチームは結成できず、2人というチームと呼ぶに最小限の単位での探索となった。
そうしてエフゲニー・トローシンによって発見されたのが奇妙なマウンドだ。
遠目には砂山に見えるが、実際には拳大ほどの小石の蓄積によって形成されている。
これが何なのか良くはわからないが、鍋ではないことはわかる。そして鍋と間違わないであろう事もわかる。
「ドームはこれを見間違えたのではないか」という向きもあったが、全然丸くないし、赤い金属じゃないし、人工物っぽくない。だいいち夢がない。ないないばかりでキリがない。
かくして資金力にモノを言わせた捜索もいまいち不発――不完全燃焼に終わった。
2010年2月
マッケールやトローシンに欠けていたモノは何か? それは情熱だ。権力も金もないが、情熱はある! ということで今度はUFO研究家の有志によって調査隊が結成される。
彼らは異星人によって大鍋が作られたと信じて疑わない。
大鍋の形状って、UFOに似てるよね?
ということはUFOだよね?
凍土に埋まっている現状ではフライング・オブジェクトっていうほどフライングしてないけど、UFOだよね?
ということはエイリアンいるよね?
奴らはもう来ているよね? 人類は滅亡するよね?
ということである。
『円盤状の物体=UFO』や『UFO=エイリアン・クラフト』というのも、いささか本人たちの願望と結託しがちな結論であるが、それはいい。そんなことは大鍋を発見してから大いに議論すればよいのだ。
彼らの調査隊は死の谷の沼地で『ゴムの石』なる鉱物を発見している。
これは『見た目には黒曜石のようであるが、焼けたゴムのような特性がある』という。この発見を受けて一部の有識者によって大鍋やドームとの関連性が主張されたが、分析してみないことには何とも言えない。そして分析結果については続報が見あたらなかった。何だったんですかね。
2012年
ロシアのテレビ番組『Mysterious Russia』でヤクートの鍋が取りあげられ、テレビクルーが大型ヘリコプターニャに乗って死の谷の上空を飛び回った。これには日本のテレビ局も一枚噛んでいたという話であるので、そのうち日本でも放送されるかも知れない。
番組内容としてはエフゲニー・トローシンのマウンドや、イワン・マッケールの症状、ミハイロフスキの話を後追い調査する形になっており、特筆すべき新発見はなかった。
どうだろうか。
この『ヤクートの鍋』は日本ではどちらかと言えばマイナーなオカルト話に分類されるためか、認知度、注目度ともに高いとは言えない状況であるが、ご当地ロシアでは結構な盛り上がりを見せている。
それでも諸兄は言うのでしょうね。
「なんだよ! 結局見つかってないのかよ! どうせ露スケの言うことだし、こんなのはまた『ウォッカ』が生んだヨタ話なんだろ! それが年月重ねてデカくなっただけだ! ロシア女だって歳とりゃ横にデカくなるしな!」
なんと口の悪いことだろうか。
とはいえ、確かにこれだけ探して見つからない事にはオカクロ特捜部としても忸怩たる思いである。
こうなってくると、テンションもなんだか尻つぼみで、心が冷えてゆく。諸兄の心も、凍土が如く氷結してゆくだろう。
しかし、ヤクートで撮られたある写真は、我々にもう一度戦う勇気をくれる。
2008年6月7日、採掘技師アレクサンドル・パブロフとその友人シーリー・イワノビッチの14歳になる息子がオルグイダーク川を下っているときの話だ。
時刻は午前3時~6時ごろ、静かな夜の川に突如として光球が出現した。
巨大な蛍のような燐光、しかしそれだけでは終わらなかった。
見上げれば夜空に異変が!
シベリアの空に、巨大なドームが見えたのだ。
おおお……なんだこれは!
これ完全にバリアじゃないすか! ATフィールド全開じゃないすか!
地球防衛システム発動!
これは我々の失いかけた厨二心、あるいはビリーバー心――ビリビズムを大いに刺激してくれる。すごく……かっこいいです。
本当に、シベリアにはまだ稼働している超古代の防衛システムが眠っているというのか。
我々は、こういった話をヨタ話だと鼻で嗤って切り捨てるほど大人でもないが、素直に信じられるほど子供でもない。
さまざまな情報に踊らされてきたことにより、信じる心を失い、心は冷え、クリティカル・シンキングは鍛えられ、苦笑いばかりが上手くなった。
大の大人がこんな事に時間と金と労力を使って、バカじゃないかと嗤う人もいよう。だが、オカルト・クロニクルとしてはちゃんと向き合ってみたい。大の大人が大まじめにやるから意味があるのである。
だって、面白いでしょう?
sponsored link
氷点下-50℃の情熱
『声が凍る国』と前述したが、この酷寒の世界では、他のモノも凍る。凍って、音を立てる。屋外の気温が氷点下-50℃を下回ると、唇から漏れた息が耳のあたりで凍り付き、微かな音を立てるという。ヤクート地方では、この音を『星のささやき』と表現する。
寒帯の常識は、我々、温帯に住む日本人には計れない。
とはいえ、「永久凍土の下に地球防衛システムが存在し、幾度となく地球を救っている。もう疑う余地もないだろ、な?」と言われてもにわかには首肯しがたい。
地球防衛システム論では、さらに「地球の地底には地下文明が存在し、ヤクートの鍋はそれを裏付けるモノだったんだよ!」と極めて進歩的な話も聞かせてくれる。
実際に『ウールピットの緑色の子供【別項】』や、進撃してこない4メートル級の巨人がいたという『ヤンセン親子の地下世界』などの古典的な地球空洞説の逸話がこのヤクート鍋に並べて紹介されている。
一時期人気のあった、『洞穴都市に住むという悪徳地底人デロ』に関しては触れられていないが、それはいい。
地下にはまだ人類の知らない文明が存在しており、何か企んでいたり、いなかったり――。
ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』では、リーデンブロック教授が地下世界でキノコの森や恐竜を目にしているが、ここからなかなか興味深い(註:ロマン溢れる)考察が得られる。
ヤクート死の谷では、キノコの形状をした特異構造物も目撃されており、これが地下世界からニョッキリ頭を出したキノコの森の一部であると。
そして、シベリア地方ヤクート周辺の永久凍土からは、『氷漬けのマンモス』が多数発見されているのは諸兄もご存じかと思う。
これをして、「地下世界ではいまだマンモスが生き延びており、時折、ヤクート周辺の出入り口から間違って地上へと迷い出てきてしまう。地下からノソノソでてきたマンモスは、息をも凍らせる極寒の世界にあって、その毛皮も意味をなさず、間もなく凍り付き――」という仮説を考えてみたがどうだろうか。ないだろうか。
実際に、1580年にシベリアでは山賊退治の任についていた騎士達が毛の生えた大きな象を目撃しており、20世紀に入ってからも、シベリアはタイガ地帯で、地元ハンターが巨大な足跡とフンを発見し、追跡してみた先で巨大な牙と赤黒い毛を持つ象を発見した。という話がある。
これは、やはり地下世界の出入り口がヤクート周辺にあるという事実を示唆するものではないか。いや、そうに違いない。
では出入り口とは何か?
そりゃあ、もちろん、アレである。『特異構造物』である。
つまり、ドームに見えたモノは、巨大エレベーターだったんだよ!
うむ。この『ドームは兵器というか、エレベーターだったんだよ! なんだってー!仮説』に辿り着いたのは、世界広しといえどオカクロが初であると思われるので、これはロシアのテレビ局に売り込んでゆこうと思う。エレベーターだから、地下に沈む事実と整合性も取れるはず。
おそらく負けず嫌いな諸兄は、オカクロに負けじとさらなる仮説を色々考え、遠からずキノコとドームの形状に着眼するかと思う。
やがて、その形状から『きのこの山、たけのこの里』に辿り着くかも知れない。
そして『つまり死の谷の神話に語られる戦争とは、古代から続くキノコの山×たけのこの里戦争の事だったんだよ!』
という仮説を提唱するかも知れない。
だがそれはない。そのような仮説は荒唐無稽と言わざるを得ない。
冗談はともかく、我々以外の論者はどう考えているのか。
この話がそもそも広く知られていないため、仮説の数は多くない。
『古代から存在する地球防衛システム仮説』
『墜落したUFO仮説』
『超古代文明の遺産説』
『地底人の作ったモノ仮説』
と、なんだか『いかにも80年代オカルト』といった趣のあるモノばかりだ。
そして健全な懐疑のフィルターが通されているとは言いがたい。
ここで公正を保つため、オカルト・クロニクルが懐疑したいと思う。
疑うのは嫌いだからじゃなく、好きだから。懐疑とは乙女心なのである。
まず、ヤクート鍋の情報ソースとして上げられるリヒャルト・マーク教授の『Вилюйский округ Якутской области(Vilyuysky District Yakut area)』はどうだろうか。
この博物書に
「ビリュイ川の支流、アルギュイ・ティミルニト(大きな鍋の沈む川)に大鍋のようなものがある。半分ほど埋もれており全貌は不明である。周囲の植物は異常な成長を見せている」うんぬん、と書かれていると。
こう言うのは、実際に参照するのが手っ取り早い。
この『Вилюйский округ Якутской области』は著作権が失効しており、現在ネット上にPDFが公開されている。
■参考:Маак Ричард Карлович
ここにそのテキストが置いてある。
参照してもらうとわかるが、PDFの40ページからはじまる以下の記述が該当箇所である。
В Сунтаре мне рассказывали, что около вершины Вилюя есть речка, называемая Алгый тимирнить (Большой котел утонул), впадающая в Вилюй. Недалеко от ее берега, в лесу, находится в земле огромный котел, сделанный из меди; из земли высовывается один только край его, так что собственная величина котла неизвестна, хотя рассказывают, что в нем находятся целые деревья…かっこよくキリル文字を貼ったが、ほとんどちんぷんかんぷんである。だが時間をかけて翻訳してゆけば、たしかに大鍋について言及されており、それがビリュイ川の川岸付近であること、地面から突出していること、植物が奇妙な成長を見せていること、について触れられている。
そして、これは2012年にロシアのテレビ局が制作した『Mysterious Russian――Saha.Traces of an alien civilization』でもキチンと検証されている。
たしかに、大元のソースは博物学者の調査によるものだった。
これは、なんだかワクワクするものである。
たしかにリヒャルト・マークは死の谷で『何か』をみたのだ。
これは実在を信じる者にとって、大きな追い風となる。
では、『実地調査』はどうだろうか。
大鍋や、ドーム、そしてキノコのような構造物。ここまでにそれらを探し、得られた情報は本当に死の谷の真実――特異構造物に迫っているのか。
まず、『丸い沼』を見つけたイワン・マッケールの調査に目を向けてみよう。
マッケールはパラモーターを使い、死の谷に怪しい地形を発見した。
それは円形の沼で、沼の底には金属らしい硬いモノがあったと。だが、『呪い』のような力がマッケール隊を襲い、それ以上の調査は不可能になった。
こういう話を聞いて、「だらしねぇなぁ。俺ならちゃんと調べ上げてみせるぜ。よし、いっちょやってみよう」と考える好事家はオカクロ特捜部だけではない。
インターネットを通じて、世界津々浦々のフォーティアンが立ち上がった。せっかくの情報化時代の波。乗るしかない このビッグウェーブに。
そうしてワラワラとフォーティアンの集まるフォーラムで、Google Earthを使って怪しい場所が特定された。
この場所【Google Earthリンク】がそうだ。
アクセスするのも手間かと思い、画像を貼っておく。
IT革命の勝利である。
しかし、他の湖沼と比べれば、なんだかマッケール沼は干上がっているように見える。仮に本当に干上がっているならば、そこに鍋がないと我々のロマンが失われるわけで、少しソワソワしてしまう。
枯れ草や泥の下にあるのかも知れない――と誤魔化さず、ここは冷徹に懐疑的視線で見つめてみよう。
そもそも、この永久凍土にポツンとたたずむ円形の沼は、『鍋の傍証』と成り得るのか?
おそらく寒冷地に知見のある――ないし永久凍土フリークの諸兄は、こう言うはずだ。
「いや別に珍しくなくね? これピンゴだろ」と。
ピンゴとは、凍土の湿地帯に生じる小さな丘のことである。事典にはこうある。『平らな湿地帯の中にぽつんと盛り上がる小丘で,丘の内部には氷が詰まっている。高さは数mから60mくらいまである』
地下に生まれた氷塊が、表面を盛り上げて小さな丘を形成する。これをピンゴという。
そして、厳寒期が過ぎると氷の丘も地下の氷塊も溶け始め、沼を形成する。
そう。
べつに丸い沼は珍しくない。
「周囲によく似た地形が多くあった」とマッケールは言うが、それらもピンゴである可能性は高い。
そして、そのまま懐疑的視点で見れば、沼の底にあった硬いモノの説明も容易い。氷だ。
最後まで残ったピンゴのコアが、溶けきらずに沈んでいるだけ。地表下に集積した集塊氷だろうね、と懐疑論者は氷よりも冷たく言い放つだろう。
「なんだよ! じゃあマッケール隊を襲った体調不良は何だって言うんだよ! 呪いって言ったじゃん! 竜王の呪いって言ったじゃん!」
と諸兄は憤るかも知れない。
だが、かの地は永久凍土。これも説明をつけようとすれば簡単だ。
メタンガスだろう。
永久凍土にはCO2やメタンが多く含まれ凍土の融解と共に大気中に放出される。
近年、地球温暖化の影響もあってか、永久凍土の融解が早まってきているとの見方があり、大規模な気候変動をもたらすであろう膨大なメタンは『時限爆弾』とまで表現される。
それら『温室効果ガス』が凍土の溶けつつある死の谷にも存在することは疑うまでもない事実。
そしてぬかるみだらけの湿地帯を歩くと、地中の『ガス溜まり』を踏み破ってしまう可能性があることも想像に難くない。
つまり『竜王の呪い』は、それらのガスを吸引した事による中毒症状であると考えることが出来る。
そして、凍土から浮上したメタンやリンなどを含むガスが、何らかのきっかけで引火発光し、大気中に『火柱』や『火球』を形作ることも――あるかも知れない。
大鍋はともかく、『未知の金属で出来たドーム』に関しては、リヒャルト・マーク教授の著作から引用した部分に該当した箇所が見つからず、ソースが判然としない。膨大な著作全てに目を通せば「内部で一泊した」という記述を見つけることが出来るのだろうか。ロシア語に堪能な諸兄は是非挑戦してみて欲しい。
では、『ATフィールドっぽいバリア』はどうか。
これは、月並みなことしか言えないが、レンズゴースト、ないしレンズフレアの可能性が高いと思う。
撮影者であるパブロフたちが目撃、および撮影した時刻はソースが正しければ午前3時から午前6時の間。
撮影された年は2008年6月7日。
調べてみれば、その日、死の谷周辺地域の日の出は4時18分。
ちょうどライジングサンが地平線を明るくし始めた前後に撮影されたことになる。地平線から少しだけ顔を出した太陽が、レンズゴーストを生んだのではなかろうか。
写真で見るかぎり空もなんとなく白んでおり、よく見ればバリアの外周が虹色になっている。
写り込んでいる星座の位置から、本当に死の谷で撮ったのか、本当にその時間に撮ったのか――が特定できるかも知れないが、そこまでするのも嫌らしいし、能力もないのでやめておく。
これが本当にレンズゴーストかどうかは定かでないが、残念ながら、どうも確たる証拠とは言えそうにない。
懐疑派の諸兄などはバリア写真を見て、「フッ……あきらかにレンズゴーストか虹ではないか。こんなモノを見抜けないとは、お里が知れるなオカ番マツカク。約束通り今日からこのサイトは我々諸兄連合とASIOSがしきらせてもらう」とお怒りになられたかもだが、ご容赦いただきたい。夢を見たかったのです。夢を。厨二病な夢を。一瞬でも夢を……。
■註記 2019-04-28 上記のATフィールドにについて、「虹だろう」という指摘を頂いた。
「画像には主虹と副虹がうつっており、『バリアの外周が虹色になっている』のではなく、その逆で虹の内側が明るくなっている。主虹の内側は顕著にあかるいものなのです。詳しい原理もあるのですが長くなるので“虹の内側”で画像検索してみるとよくわかると思います」
とのこと。言われてみればもう虹にしか見えない。ご教授ありがとうございました。
かくして、現状で出回っている『死の谷』情報のほとんどが自然現象で説明のつくモノだった。残念である。
だがリヒャルト・マークは、鍋に似た何かを見た。
教授は、『ウオッカ』の飲み過ぎだったのか。
それとも『ガス』でアッパーなフィーリングになったのか。
あるいは本当にあったのか。
全ての円形の沼がピンゴでなく、中には本当に鍋やドームの沈んだモノがあるかも知れない。が、現状では証拠らしき証拠は一つもない。
最後に、研究者全てが目をそらしている一つの可能性について触れねばならない。
この大鍋が『実際に大鍋』である可能性だ。
パエリアなど、何らかの料理を作る意図をもって、鋳造され、飽きて放置されたなれの果て。その可能性を忘れてはならない。
つまりパエリアで炊かれたムール貝が、調理のさなかパチンと爆ぜて、上空へ飛び、ちょうどツングースカに飛来した隕石を砕き去った。
人類を救ったのは「パエリアって、なんでこんなワケわからん貝が入ってんの? 食べにくいしイラネ」とまで言われてきた要らない子、ムール貝だったんだよ! パエリアにムール貝は必要だったんだ!
考えてはみた、作ってはみたモノの、本当にすいませんでした。
パエリアが
やはりムール貝はいらないですね。
冗談はともかく、『大鍋は実際に大鍋』あるいは『ソ連軍によって遺棄された何らかの兵器の残骸』である可能性を忘れてはならない。
※追記――『大鍋は実際に大鍋』に関連して、twitterにて「パエリアじゃなく、お湯を沸かしたんじゃ?」という指摘をいただいた。
お湯を沸かして、暖を取るため入浴したのではないか――という斬新な発想だ。つまり『五右衛門風呂仮説』だ。雪原で入浴とは風流で実にいい、日本酒とトックリを持ちこみたくなる。が、「誰が入浴したの?」という疑問が新たに浮上する。
かくして死の谷における一連の特異構造物について、証拠らしい証拠はいまだ挙がっていない。
とはいえ「なにかあるんじゃないか」と感じさせる神秘性をシベリアは秘めている。
1964年にはサハ共和国北シベリアのハイール湖で科学者グループが未知の古代生物と遭遇したと主張した。
これをコムソモリスカヤ・プラウダ紙が報じ、大論争を巻き起こした。それはプレシオサウルスによく似ており、北方に孤立した湖の環境によって特異な進化を遂げたのではないかと考えられた。
(これは現在では様々な要因から『信憑性なし』とされているが)
最近では2013年、同じシベリアはサハ共和国のラビンキル湖で巨大な生物の遺骸が発見されている。
それがどういう生物だったかはよくわからないが、このラビングキル湖には古来から『巨大な生物が湖底にいる』という伝承があり、「すわ、ロシアンネッシーでござるか」と未確認動物マニアの胸を熱くした。
もしかしたら、湖底は地下深くまで続いており、それが未発見の地底湖と繋がっており、そこにはヴェルヌの描いたような旧世界が――。とロマンは広がる。
ほかにもUMAアルマス、チュチュナー、ディアトロフ峠でも触れたMenkvi。信憑性は薄いが、古い炭鉱の奥で恐竜のような未確認生物が目撃されたとの話もある。
神秘の土地だ。人間を寄せ付けない極寒の聖域に、人知れず何かが存在しているのではないか。そう思わせる不思議な魅力がある。
極北の地に、凍り付いた謎の構造物は存在するか? 残念ながらかの地では2015年になってもなにも見つかっておらず、遠く温帯の地で新情報を待つばかりだ。
でも未知の何かが、凍り付きながらも地球を守っている――。誰にも知られず、誰にも頼らず、誰よりも真剣に地球の空を見張っている。そう考えると少しだけ心強く思える。
まったく調査成果があがっていない状況ではあるが、いつか、研究者たちの地道な調査が実って、大鍋が発見される日が来るのだろうか。その日が来たら、どのような結果でも喜んで加筆させていただきたい。
冬来りなば春遠からじ、そう信じて。
■参考資料
・Долина Смерти (Якутия)
・極北に封印された「地底神」の謎―地底世界に蠢く太古の神々“異人類”の真相!! (ムー・スーパー・ミステリー・ブックス)
・謎の怪事件ファイルX 海外篇 (二見WAiWAi文庫)(極北に~と同内容)
・古代核戦争の謎 (ムー・スーパーミステリー・ブックス)
・地底文明説―地球内に存在する神秘と謎 (Ariadne Cosmic)
・ユーラシア諸民族の叙事詩研究
・Ancient Aliens: Season 3 [DVD] [Import]
・Вилюйский округ Якутской области (Vilyuysky District Yakut area)
・Уваров Валерий. Долина смерти
・forteantimes:forum
・ПОЗНАЙ СЕБЯ:Вилюйские Котлы.
・Таинственная Россия
・bibliotecapleyades(Nexus Magazine)
・ykt.ru/МЫ!
・alternathistory.org
・astrologycom
・phfawcettsweb.org:マッケール自身による記事
・Тайна Вилюйских котлов
・Вадим Чернобров:Кладбища нло: В ПОИСКАХ ВИЛЮЙСКОЙ ДОЛИНЫ СМЕРТИ.
・Өлүү Чөркөчүөх-Проклятая земля.
・ヴィリュイ川
・ハイール湖
・シベリア少数民族の興亡をつづる大河ドラマ:ビリュイの死の谷
・ムー:2006.4/1999.1