ドアの向こうに『彼ら』はいたか
ワイオミング事件映像に登場する様々な顔。笑ったり怒ったり、表情豊かではあるのだがどこか不気味――。3Dモデリングソフトで遊んだことのある諸兄はこれらの顔に既視感を覚えたかも知れない。
これは『FaceGen Modeller』という3Dモデルソフトが使用された。
今でこそposerやDAZstudioなどの3Dソフトが幅をきかせているが、このFaceGenはその名の通り『顔』に特化したソフトで、表情はもちろん皮膚のテクスチャも自由に変更できる。
とはいえ、その『売り』もDazなどに既に抜かれており、現時点での売りは推奨スペックの低さぐらいになってしまっているが。
とりあえず、なんでもやってみるオカクロ特捜部としてはデモ版をインストールした。
起動するとすぐさまプリティー・シングが現れる。
このプリティーシング顔の造形も、人種や性別を選んで簡単に生成できる。
画面をクリックドラッグすることで顔の向きも画像左のように自由に変更可能。
表情はパラメーターを操作することで様々なものが再現できる。
適当に生成したこの女性。
・Modifier:Brow Raiser Inner
・expression:sad
のパラメーターを少しいじってやると
なんだか記者会見の時のセンテンス・スプリングの人っぽくなったので、会見は実はCGだったで押し通す予定(笑)
サンミュージックに怒られそうな冗談はともかく、残念ながらデモ版では肌のテクスチャを剥がす事ができない。
FaceGen Modellerの製品版を買う余裕はないので、下記画像はDAZstudioのMichael4というフィギュアを元にした。FaceGen Modellerでもこれと同じように平面に描かれた顔面と肌の質感が3Dモデルに貼られている。この肌色のテクスチャを剥がしてやればワイオミング映像のプリティーシングのように眉毛もなくなり石膏像っぽくなる。
どうでもいい余談だが、このFaceGen Modellerをインストールすると、PC画面に小さなプリティーシングアイコンが沢山現れるのであまりオススメしない。ちっともプリティーじゃない。
現物動画を見ていただければわかるが、ワイオミング事件映像に出てくるプリティー・シングたちには体がない。首から上だけだ。
これは予備知識無しで見れば不気味な演出に思えたりもするが、なんのことはない、FaceGenのモデルが首までしか作られていないから――に過ぎない。
では音楽は?
映像内で使用されているサウンドは、奇妙な浮遊感と絶妙な不気味さを醸し出しており、どこか中毒性がある事もあってか『聖なる曲』などとも呼ばれた。
個人的にもこのアンビエント的サウンドがこの動画の芸術的クオリティーを飛躍的に高めていると思う。
特に4:50から流れるサウンドは【YOU ARE LOST ON THE PATH】という文章と絡んで、(註 リアルに道を見失いつつある我々に)神々しささえ感じさせてくれる。画面担当プリティーシングはラングだが。
これらの音源は創作者によるネタバレによると、ご存じ『サイレント・ヒル』からのモノであるそうだ。ご存じない方のために説明しておけば、これは国内外のPlayStation向けに発売されたホラーゲームで、PS3、vitaまで続編が制作されシリーズ累計840万本というヒット作である。2006年、2012年には映画化もされている。
ワイオミング事件映像のサウンドは、この人気ゲームのサウンドトラックから拝借したモノであるとネタバレされている。
正直、遙か昔にチョロッとやった事があるだけのゲームではあるが、オカクロ特捜部はこのネタバレがピンと来なかった。
これほど印象的なサウンドで、サイレントヒルは世界中で売れた作品――。誰かの耳に残っていてもおかしくないのでは? なぜ誰も気付かなかったんだ?――と。
使用されたのはサイレントヒル・オリジナルサウンドトラックに収録されている『Claw Finger』の楽曲や、他から拾ってきた効果音だというのだが、どうだろうか。
モヤモヤしてしまうが、次のネタバレ動画を見てもらえば溜飲も下がるかと思う。
ああ、なるほどとなる。
逆再生し、ピッチをおとせば見事ワイオミングサウンドのできあがり――というワケだ。
これらの暴露とレシピをもって、オカクロでは『ワイオミング事件はデッチ上げだった』という立場を取らせていただく。
「ビデオの作成方法と裏話の暴露=電波ジャック事件そのものがなかった証左、じゃねぇだろ! このオカルト・チンピラが!」
と、憤りをおぼえる諸兄もおられるかもだが、オカクロ特捜部としてはこれ以上追求しない。作成方法がわかると、映像の持っていた神秘性が失われたように思えるからだ。
この事件は『みんなで作ったとしでんせつ』でしかないと、そう思う。ネタバレした創作者は本物だろう。
しかし、個人的には何かに触発されて都市伝説を作ってみたくなる気持ちは理解したい。オカクロ特捜部でも以前twitterで都市伝説を広めようと画策したことがある。
ちゃんと広まっただろうか。数年後が楽しみである。西野カナの歌に必ず登場する『君』が、『君が代』の君、つまりは天皇陛下だったと言う都市伝説を作ったんで、広めておいてください。
— 松閣@オカルト番長 (@matukakAlt) 2015, 7月 19
ともかくワイオミング事件は『コトリバコ』や『きさらぎ駅』など、ネット発の怪談や噂話――その映像部門で最も成功した作品なのかもしれない。
作り物とはいえ、オカクロ特捜部はこのワイオミング事件映像の持つえもいわれぬ芸術性を高く評価するものである。
sponsored link
人の弱さ、怖さ、噂
動画サイトの発達とともに、『怖いビデオ』も数を増やした。ワイオミング事件もYoutubeやGooglevideoというプラットフォームがなければ都市伝説たりえなかっただろう。
UFO飛行動画などはそんな動画サイトに食傷するほどアップロードされているというのに、なぜそれをまたテレビで見せるのか。
民放はいっそ、朝から晩まで電波ジャックされてた方が視聴率が取れるんじゃないか――と諸兄は悪態をつくのだろうが、そんなこというと怒られますよ?
話は逸れたが、そんな『怖いビデオ群』にひとつ、興味深い品がある。
少し前、国内外のオカルトサイトを賑わした2分30秒ほどのちょっとした映像だ。
大手サイトであるカラパイアさんでも『すごいわ、すごいわ、すごいわ』というタイトルで翻訳記事を紹介されていたのでご存じの諸兄もおられるかと思う。
Youtubeでのタイトルは
『I Feel Fantastic』
なにやら不気味なアンドロイドがメロディに乗せて
「I feel fantastic」「Hey hey hey」「You feel fantastic」「You are fantastic」「Run run run」「Please leave」と繰り返し歌うだけの動画である。
紹介文を引用させていただく。
この謎めいた動画が投稿されたのは2010年前後。出所ははっきりしないが、とても不気味なことは確かだ。無表情の女性アンドロイドが、外が真っ暗な窓の前に立って、機械的な声で”I feel fantastic”と繰り返し歌っている。まるで、デヴィッド・リンチの悪夢からとってきたようなイメージだ。
この動画の裏話もやはり不気味だ。投稿されたサイトRedditによると、最初は”I didn’t make it”というタイトルだったようだ。投稿者にコンタクトしたところ、彼は奇妙でレアなある動画専門会社から手に入れたもので、これは彼らの17番目のコレクションだというだけだった。その会社もオリジナルの出所はまったくわからず、フェイクの窓を使ったセットで撮影されたものらしいということしか気を留めなかったという。それがまたよけいぞっとさせられるように思える。
殺人があったことを示していると憶測する者もいる。動画は途中で急に場面が変わって意味もなく草地にズームしているため、このアンドロイドは殺されてそこに埋められた女性を表しているという噂もある。この動画は殺人をふざけたジョークにしてしまう殺人者の病的なやり方だというわけだ。こんな突拍子もない説は信じないにしても、機械的な声と無表情な顔に背筋が凍る思いをさせられることは間違いない。
カラパイア:インターネットの亡霊たち。ネット上でまことしやかに囁かれている7つの都市伝説 引用文で「死体が埋まっている」として触れられている1:47の場所が以下のスクリーンショットになる。
ずっとアンドロイドを映していたのに、脈絡もなく数秒ほど庭の映像が映し出される。
そしてこのアンドロイドが着ている服こそ、殺された女性のもの。
これは……殺人犯による『告白』なのか――。
とちゃんとしたオカルトサイトっぽく煽っておいて申し訳ないが、やはりデマである。
この映像、引用文には『出元が不明』と書かれているが、出元はある。おどろおどろしいサイドストーリはおそらくRedditに投稿した者ないし、翻訳先の記事を書いたライターの創作だろう。
このアンドロイドには名があり、『TARA』という。
これはJohn Bergeronというエンジニアによって作られたアンドロイドで、作成費用に約2000ドルかけて2004年ごろに完成したものだ。
はっきりいって、もう少し可愛らしく――萌え用素をふまえて作れなかったのかと問いただしたくなるが、それはいい。アメリカ人の萌えセンスにはあえて触れまい。
TARAは見ての通り人型であるが、歩くことはできず手首と腕が少しだけ稼働する。なんだかチープなのではあるが、「歌うアンドロイドを作ろう!」という開発思想の元に制作されたので一応は目的を果たしているといえる。
発想としてはVOCALOID初音ミクと同じ根っこというわけだ。
――日本にミクがあるならば、アメリカにはタラがいる。
かたやもてはやされるアイドル、かたや殺された女性のシンボルしかもブサイク、歌もオエーの三重苦。悲しいぐらい差が付いたが比較するのがそもそもの間違いであるのかも知れない。
このタラちゃんだが『androidworld.com』というアンドロイドやパーツの通販サイトでその歌唱力を存分に生かしたミュージックビデオが販売されている。
5曲のミュージックビデオが収録されアメリカ国外は19ドル+送料で買える。お得かどうかはわからない。
販促画像を見ると『Volume 1』となっているが、『Volume 2』は出ていないようだ。
この節の最初に紹介した『I Feel Fantastic』動画は、このTARAのファーストアルバムの3曲目に収録されている『Please』という曲のミュージックビデオである。
「死体の場所を示唆する風景」は死体がどうのという話ではなく、どうやらJohn Bergeron氏の好みの演出だったようで、ほかの曲のビデオでも唐突に室外の映像が映し出される。そしてその演出は浮いている。
楽曲にしても映像にしても、John Bergeronはアドバイザーをつけた方がよいのかも知れない。委託販売を請け負っているandroidworld.comですら、「なにこれ不気味」とバッサリだ。
言いにくいことだがTARAのプロモーションは失敗したと考えていいだろう。あるいはこれが炎上マーケティングの新しい流れ、都市伝説系マーケティングと考えるならば成功と言えなくはなさそうだが、金のなる木、金の卵、とは到底言えそうにない。
しかし、このままではせっかく科学の限界を超えてやってきたTARAがネットの海に埋もれてしまう。オカクロ特捜部としては、ここで彼女がスターダムにのし上がるための幾つかのリベンジ・マネージメント案を考えてみた。
どうだろうか。怒られるだろうか。
追記――勇者と呼ばれた男
――【2017年10月1日追記】――
当サイトによるプロモートが成功したのか、購入者からの喜びの声が届いた。
許可を得たので、この場を借りて紹介させて頂きたい。
あまり期待しない方が良いと思うけどなぁw ともかくも半振慕銀氏の勇気あるファーストペンギン的行為をキッカケとして、TARAはもう一度スターダムを駆け上がるかも知れない。今年の紅白までまだ日があるので、あるいは――世間をタッラタラにしてくれるかもしれない。
ちなみに「ガッカリだ! 何だよコレ!」などの苦情は受け付けておりません。
追々記――勇者の帰還
――【2017年10月18日追記】――
半振慕銀氏から続報が届いたので、氏によるタラビのレビューを紹介しておきたい。
詳細かつ熱意にあふれ、その効果的な使用法にまでふれたAVレビューにこの場を借りて感謝したい。
ここがamazonならば、「100億人ぐらいのお客様がこれが役に立ったと考えています」とか表示されること間違いなし。氏のクチコミポイントもうなぎ登りだ。
しかし15分という内容の薄さが悔やまれる――が、それはいい。感動届け人――半振氏の勇気ある購買ジャーナリズムは、このサイトが存続する限り、この場でたたえ続けたい。久々に、ワロタ。
――【追記ここまで】――
ともかく、タラにまつわる都市伝説は完全にデマだったと考えて良いだろう。
ワイオミング動画のコメント欄で指摘されていたのと同じように、これもバイラルメディアが(おそらく動画の出自を知った上で)PVほしさにデマを拡散したのだと思う。
ワイオミング事件にしてもかなり早い段階にネタバレされており、TARAにしても少し調べればすぐにデタラメだとわかる。だが真相はデマが拡散する速度に追いつかず、最悪の場合そのまま忘れられてゆく。
人々にとってその真偽などは重要でなく、それがデマであろうがインチキであろうが、気軽に消費でき、ひと時のスリルなり笑いなりを得られればよいのだ。
日の当たる場所で2人、スマホをのぞき込んで会話のネタに出来ればそれよいのだ。
カップル男「ほら、これ見てみ。これ電波ジャックの映像なんだぜ?」
カップル女「やだこわーい! じゃあキスして!」
偏見かも知れないが、リア充などと言うモノはきっとこんなふうである。退廃の極みである。
そしてきっと、そんな日の当たる場所からほど遠いところにいる者たちが、その胸に秘めた怨念を恐怖動画へと昇華するのである。
おそらく、今日も。
最後になったが、気になる事をひとつ。
TARAの開発者であるJohn Bergeronというエンジニア。彼は『昇華』するどころか、本当に病んでいる可能性がある。
『ミュージックビデオ』でも常人には理解しがたいセンスを臭わせていた彼であるが、彼はある動画の中で、ピアシングと称してTARAの顔面に太い釘を突き刺している。
本当に、死体は埋まっているかも知れない。
■参考資料 ・UNKNOWN VIDEOS – WARNING ・The Wyoming Incident – Creepypasta ・The Wyoming Incident (Original Upload) ・[WI][Wyoming Incident:STORY/LINKS] ・snopes.com:Wyoming TV Hijack ・Niobrara County Library:Donald McNeal Wilson ・電波ジャック – Wikipedia ・happycube.wikifoundry.com:Videos ・happycube.proboards.com:forum ・forums.somethingawful.com ・[LOCKED] [WI][TRAILHEAD] The Wyoming Incident ・333 – 333 – 333 ・ワイオミング事件とは – ニコニコ大百科 ・ワイオミング事件とは – はてなキーワード ・rocketnews24:【閲覧注意】絶対に夜一人で見てはいけない不気味すぎる電波ジャック映像「ワイオミング事件」 ・カラパイア:ワイオミング、テレビ放送の電波ジャック映像 ・カラパイア:インターネットの亡霊たち。ネット上でまことしやかに囁かれている7つの都市伝説 ・マックス・ヘッドルーム事件 – Wikipedia ・The Mystery of the Creepiest Television Hack ・androidworld.com:Android Music Videos ・FaceGen Modeller ・Wyoming incident. All sources music ・Android Music Videos Review ・I Feel Fantastic・piercing the android ・みくみくにしてあげる♪ ・さちさちにしてあげる♪ feat,小林幸子 ・パーフェクトなジオングを考える12