岐阜県富加町の幽霊マンション―町営住宅を襲うポルターガイスト

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1999年に完成した町営住宅で住民の入居直後から奇妙な現象が起こる。
怪音が響き、皿が飛び、コンセントの抜けたドライヤーから熱風が――。
怪現象としてメディアに大きく取りあげられ、様々な憶測が飛び交い、全国からは自称霊能力者たちが競うように訪れた。
富加町幽霊マンション――そこで何があったのか。

小さな町の、大きな事件

西暦2000年秋。
驚くべき事件が新聞によって報じられた。
4億円の費用をかけて1999年に完成した四階建ての町営住宅で怪現象が起こっているのだという。

日本において、怪現象の報告は決して少なくないが、新聞やテレビと言った大手メディアで大々的に報じられたケースは多くない。この事件はその希有な例だ。

完成直後から、入居した住人たちは夜中に響く怪音に悩まされていた。
「ビシッ、バシッ」だの「キーッ」だの、メモによれば「ガラスビンが転がるような音、ノコギリで切るような音、金槌で叩くような音……」「天井の上を誰かが歩いている音」が聞こえ、頻発する怪音により夜中に目を覚ましてしまう事もあったという。

不思議に思っていても、誰かに話せばバカにされる――と当時の住人たちは口をつぐんでいたのだという。

だが2000年のお盆頃から、音だけではなく、常識では考えられない怪奇現象まで起こるようになった。

週刊朝日による取材に住人が答えている。

「お盆ごろから、さまざまな異常現象が起こるようになったんです。……食器棚が勝手に開いて、お皿や茶碗が2メートルぐらい飛ぶんです。……他にもシャワーや水道から水がひとりでに出たり、勝手にテレビのチャンネルが変わったり……。気がおかしくなって、私、死んじゃうんじゃないかと限界にきたので、会長さんに相談したの」
101号室に住む自治会長の田中氏(石原慎太郎にチョイ似)は、自身も怪現象に悩まされていることもあって、町役場に被害を訴えた。
だが、町の職員が連れてきた施工業者は怪音は確認したものの、「なんの問題もない」と断言し、町としての打てる手立てはこれに終わった。

だが、怪現象は酷くなるばかり。

困り果てた住民たちは祈祷師に『お払い』を依頼する流れとなる。

住民たちの立場からすれば、町営住宅の大家は富加町であるからして、『祈祷費用』の助成を富加町に求めた。だが、町は「政教分離の原則に反する」として、この申し出を拒否。住民たちは自費により祈祷を依頼することになる。この顛末を地方紙が報じたところ、騒動が全国に知られることとなった。

これが2000年の10月ごろだ。

この時期から様々な職種の者たちが富加町へ押し寄せてくることとなる。

大手新聞社、雑誌記者、テレビクルー、そして自称霊能力者たちである。

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当時行われた祈祷の様子。心配そうに見つめる住人たちとカメラを抱えたカメラクルーが見て取れる。 このさい、宗派の違いから祈祷の方法を巡ってのいさかいもあった。
写真元:週刊実話2105号


そして怪談には時期を過ぎた10月15日午前10時。祈祷師によるお払いが行われた。

だが、騒霊騒ぎは収束するどころか、なおも続き、入居者たちを苦しめる。

たまりかねた田中自治会長(石原慎太郎似)は、ある霊能力者の助言を得て、マンションの敷地内に御影石の慰霊碑を建てた。
だが、これもまったく効果がない。

そして、ある霊能力者が、このポルターガイストの原因は、この地で自殺した女性の地縛霊が引き起こしていると主張。驚いたことに、確かに30年ほど前にこの地で亡くなった自殺者がいた。これは――。

オカルトクロニクル運営部は、当時、外れたノストラダムス予言ににガッカリしすぎて、報じられるこの騒ぎも白い目で見ていた。「ふーん。どうでもいいけど、ぼっけぇきょうてぇのう(岡山弁:すごく怖いなぁ、の意)」ぐらいに思っていた。

押しかけるマスコミ、湧いてくる霊能力者、集まる霊。終わらない夏。

あの騒ぎは、いったい何だったのか。
騒霊たちは、ある著名な霊能力者(後述)によって払われたというが、はたして本当だろうか?

もういちど、考えてみよう。

住民たちの証言

とりあえず、被害状況と併せたマンションの見取り図を作成してみた。
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404号、405号室にわんさかいます。

この見取り図を見て「ん?」と疑問符を頭上に浮かべ懐疑的な諸兄もおられようが、ここは結論を急ぐより住人たちの証言を洗い直してみよう。

起こった怪現象一覧。

・入居当初から、ビシッ、バシッという音がした。

・8月中旬から、ゴーン、ゴーンという音がする。(403号)

・深夜、スリッパで走り回るような、パタパタという音。(403号)

・昼間、来訪者もないのに玄関の鍵がガチャガチャ音を立てる。(403号)

・ふと気がつくと、下駄箱の扉が開いている。子供が開けっぱなしにしたのかと思い、閉め、子供の様子を確認してから玄関に戻ると、また開いている。怖くなってテープを貼り付けた。なおった。

・8月の半ばの深夜2時。誰もいない洗面所で突然ドライヤーがうなりを上げて熱風をはき出す。慌ててスイッチをOFFにするも、そもそもコンセントが差し込まれておらず、ゾッとする。(405号)

・食器棚が突然開き、中から皿や茶碗が飛び出してくる。水平に3メートルほど飛ぶ。やはりゾッとする。(404号)

・記者が405号室から隣接する404号室の壁をカメラ撮影しようとしたところ、シャッターがおりず。記者もゾッとする。

・件のドライヤーを撮影する時もシャッターがおりず。

・403号室の3歳児が『おばちゃん』と『おじちゃん』が来ている、と主張。「あ、『おじちゃん』が天井から顔だけ出してる」などと言う。

・3歳児が『おじちゃん』のぶんのお菓子を用意する。

・3歳児が『おじちゃん』にシャンプーしてあげる。

・『おじちゃん』はたまに怖い。『おじちゃん』が怒っているからトイレに行けないと3歳児が泣きながら訴える。

・『おばちゃん』は10月の祈祷で去っていったらしい。

・1日に50回も60回もラップ音。それに加えノコギリで何かを切るような音。(101号)

・爆発音が壁の横方向に走って行く。

・ベランダに出たとたん、方位磁石がクルクルと回転する。

・食器棚のガラスに髪が長く、キュロットのようなモノを穿いた女性がうつる。30代ぐらい。(404号)

・勝手に飛んだ茶碗が、工作機械で切断されたかのように、ほぼ正確な長方形に欠けた。(404号)

・テレビが勝手につく。

・テレビのチャンネルが勝手に4CHに切り替わる。

・3歳児が玄関で『おじちゃん』に「ばいばい」するようになる。

・夕方、買い物帰りに外から部屋の方を見ると、白地に柄の入ったシャツを着た髪の長い女性が4階の踊り場に座っていた。年の頃は30代半ば。

・9月30日、ふと目覚めると、部屋の中に女性が立っていた。30秒程で消えた。

・画鋲が飛ぶようにして勝手に抜ける。

・自転車置き場で知らない女性を見た。(これは怪現象なのか?)

・建設に携わった業者曰く、「実は完成間際に四階に知らない男の人が立っているのを見た」(怪現象なのか?)

・4月と6月の2回、部屋で書き物をしていたら、カーテンがシャッ、シャッ、シャッと勝手に開いた。(101号)

・シャワーから勝手に熱湯が出る。

・茶化すために泊まりに来た人の肩がどっしり重くなる。そのうえ、普段吠えないおとなしい犬に吠えられる。

・なんだか、みんな体調を崩しがち。

・ベランダの花が枯れやすい。(304、403、405号)

・304の住人がベランダから、404の外側に浮かんだ幽霊を目撃。

・住宅建設中、1998年の10月、あるいは11月、404で配管工事の作業者が幽霊を目撃。

・缶がどこからか、部屋の中に飛んできた。(304)

・ガスレンジの火が勝手につく。(404)

・西側の部屋で、潜水艦のソナーに似た音が聞こえる。

・田中会長(石原)は騒霊と戦うために枕元に木刀を常備。だが何を斬ればよいのかわからなかった。


と、以上が2000年に確認できた怪現象の報告である。ほとんど網羅できたんじゃないかと思う。

これだけの事が起これば、ワラにもすがりたくなるのも頷ける。


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霊能力者顛末記

個人的なことを言ってしまえば、この項を執筆するに至ったのは、ポルターガイスト現象うんぬんの解明――と言うよりも、大挙して群がってきた霊能力者たちに興味を持ったからだ。

わかかれし僕は、テレビ映し出す光景に強烈な印象を持った。
マンションに向かって頭を垂れ、フェンスにずらりと並び、なにやらブツブツつぶやく霊能力者たち。

そこに神々しさや神秘はカケラもなく、どこか醜悪ですらあった。

事件のほとぼりが冷めた頃、田中会長(石原慎太郎ちょい似)の元には350枚近くの名刺が残ったそうである。

「一軒当たり100万円で祈祷しましょう。言うとおりにしないと死人が出る」 などと恫喝した霊能ヤクザもおり、やって来るなり、勝手にお蹴いを始めて、その後、法外な料金を請求する者もいたそうだ。

押しかけてきた霊能力者や宗教団体が、めいめいに除霊行為を行い、好き勝手な霊視をする。ほとんどが名声と金目当てだったろうと関係者は言う。雲霞の如く――とはこういう事態に使うのかも知れない。

近くの神社に塩を撒いて、神社から苦情を受けた田中会長(ry)が掃除に行くハメになったり、大量の塩を口の中に詰め込まれたり、頭を叩かれた住民もいた。迷惑きわまりない。

とはいえ、多くの自称能力者たちは、手弁当で勝手にやってきて、勝手に祈祷を行い、その模様を写真に収めて帰って行ったそうだ。
事態が収束した際の宣伝に使うつもりだったのだろう。

若干、正義感の強いオカルト・クロニクル運営部としては、この騒ぎに駆けつけた、あるいは便乗した霊能力者のリストを作り、特に悪質なモノを糾弾し、少しでも世の中を良くしようかと考えていたが、あまりにも情報がなく断念した。くやしい。情報をお持ちの方はこっそり教えて下さい。

資料から解る範囲で、この一件に関連した霊能力者を挙げておこう。




織田無道
もはや、出オチの感が否めないが、実は駆けつけた霊能力者の1人であることを住民が証言している。

昨年の10月頃、あの織田無道さんが来たんですが、彼はお祓いや除霊じゃなくて、霊を呼び出す儀式を始めたんですね。で、呼ぶだけ呼んどいて、その霊を元の世界に帰さずに、自分だけが帰っちゃったみたいでした。災厄の種をひとつ増やして、どうするって思ったんですけれど

さすが、破戒僧は違う。除霊するってレベルじゃない。




中村裕美
イタコで有名であるらしい。彼女は週刊プレイボーイの依頼により、富加町営マンションで撮影された写真を霊視している。

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中村裕美女史による鑑定。写真の左端に苦しみに歪んだ表情の落ち武者のような生首が浮かんでいるらしい。年の頃は20代、何百年も成仏できない地縛霊なのだそうだ。霊感のないオカクロ特捜部には何も見えない。
写真元:週刊プレイボーイ2000/11/14号


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同女史による鑑定。ドアの前に白髪五分刈り、眉毛が太く目が大きい初老の男性がいるらしい。「ここが一番落ち着く……」と旅行帰りのお母さんのような事を言っているらしい。
3歳児の言う『おじちゃん』とはこの紳士の事だろうか。やはり何も見えない。
写真元:週刊プレイボーイ2000/11/14号


なんだかよくわからないが、まぁ週プレということで。




江原啓之
説明するまでもなく、スピリチュアルなカウンセリングで4億の豪邸を建てた男。
江原先生もやってきてました。

訪れた際の顛末は佐藤愛子のエッセイ、『冥途のお客 (文春文庫)』に収録されている『どこまで続く合戦ぞ』に詳しい。

要点だけを書くと、以下のような霊視をしている。

(マンション近くの野原を見て)黒い三角の傘のようなモノをかぶった男が数人、こちらを窺っている。
手には鉄砲を持っている。
よくよく数えてみると、23人いる。

「これは鉄砲隊ですね、戦国時代ですかねぇ。や、今、馬に乗った武士が現れました。頭におかま型の帽子をかぶって、胴だけの鎧をつけています」
しかし、佐藤先生には何も見えない。そんな事を言われても、「はぁ、そうですか」としか言えなかった。

やがて合戦が始まる。武器を携えた雑兵たちが町営住宅に向かって突撃を開始した!

町営住宅を見れば、ベランダや窓から兵士がひょっこり現れ、応戦を開始した。

江原霊視によれば、この町営住宅と重なるように粗い板を張った砦があるという。(※註 建物の幽霊?)ベランダから『やられた』雑兵が降ってくるとまでいう。

この町営住宅の怪を収めるには、この戦いを終わらせるしかないと江原先生は主張する。そして、それにはこの戦いを命令した武将の霊を呼んで、その口から「戦いをやめよ」と言わせるしかないそうだ。そうすれば雑兵たちも成仏できるらしい。

わたしが1人で今、あの野ッ原の真ん中に入っていって、霊たちに説得を試みたとしても、あれだけの数で、しかも強い一念に凝った霊たちを説得できる自信はありません。多分、わたしはやられてしまうでしょう

だそうだ。
やられてもいいから、やるだけやってみて欲しかった。

富加町史によれば実際に富加高畑の周辺で合戦はあったそうだが、四階建てのマンションとぴったり重なるような砦を当時作れたんだろうか?
ともかく、『江原 VS 騒霊』は騒霊の不戦勝。江原先生、黒星です。勝ったことあるのかは知らないが。

しかし、戦いを命令した武将の霊を呼んで、その口から「戦いをやめよ」と言わせるという解決法……。実は、織田無道はその命令した武将を呼びたかったのではないか。って、そんなワケないか。織田無道だし。




下ヨシ子
そして、真打ちの登場である。
富加の騒ぎに終止符を打った真言宗の阿闍梨(高僧)――とは彼女のことを指す。

11月の28~30日、弟子十数名を連れて富加町へ赴き、除霊を行なった。

それ以降、ピタリと怪音が鳴り止んだとされている。

下ヨシ子による霊視では、ポルターガイストの原因は以下4体の霊によるものだとされる。

・自分で作った刀で試し斬りされた刀鍛治職人。

・冤罪で処刑された男

・ポルトガル人宣教師2人

これは彼女の著書『下ヨシ子の悪霊退散!!―日本一の霊能者のパワー炸裂 (amazon)』に詳しい。思わず、うつむいて半笑いになってしまう書名ではあるがそれはいい。

この書籍によると、ヨシ子先生は熊本空港に向かうクルマの中ですでに上記の霊たちのことを予言していたとのだという。だがその霊視は弟子たちすら信じてくれなかったそうだ。

そうして現地に到着すると、やはりポルトガル人宣教師の霊が「パンが欲しい、ワインが欲しい、聖書が欲しい」と訴えてきた。物欲だらけの聖職者ですね。俗物に成り下がってる。

著書によると上記の4体の他にもなんだかんだで霊がいたそうだが、ヨシ子先生はまとめて「破ぁーー!!」で除霊した。
そして、住民たちが建立した慰霊碑が低級霊を呼び寄せるとして、それの破壊も命じた。

下ヨシ子の著書によれば、この後ポルターガイストは収まり、住民たちの体調不良も治った――「一件落着 悪霊退散! ニッポンイチの霊能パワー炸裂じゃあ! やっぱヨシ子、敵には回したくないオンナじゃのう!」としている。

ですが、本当だろうか?

著書には田中会長の癌も治ったと書かれているが、『癌』に触れているのは彼女の著書だけで、他の資料では『腰痛』となっている。しかも、慰霊碑を壊した直後に腰痛になったと。

霊障の知見に乏しいオカルトクロニクルとしては、会長はほかの住民と二人がかりで御影石を(大きなハンマーで)砕いた事実をして、腰痛に関しては霊魂の存在を引き合いに出すまでもないと思うのです。慣れない作業で腰を痛めただけじゃないスかね。

霊だって冤罪をかぶされては浮かばれぬ……などと考えてしまうが、どうでしょうシモヨシせんせい。

ただ、最近では高額浄霊代での訴訟を起こされて負けたりと、あまり評判の芳しくないヨシ子先生ではあるが、この富加町の件については金銭を絡めていないことだけは彼女の名誉のために書き記しておく。

とはいえ、それも「売名のため」と週刊誌に叩かれてはいましたが。うむ。除霊の道は修羅の道。

そして、実際はヨシ子せんせいの除霊後も、被害は続いている。

真相はどこにある

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事件を報じる新聞。
毎日新聞2000年10月30日付け


大騒動が終息して2年ほど経過しても、町営住宅では被害が散発的に起こっていた。

事件の中心地だった町営住宅A棟に続き、B棟、C棟が建設され、新築されたそちらでも『鎧武者がキタ!』『今度は貞子!』などと週刊誌に書かれている。

なんだよ! 全然収まってないどころか、もっとレベルの高い霊が来てんじゃないかよ!」と憤慨の諸兄もおられるだろう。

では懐疑的な立場の人々はどう考えているのか。
原因とされた説をいくつか挙げてみよう。

怪音は建材が鳴っているだけなんだよ説
ベランダに世帯を仕切る間仕切りボードがあるが、ボードが熱で伸縮する際に枠とのひずみが拡大してパキ、あるはピシッという音が出る。
天井からのトントンという音は、ウォーターハンマー現象。ある世帯が水を使うと、水道管の中の水圧が変化し、それを調節しようとする際に音が出る――。

オカルト雑誌の老舗である『ムー』に掲載された日本音響研究所の鈴木所長の説である。
ムーが懐疑的な意見を載せているのには驚かされるが、それにはどうも裏がありそうだ。

この熱膨張&ウォーターハンマー現象説だけでは、町営住宅で起こった全ての怪現象の説明ができない。

ムーとしては『(しょぼい現象である)怪音は説明がついていいすよ? でも他の怪異は説明できないすよね? つまり、超常現象だよね?』 という誘導が真の狙いだったのではなかろうか。ふふん、そんな長期的な目論みにハマるオカクロではないんだぜ。

だが、実際に鈴木所長の説だけでは(科学的な)全ての解はえられない。

この町営住宅はPCプレハブ工法(あらかじめ部材を工場で生産・加工し、建築現場で加工を行わず組み立てる建築工法)で建てられており、建材の節約や短期で建てられるメリットがある反面、熱膨張などが原因でパネルがずれて様々な音をたてるデメリットもあるそうだ。

そして富加の町営住宅は冬場に短期間で建てたために、暖かくなると音が出やすいのでは?――という町役場の意見も無視できない。

日本超心理学会誌による『近年における国内のポルターガイスト事例調査』では、「一部の音が一定の発生周期をもっているようだ」と書かれており、怪音についてはなにかしら科学的な説明がつきそうだ。

低周波に違いないんだぜ説
「モノが飛ぶなどの現象についても、『低周波』が原因と考えられる。位置関係とかで低周波に物体が共振すると、物体自体が振動します。茶碗などが飛んだという食器棚の扉は聞きやすいマグネット式。低周波で扉が聞いて、扉と接触していた食器が落ちたのでしょう」

早稲田大学の大槻義彦教授

オカルトバスターこと、大槻教授の意見である。
キョージュならてっきりプラズマのせいにするかと思いましたが、低周波による共振を疑っておられます。

しかし、やはりこの説でも全ての怪現象を説明できるモノではない。そもそも共振でお皿が『震える』ぐらいはイメージできるが、『水平に飛ぶ』というのを説明するに、やや強引な説に思えますがどうでしょう。

■活断層の影響じゃないの説
富加町付近には日本最長の活断層『濃尾活断層』が走っている。

大地震が起こらんとするとき、活断層から電磁気(波)が生まれ、それが人に原因不明の体調不良を引き起こさせたり、動物に異常行動をとらせる。
今回のようなポルターガイスト現象も世界的には報告例があるそうだ。

電磁気学の専門家(姓名不詳)いわく。
「電磁気が動物や人体に影響を及ぼすことは、医学の分野ではよく知られた事実。女性、特に妊婦、また子供などの体の弱い個体ほど影響を受けやすいこともわかっている。テレビのチャンネルが変わるのも、棚が開いてモノが勝手に飛ぶのも電磁気の影響で起こり得ることと思う」

電磁波の影響で住人たちが『脳の中の幽霊』を見ていた、全ては幻。ということか。

すっきりしないが、この説なら『コンセントの抜けたドライヤーから熱風現象』が説明できる。つまりは「夢でも見てたんでしょ」だ。

ハチソン効果説
こういうSFチックな不可解現象が起きた場合、自然発生的に(ごく一部の)有識者が呟く仮説。

カナダの科学者ジョン・ハチソンが1979年に発見し、ビデオ撮影に成功した。オカルト業界ではおなじみのテスラ・コイルを用いて発生した電磁波(スカラー電磁波)によって、反重力物体浮遊、物質破壊などの現象が起こるとされる。

伝説のフィラデルフィア実験【別項】とも関連し、超常現象の謎を解く鍵とも言われているが、その真偽は(ごく一部の)有識者の間で議論が続いている。

ジョン・ハチソン自身が世界中で起きたポルターガイストをハチソン効果の影響だと主張しているらしいが(要出典)、よくわからない。
このハチソン効果が富加で起きていたならば全ての説明がついてしまう。ハチソン効果に不可能はないのだ(要出典)。おそらく霊界と現世を繋ぐ穴さえ作ってしまうだろう――が、おそらく富加町にはテスラ・コイルはない。ジョン・ハチソンも住んでいない。

すべては仕組まれていた説Ⅰ 黒いマンション
怪音はあったが、ポルターガイスト現象や幽霊の目撃など実はなかった。

町営住宅の家賃を下げるため、住人たちが結託して幽霊騒動を仕立てた――という身も蓋もない説だ。

でも祈祷料や御影石も自腹であるし、マンションから避難した入居者もいたぐらいであるから、狂言などとは思えない。
人の良さそうな田中会長(ry)を、オカクロ運営部は信じます。

すべては仕組まれていた説Ⅱ 恐怖の町おこし
本当だったら一番怖い。陰謀論者もメシウマだ。

しかし、『政府の陰謀』ならともかくも、『町の陰謀』ではいささかスケールが心もとない。

4階の彼女が爆心地説
まことしやかに語られる説であるが、町営住宅の中で一番強烈な被害に遭っていた女性が事態を大きくした、という話がある。

本当は怪音程度であったのに、「こんな被害にあった!」「こんな怖いめにあった!」と騒ぎ立て、それが集団ヒステリー的に周囲に感染拡散していったという話だ。
その女性の部屋にはオカルトを題材とした漫画が積まれており、それに影響を受けたのではないかと指摘する向きもある。

しかし、田中会長(ry)は木刀を枕元に置いて寝るほどだったのだから、何かはあったのだろうとオカクロ特捜部は素直に頷けない。

というわけで、様々な説を紹介してみたが諸説紛々とはこういう事を言うのだろう。
どの説でもこの町営住宅に起こった現象を完全に説明することができない。

単純明快に『コトの真相』を白日の下にさらしてくれる「トンデモ超常現象」シリーズでも、「本物の超常現象があったという証拠は見つけることはできない」とするだけで、なんだか歯切れが悪い。

日本超心理学会の小久保秀之氏が、科学的な分析に取り組んでおられるので端的に書いておく。

ホール素粒子型磁力計、直交3軸フラックスゲート、各磁力系のアナログ出力をSONY製データレコーダーによってDAT記憶。異常な現象の発生を訴える住民の住居内で行う。
奇妙な電気信号が観察される。

DAT記録とコンピュータに取り込んだ記録の比較。観察された信号はいずれもコンピュータのみに記録されており、DATには何も記録されていなかった。
パワースペクトル上、2カ所にピークが見られた。後の解析でDATレコーダーのモータ雑音と判明。
信号の観察された一分間のパワースペクトルでは、このモーター雑音のピークも増大していることから、検出された奇妙な信号は、なんらかの理由で一時的に電気回路の増幅率が増大した結果と考えられた。

■論文の暫定的結論
1)心理的要因
2)物理要因
3)超心理要因
の三要素がからんだ複合的な現象であったと考えられる。
超心理学研究 日本超心理学会誌
と、真面目な調査によって導き出された『複合的現象』という暫定結論に、オカルト・クロニクルは賛同します。この騒動に関してオッカムの剃刀は適用できないし、するべきでない。

興味深いのが、マンション全体が怪異に襲われていたわけではなく、まったく報告がなかった部屋があることだ。これを突き詰めていけば何かしらの謎解きが得られたかも知れない。

あのマンションで何があったのか。結局、科学では完全解明に至らなかった。

除霊なり浄霊と呼ばれる儀式に効果があったのか、あるいは経年によって建物が『落ち着いた』のか。あるいは他に? 結局、決着は灰色のままだ。

ただ一つ言えることは、何百年その土地に居住していようが、霊体だろうが、家賃や固定資産税を払わなければ追い出されると言うこと。
現代を生きる我々の肩に重くのしかかるのは、悪霊ではなく、税金なのである。

もし、これが祓えるなら――祈祷代も惜しくはないが。


■参考資料 新・トンデモ超常現象60の真相(下) ・超心理学研究 : 日本超心理学会誌 冥途のお客 (文春文庫) 下ヨシ子の悪霊退散!!―日本一の霊能者のパワー炸裂 怖い噂 4 (ミリオンムック) ・毎日新聞 / 中日新聞 ・月刊ムー ・週刊ポスト2000/11/01号 / 週刊プレイボーイ2000/11/14号 ・週刊アサヒ芸能2001/02/08号 / 女性セブン2002/12/05号 ・週刊実話2000/11/03号 / 週刊朝日2000/11/03号 ・週刊女性2000/11/07号 / 週刊大衆2001/02/05号
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