君に知らせるべきことを
警察官が発砲までしている事実をして、「実際になにかはあったんだろう」と考えるものは少なくない。もとより超常的な出来事を好んであつかう界隈において、『警察官』という肩書はそれだけである程度の信憑性を保証する目撃者属性であり、それが2人も――というのはあまり見られるケースではない。
他にも軍人や医者、政治家や教師などは高評価される傾向があるが、「清廉潔白で善良であることを求められる職業に就いている人なら、社会的立場を失いかねない――つまらないウソはつくまい」というワケであろう。
過去には「清廉潔白で善良で信頼に足る人物である」という情報そのものが捏造であったケースもあるが、それはいい。
逆説的になるが基本的にアメリカにおいて、そのコミュニティで尊敬をうけ、かつ信頼できる――とされる人物は、いずれかの段階で何らかのUFOや怪物と遭遇することが義務付けられている――という消息筋からの情報もある。
つまるところ、飲む、打つ、買う――といった価値観とその実践にとりくむ諸兄の信頼は、悲しいかな低くならざるを得ない。オカクロ特捜部にしても、飲みながら記事を書いていたりするので信用してはいけない。だいたい今も飲んでる。何かを忘れたい時、あるいは何かを思い出したい時、人は酒に頼るのかも知れない。
ともかく前述した『ラブランドでの目撃年表』の中でもひとつひとつ精査してみれば、この『飲む』に起因していまひとつ事実が疑われてしまうケースがある。
たとえば前述した通り1955年の『ブランチヒル事件』のハニカット氏はフリッツ署長のところへ駆け込んださいに、酒の臭いに気づかれている。1
(註記:ブラッド・スタイガーは『Real Monsters Gruesome Critters and Beasts from the Darkside』P243で「署長いわく酒の臭いはしなかった」と全く逆のことを書いているが、オカクロとしては直接取材したブローチャーの話を採用。手間ひまかけて現地取材までしているのに、わざわざ『飲酒していた』というUFO研究者からすれば『負でしかない情報』を署長談として記載する必然性やインセンティブが薄いため)
1999年8月の「巨大なカエルが川を上がってくるのを見た」というスティーブ(仮名)は「アルコールを飲み過ぎて、失神しかけてるときに」目撃しており、
それに続く1999年9月の「大きな緑色のもの」を目撃した2人は川沿いで車をアイドリングさせて酒盛りをしているときにざんぶと水の音を聞き、ソレを目撃した。両方のケースはともに本人たちが『多量の飲酒』があったことを認めている。
2002年7月4日の「ジュード・ティレリーと友人がリトル・マイアミのそばでキャンプをしている時、川岸に直立した『大きなカエルのような男』を見た」ケースも、川遊びのナグサミにと曰く「テキーラを”狂ったように”飲んでいた」ことを認めた。2
アメリカ人、やたら飲みすぎだろ。
アルコールは多くのトラブルの原因であるけど、
その解決でもあるよね!
しかし少なくとも勤務中で飲酒も薬物接種もしていない(そう信じたいが)にも関わらず72年にショッキーとマシューズの両警官が何かを見たのは事実。
それが管内で大きな話題になり両警官が住人たちから嘲笑されたのも事実。
ではあの3月、あの川沿いで目撃されたのは何だったのだろう。
ここでは当時から現代に至るまでに唱えられた様々な仮説を見てみよう。
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イグアナ説
カエル男などではなく、飼育先から逃げ出したイグアナだったんだろう――とする説。じつはこのイグアナ説に関しては、当の目撃者であるマシューズ警官が「イグアナだったに違いない」とかなり早い段階から主張している。具体的には『ジャーナル・ヘラルド』紙1972年4月12日付の紙面にてその発言が見られる。本人の目撃から3週間後の記事だ。
紙面にはマシューズ警官へのインタビューが掲載されており、記事を要約すると。
記事の最後には少し記者に馬鹿にされてすらいる。
この「イグアナだった」という発言をマシューズ警官は公的に繰り返し発言している。
篤実な懐疑派諸姉兄はニンマリして言うだろう。
「ああ、やっぱりな」と。カエル男なんてないさ、カエル男なんてウソさ、と。
だがタフでソリッドなビリーバー諸姉兄は言うだろう。
「いやさ、イグアナが『ガードレールに足をかけて乗り越える』のか? 『二足で直立』するのか?」と。
このあたりは、もうひとりの目撃者であるレイ・ショッキー警官が「そういえば、イグアナだったかもー?」ないしソレを否定する発言でもすればイグアナ論争は収束しようものだが、このイグアナ説も含めショッキーは事件以降、口を閉ざしたままだ。
上記の『ジャーナル・ヘラルド』紙によれば、ショッキーは直属の上司にだけは事件の報告をしたようだが、それ以降、公的な場所で発言した記録は見つけられなかった。85年の『ラブランド・ヘラルド』紙でも「現在もラブランド警察に所属するショッキーは目撃談を語ろうとしない」と書かれており、1999年の『シンシナティ・ポスト』紙で以下のように書かれている。
レイは自身が深刻な中傷を受けることを知っていたが、それでも報告書を提出した。彼はやがて、それをひどく後悔するようになった。
「レイはそのことであまりにも嘲笑されたので、ずっと前にその件について話すのをやめたのです」と母親のメアリーは語った。
The Cincinnati Post 1999年8月14日付 ラブランド・フロッグ事件に最初に触れた新聞記事は『シンシナティ・ポスト』の1972年3月27日付で、コラムニストのSi Cornellが触れたものとなる。
この中でもマシューズによる直接の証言らしいセンテンスは見つかるが、ショッキーの直接の発言――らしい発言はない。二重引用符はあるものの、おそらく伝聞を元にくくられた発言だ。
実際にどうだったのかはショッキー警官が亡くなってしまった今知るすべもないが、新聞に載るほど話が大きくなってしまったこの時期から事件について語るのをやめてしまっていたのだろう。
このイグアナ説については、すこし引っかかる事実が見られたので後に触れる。
地球外生命体仮説
地球外生命体、ないしそいつらのペットに違いない説。
『Fortean Times』の#361にてフォーティアンの、ロブ・ライダー(本業はオハイオ州コミュニティ・カレッジの英語講師)が『ラブランド・フロッグの目撃地点に行ってみた』という旨の記事を書いているが、その中で以下のように触れている
もう一つの可能性は、フロッグマンが地球起源ではないということである。ロバート・ハニカットによる1955年の目撃談によれば、ラブランド近くの橋の下にいたクリーチャーの1体は、「火花を発する」装置を持っていたと報告されている。
これは、目撃者がミッシング・タイム体験をしたという事実と相まって、全体がエイリアンとの遭遇事件のように聞こえる。
実際、この目撃情報はUFO研究家のレナード・ストリングフィールドとテッド・ブローチャーによって調査された。ラブランドのカエル男は地球外生命体だったのだろうか?
《Fortean Times #361 2017-Christmas P41》 ちなみにロブ・ライダーも『橋の下事件』と『ブランチヒル事件』をごちゃ混ぜにしてしまっているが、それはいい。実際、大した問題ではないし。大して違わないし。
ともかく、引用文のなかで書かれている『ミッシング・タイム体験』というのは、UFOにアブダクションされた――ないしされた可能性があると主張する人々が「10分しか経っていないと思ったら2時間ほど経ってました」という趣旨のよく聞く体験談である。
この『時間を盗まれた現象』がラブランドで起こっていた――ならばカエル男とかトロールとかいてもおかしくないよね、このケダモノは地球外から来たモノだもの――。
そうであればあるいは面白いのだが、どうも詳しく調べてみるとコレも伝言ゲームのミスくさい。
ロブ・ライダーや他の著名UFO研究者が『失われた時間』があったとするのはハニカット氏のブランチヒル事件で、ざっくり言えば「ハニカット氏がヤツらと対峙し、車の近くにいたはずなのに気がついたら、車で署長の家の近くまで来ていた。運転した記憶もないのに」というモノである。
様々な資料で触れられてきたこの話の大本のソースは、ストリングフィールドの『Inside Saucer Post … 3-0 Blue』である。そこに次のような記述があるためだ。
For about three minutes R. H. said he stood still, just watching—too amazed to be afraid. Next thing he remembered he was on his way to Fritz’s office.
おおよそ3分間、R.H.(註:ハニカット氏)は立ちすくんで、ただ驚きのままに眺めていた。恐れる余裕すらないほどだった。次に彼が覚えていることは、フリッツ署長のオフィスに向かっている最中の記憶だった。
《Inside Saucer Post … 3-0 Blue P67》 この短い記述が当該ケースにおいて『ミッシング・タイム』が起こった根拠として長年引っ張り出され続けてきた。
訳し方、捉え方によっては間違いが起こりやすい文節ではあろうと思う。正直、上記の訳で正しいのかもわからない。
だが少なくとも、直接ハニカット氏にインタビューしたテッド・ブローチャーの『Close Encounter at Kelly and Others of 1955』の記述によると、ちゃんと自分で車に乗って、ヤツらを通り過ぎ、そこで怖くなり、知己の署長宅まで向かった――と本人によって語られている。3
別に時間盗まれてなかった。
この『失われた時間』現象がなかった事を根拠に地球外生命体仮説をクサする訳でも無いが、どうも他に支持すべき根拠らしい根拠もみあたらない。1955年、当夜にUFO目撃騒ぎはあったが、72年3月にはそういった報告はない。
レプティリアン説
何かしらの人型トカゲ族だったのではないか――という。
ちなみにエンサイクロペディア的な書物で多くの場合、『トカゲ男の項でついでのようにラブランド・フロッグが紹介される』という由々しき扱いになっており、酷いものではカエル男さんを爬虫類コーナーにて紹介している。
「まぁ、イグアナって話もあったし、どっちも変わらんじゃろ」――ということなのだろうが、両生類アイデンティティは尊重すべきである。
未知生物に関する著作をいくつか書いたマイケル・ニュートンはその著作の中で「トカゲ男と共通点が多い」と指摘している。4
ともかくもラブランドで事件があった翌年、1973年にはニュージャージー州のニュートン・ラファイエット地域の人々が『人間とワニを掛け合わせたような巨大な生物に遭遇した』――とジェローム・クラークが書いている。5
一部の過激な陰謀論者によれば、アメリカ政府はレプティリアンに支配されているという。人類に知られないよう、自らの存在を偽装し秘密裏に政府を乗っ取っているのだと。それが本当かどうか知り得ないが、ヤツら存外気ままに散歩をしているらしい。
オオサンショウウオ説
ネッシーやモケーレムベンベなどを学術的に調査したことで有名なシカゴ大学の生物学教授ロイ・マッカルが主張。6
オハイオ州における記録上最大の両生類はヘルベンダー(Cryptobranchus alleganiensis)と呼ばれるサンショウウオの一種である。最大で63cmほどに成長する。オオサンショウウオも種類によっては1.5~2.7mにも成長した目撃談もある。
1960年にはカリフォルニア州北部のトリニティ・アルプスで動物トレーナーのヴァーン・ハーデンとその仲間が約2.4mの巨大サンショウウオを捕まえたとの記録もある。7
が、オサンショウウオは水中ならいざしらず、地上で素早く動いたり二足歩行はしない上、72年に官民とわず行われた捜索にも引っかかっていないので、この線は薄いと思われる。
巨大化したカエル説
これは概ね環境破壊などに起因した奇形が想定されるようだ。
実際に地方紙『Fort Collins Coloradoan』2011年9月27日付にラブランドにて五本足のカエルが見つかったとの記事を見ることが出来るが、数センチのカエルが1.3mまで成長して二本足で歩き出し、警官とひと勝負やらかす――というのはやや苦しいのではないか。
実際に当地にカエルが多いことはよく知られており、前述のロブ・ライダーも気象条件などもあるのだろうが「カエルをタイヤで潰さずに移動するのは困難だった」と書いている。
巨大カエルというだけでいえば英国カーライルでは1972年子供サイズのカエルが目撃されている。8 1987年には中国で、1993年にはイタリアで同様の目撃報告が記録されている。
フクロウ説
未知生物研究者クリス・オリックが提唱。
コキンメフクロウ(Strix nebulosa)が想定される。9
だがオハイオ州南部はコキンメフクロウの通常の生息範囲外。
コエロフィシス説
小型の恐竜が生き残っているのではないかという。ジョン=エリック・ベックジョルドが提唱。
荒唐無稽とされあまり真剣にとられていない。10
ミュータント・メロンヘッズ説
都市伝説。
1900年代はじめにオハイオ州の孤児院で行われた秘密実験によりカラス教授が生み出したメロン頭のミュータント。
そのメロンヘッズたちはカラス教授を殺害し、現在も森を彷徨い、逃げているという。
その残党がラブランドに逃げ込んだのだろう――という。11
都市伝説の説明に都市伝説を持ち出すのか、とやはり荒唐無稽として扱われている。
そもそも頭はメロンじゃなくカエルじゃなきゃ困る。
ナメるなよ!
病気の犬説
かわいそう。
『Skeptoid』のライアン・ハウプトによると、疥癬にかかった犬が疑わしいとのこと。
疥癬はある種のダニによって引き起こされる皮膚疾患で、酷くなると体中の毛が抜けたり腫れが起こり、普段見慣れている姿から大きく変貌する。それを警官が誤認したのではないか――という。
チュパカブラなども疥癬にかかった野生動物説が根強い。
文化起因的なモノ説
映画『大アマゾンの半魚人』(1954年)が公開された後に、ブランチヒル事件や他の『水から出てきたなにか』を目撃したケースが続発。みんな映画に影響されたんだろうね、という説になる。
ショッキー警官やマシューズ警官も、映画公開時に5歳前後であったために、『ラブランドの怪物』が刷り込まれてたのではないか――例によって「枯尾花に幽霊でも見たんだろ」ということになる。
やや強引とも思える。
地下世界からやってきたヤツら説
ユーフォロジストの機関誌『UFO Review』に次のような記述がある。
「この地域には地下の川やいわゆる『地球の中空』への入り口に関する伝説が存在している」12
ワンチャンあってほしい。
デッチ上げ説
72年の2警官のケースでは見当たらなかったが、2016年8月のサム・ジェイコブスが目撃・撮影したラブランド・フロッグに関しては『物言い』がついている。
事件の概要としては、サムがラブランド・マデイラ・ロードとイザベラ湖の間あたりを恋人とポケモンGOをプレイしながらいたらカエル男と遭遇。
「ゲームの中ではなく、実際の巨大なカエルだった」
驚いたサムは、数枚の写真と短い動画を撮影した。
これを8月4日にシンシナティの地方局WCPOが報じると、翌日にはFOX系でも取り上げられ、世界中へと広まった。13
なんだか過度に目が光りすぎているように思えてよくわからないが、元来よくわからない生き物であるので、よく分からなくていい。
これにはハイエンドなビリーバー界隈諸姉兄もニンマリだ。「ほうらな、この孤独なシルエット、これはマギレもなくヤツさ」と。
懐疑的な界隈は例によって「いや、こんなんおらんやろ。本当に愉快な人たちだ」とし、カエル男ファンによる着ぐるみ説、どう考えても人工的な光源説、人形説などがネットを中心に囁かれた。14
着ぐるみ説は「実際にラブランドのジム(仮名)というモーラー大司教高校の一生徒が犯人であったと判明した」――との言説が飛び交いもした。(註記:過去にはWikipedia(英)にも書かれていたが、現在は削除されている)
心底どうでもいい余談になるが、この着ぐるみ説のソースとなるのがモーラー高の学生新聞(2020年11月13日)に書かれた記事で、そこで記事全体を読めば
と、非常にユーモア濃いめ冗談マシマシの学生新聞であり、最初にこれを引っ張り出してきて『着ぐるみ説の証拠』とした者は業の深いことをした。
これをして完全にジム(仮)が2016年に着ぐるみを着て出没した可能性を否定できるモノではないが、どうもね。
懐疑的な界隈では2016年のケースについて興味深いものが発掘されている。
『MY STRANGE & SPOOKY WORLD』にて「$20.00未満であなただけのラブランド・フロッグをデッチ上げましょう!」とする記事で、そこではサム・ジェイコブスが目撃・撮影したラブランド・フロッグの正体に迫らんとしている。
ここでは目が光るカエルの置物、正式名称『ウィルソン&フィッシャーソーラーフロッグ』という――その商品が怪しいとして、再現まで試みている。
これもまた実際にこの置物が使用されたかどうか――は定かではないワケであるが、「こんだけ目が光りまくってたら、普段からもっと目撃されてるだろ」という冷静な意見も胸においておくべきではあるだろう。
ただ個人的に気になったので、大元となった動画を映像補正してみた。
すると、暗闇のなかで映像が途切れる最後の瞬間、明らかに生物のような動きを見せているように思えた。
非常にわかりにくいが、振り返る、ないし顔の向きを変える瞬間、腕の長さや体型から『まさに人影』と言わんばかりの雰囲気がある。
どうだろうか。
少なくとも置物という趣ではないように思われる。もっと単純に考えれば、『登山などに使用するヘッドライトを頭部に2つ付けた人間』というのがシンプルでいいが、もちろん何ら証拠のない妄言のたぐいではある。
他にも1880年代に当地にて少年たちを襲い、怒った村人たちに追い詰められ、瀕死にまで至ったが命からがら逃げ出した伝説の『クロスウィック・モンスター』だった――もなどの諸説はあろうが記事が無駄に冗長になってしまったのでここでは触れない。
かくして諸説紛々のラブランド・フロッグではあるが愛すべき『いたって常識的で理知的』な諸姉兄連合にひとつ聞いて欲しい話がある。
次ページではそれに触れる。
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