ヘクサム・ヘッズ――狼男を呼べる石

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あなたの肩にたどり着けたなら

我々は本人がそれと気づかないうちに、それぞれの色眼鏡を通して世界を見ている。いわゆるバイアスである。

たとえば、『考古学者アン・ロス博士』といわれれば、早くもそこに権威性を感じてしまう。信憑性が高い、科学的に正しい、そう肯定的に受け取りやすくなる。認知バイアス、ハロー効果などと呼ばれるモノだ。

「教養がない人は『何を言ったか』でなく『誰が言ったか』で判断する、と東京大学の教授が言っていたからきっと正しいと思う」――というジョークがあったが、テレビ業界が早稲田大学の教授だの中部大学の教授だのを重用し続けることからしても、この心理学的作用の検証は不要なようだ。

ヘクサム・ヘッズはケルトの遺物である」と、考古学者が言うのと、オカルト研究家が言うのとでは肩書きが違うだけで受け取られかたが全然違う。

オカルト、とくにハードコア・ビリーバー界隈でよく見られるのが、ふだんは超常的なモノを肯定するために「科学では解明できない!」と、科学者の真摯な論考に聞く耳をもたないくせに、自説に都合の良い『成果』だけはつまみ食いして援用し、科学の権威・肩書き――その後光を利用する。致命的なほど自説に足りない説得力を借用するためだ。

出自のよくわからないヘクサムヘッズ正面および横面写真。
いつ誰によって撮られたかよくわからないが、ヘッズの現物を撮影した数少ない資料とされる。
画像出典:Quest for the Hexham Heads


ともかく、この話の『権威付け』として名を連ねてしまった考古学者アン・ロス博士は、ヘクサムヘッズの一件以降、考古学、そして奇現象愛好家たちの引きおこした論争に巻き込まれて行く。

かくして
そうだ、学者が見たというのだから、本当にあった出来事に違いない
こう考える者が出てくるのも当然の成り行きだった。

そこで一連の出来事に説明がつくとして、『ある仮説』がにわかに注目を浴びる。
その仮説について少し触れよう。


同じ場所にたたずみ、飽きずに同じ行動を繰り返す幽霊をして、日本では地縛霊と呼ばれることがある。
たとえば交通事故、たとえば事故物件、たとえば自殺現場。死してなお彼ら彼女らはその場所にこだわり、成仏するまでそこにいるのだという。

この事象についての客観的証拠はいまだ見いだされていないが、少なくない人がそれを信じ、ときには『心霊スポット』として紹介されることもある。
『ヒト』について回ると言われるアクティブな性質であるポルターガイストと違い、その名の通り地縛霊たちは所定の『場所』に飽きるまで何十年もそこにいるのだとされる。

この『場所』にこだわる幽霊に関し、ちょうどいい文をマイク・ダッシュが書いているので引用しよう。

この種の事例では、概して幽霊の側に“無意識”行動とでも言うべき特徴がある。幽霊は、目撃者に気付いたり、反応を示したりするように見えないだけでなく、自主的な理解力を持つ兆候も示さないのだ。幽霊は姿を現して、おそらく短い距離を移動し(よく言われるように、壁を通り抜けることさえある)、それから何もしないまま消えてしまうというのが典型的な例である。

マイク・ダッシュ『ボーダーランド』P103

このような一方的な登場と、飽くなき単純作業の繰り返しを行う傾向があることで、ある理論が提唱される。

ストーン・テープ仮説』あるいは『テープ・レコーディング仮説』と呼ばれるものだ。

これは、死に際の絶望、苦痛、失意。それらの強烈な感情が『場』ないし『物』に刻印されるとする話で、幽霊の目撃者はその『記録』を見たに過ぎない――としている。

著名なオカルト研究家リン・ピクネットの著作『超常現象の事典』には「以後、それがビデオテープのように繰り返し「再生」される、ただし生者にとっては嬉しいことに、幽霊は死者の魂そのものではない。いわば抜け殼、当人の昔日のホログラフィ写真に過ぎない」と書かれている。

つまり、一般に『幽霊』と総称されるものは、ただその場に残された『記録』にすぎず、それがゆえに成長も学習もしない。そしてその『再生』を目撃できるのが霊感のある者――チューニングのあったラジオを脳内に持つ者――という理屈である。

その場に刻まれた記憶を見る」と聞いて、サイコメトリーという言葉を思い出した諸兄もおられるかも知れないが、まさしくソレである。

この理屈により、「見える人と見えない人」の違いは敏感にチューニングできる者か、否か、と言い換えることができ、複数人が居合わせたにもかかわらず、一部の人にしか見えない――というケースも説明できるとする。

このテープ・レコーディング仮説と切っても切れない存在が、英国の学者トーマス・レスブリッジである。長年、人類学そして考古学者として名をはせ、ケンブリッジ大学付属博物館でアングロサクソン古器物の名誉監督官の地位にもあった。

彼はいわゆるオカルティストではなかったが、晩年、ダウジングに興味を持ち、余生の手慰みにその研究を行った。

その結果、ダウジングに使用された振り子が測定する場所、測定する際のヒモの長さによって揺れ幅が違う――ような気がすると言うことで
なんとなく、測定されるモノが何かを記録してる――ような気がする
という主張に至った。自身が何度か見たという悪鬼(グール)もそれで説明が付く――ような気がしないでもない、と。

もちろんこれによって何が証明されたわけでもないが、いわゆるダウザー、そして超能力者たちはレスブリッジのもつ『学者』としての肩書き――その威光を大いに利用し、いまだに自らの著作や主張に引っ張り出している。「学者が認めたんだぜ、な?」というワケだ。

このレスブリッジに関しては作家コリン・ウィルソンがその厚さをもって武器にも防具にもなると評判である書籍『ミステリーズ―オカルト・超自然・PSIの探究』のなかで殺人的に長々と書いているので気になる諸兄はそちらを参考されたい。
ひと言だけ言うなら、考古学者がダウジングにて発掘すべき場所を探したい――というのは怠慢に基づいた発想に他ならない。

ともかく、この『ストーン・テープ仮説』によって、ヘクサム・ヘッズにまつわる一連の出来事は説明できるという。
あの忌まわしい頭像になんらかの『記録』が刻まれており、人々はそれを見て、感じて、恐れたのだろう、と。

ちなみに幽霊なりの出現に伴い、目撃者が気温の低下を感じるケースが多々報告されるが、これは出現・再生の際に必要になるエネルギーを空間から取り出しているから、という事になっている。くだんのアン・ロス博士も気温の低下を感じ、のちにヘッズの所有者となったドン・ロビンズ博士も「書斎の空気がまるで電気を帯びているかのように、息ができないほどビリビリしていた」と奇現象を報告している。

そして懐疑論者シャロン・ヒルがCSICOP(超常現象の科学的調査のための委員会)に寄稿した記事『Spooky Rocks』によれば、「石英質の石がストーンテープとして好ましいとされる」らしく、くだんのヘクサムヘッズもドン・ロビンズによって石英の含有が観察されている。

オオカミ男は例の『アレンデールの狼』の記録、ポルターガイストも何かよくわからない記録、ヒツジ男も、ホントこう、もっと良くわからないけど何かの記録ではないのか!?
ということになる。

しかし、この『ストーン・テープ仮説』は一部に熱烈な論者がいたものの、これで幽霊なり超常現象なりを説明するには多くの瑕疵があり結局主流になれずに終わった。諸兄だって石頭で知られるのに記憶力の方はさっぱりであるからして、ストーンテープ仮説はイマイチ説得力に乏しい。

懐疑論者シャロン・ヒルは前述の記事のなかで様々な方面から分析した結果「あり得そうか?――NO」としているし、超常現象に比較的甘めの評価を下しがちな並木伸一郎御大ですら著作の中でストーン・テープからサイコメトラーたちが事件の記憶を読むという話には「欠陥がある」と指摘している。

しかし、この理論には欠陥があった。例えば、サイコメトリーと言う超知覚能力が発動される場を、犯罪に関わるものと限定しても、その欠陥は明らかだ。なぜなら、多くのサイコメトラーたちは、その犯罪が起こった時点では犠牲者の近くになかった物体からも、残留思念を読み取っているのである。

これは、この章で後述する、稀代のサイコメトラーであるジェラルド・クロワゼ(クロワゼット)も、ある事件で、被害者が屋外で殺されたにもかかわらず、自宅の寝室に置かれていた聖書を用いて、事件解決の手がかりを探っている。
たしかに、この「テープレコーダー理論」では、被害者が行方不明の場合などは成立しなくなってしまう。さらに、犯罪がすべて磁場の強い場所で行われる、とはいいきれない……。

少々無理があるにも関わらず『ヘクサム・ヘッズ=ストーンテープ説』がなぜ俎上にのせられたか?

これはヘッズの最後の所有者、ドン・ロビンズ博士がストーン・テープ仮説支持者であったためである。

無機化学者ドン・ロビンズ博士は、水晶のような結晶構造は、電気エネルギーの形で情報を蓄えるととができると語っている。
また彼は、鉱物を含む古代の遺物はそれらを作った人々の視覚的なイメージを記憶することができると考えており、また、場所や物体も、特別な現象を引き起こすような情報を記憶することができるともいう。
(中略)
ロビンズ博士は「鉱物の構造は、電子情報を無限に蓄積し変換する能力を持つ、変化するエネルギー・ネットワークと見なすことができる。
新たに発見されたこの物理的構造特性は、最終的には石の中に暗号として記憶された動的イメージを理解する方法を解明してくれるかもしれない」とも述べている。

X-ZONE.24 ヘクサム・ヘッドの呪い

ケルト文化への興味からヘクサム・ヘッズを引きとったアン・ロス博士とは違い、ドン・ロビンズ博士はストーン・テープへの関心からヘッズを引きとったようだ。

だが、当時巻き起こっていた論争の中心はストーン・テープ仮説ではなかった。懐疑論だ。


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あの屋根を越えて 隣の町まで

ほとんどの場合、オオカミ男は人間であり、雄々しい容姿は変身後の姿でしかない。
この前提で考えると、密室状態であるアン・ロス家にたびたび出現したオオカミ男は身内の犯行が濃厚。個人的に言えることはこの程度でしかないが、懐疑的な視点を持つ者は、もっと根本的な部分まで掘り下げた。

そもそも、本当にケルト由来のものなのか? ヘッズ自体がデッチ上げの可能性は?

ケルト、そしてドルイドの文化は謎が多い。
現在知られているケルトについての知見、その多くがギリシャやローマ人が書き残した記述などに由来する。これはケルト自体が「文字で書き残す」ことに消極的であったためで、ようやく彼らが文字を使うようになるのは起源500年ぐらいからとなる。考古学者たちは『空白の期間』についてはケルトの遺跡や遺物などからその営みを想像するしかない。

ケルトの祭祀のひとつ『ウイッカーマン』図

この大がかりな人身御供の儀式はドルイド僧たちの指揮で執り行われた。木製の大きな人型をつくり、編み籠状のそのなかに生贄となる人間たちを無駄なく詰め込み、強火で炙る。

この行事はカエサルが『ガリア戦記』で触れているが、いつごろこの伝統が途絶えたかは不明。出回っている版画の多くは17世紀以後に作られたもの。


そんななかにあって、アン・ロス博士による『ケルト由来説』は妥当だったのか?
これをみてみよう。

娘のためのクラフト事件


呪いの頭像――という風聞が広まるにつれ、その噂はアン・ロスやドン・ロビンズという研究者にまで届くことになったが、一方で『元リード・アベニューの住人』の耳へもリーチした。
その男の名はデズモンド・クレイギー。少なくとも彼は、アン・ロスのケルト由来説に「待った」をかけた。

彼はロブソン一家が入居する以前にあたる1956年ごろ、のちにヘッズが見つかる住宅に住んでいた、いまはトラックドライバーの職についているが、リード・アベニューに住んでいた当時は建築資材の工場に勤めていた。

彼の主張はこうだ。

ヘクサム・ヘッズはケルトの出土品でも、呪いの遺物でもありません、なぜなら、発見された頭像は自分が作ったモノだから

これは各方面に衝撃をもって迎えられた。

デズモンドによれば、彼はあるとき自分の娘に

パパは何の仕事をしているの?

と聞かれ、建築資材の生産という仕事を実際に理解して貰おうと、職場にあったコンクリートを使って昼休みに3つの頭像を作った。
出来上がったソレを娘に渡すと彼女は大喜び。眼窩に丸めた銀紙などをはめ込んで遊んでいたが、やがて飽きて紛失してしまったのだという。

ヘクサムヘッズなる頭像は、自分たちが紛失した頭像を後から入居したロブソン家がたまたま見つけたモノにすぎないでしょう、と。

その頭像がヘクサムに騒動を巻き起こしている事を報道で知り、自分は真実を暴露するため名乗り出たのだと。

この主張はさんざんケルト由来であることを主張してきたアン・ロス博士にとって、はなはだ不愉快なものだった。学者としての面目がたたず、かつ自分の経験した『怪事件』まで軽んじられることになるのは明白。

アン・ロス博士は毅然として反論する。
興味深い主張ではあるが、ケルト文化に精通していないとあのような特徴を持つ頭像は作れない」と。

デズモンド・クレイギーと量産型レプリカ・ヘクサムヘッズ。

デズモンドはケルト由来説を一蹴するため、自らが16年前に作ったという頭像を再現した。
たしかに形状は似ているが、出土したヘッズのイメージがすでに市中に出回っていたため、それに似せてレプリカを作成した可能性も疑われる。

画像出典:X-ZONE.24


ケルトか、あるいはフェイクか。このような論争が起きた際、科学的な分析がモノを言う。ヘッズの分析結果さえみれば、コンクリートで作られた作成物かどうかは分かるはず――。
アン・ロス博士はサザンプトン大学の同僚で地質学者フランク・ホドソン教授に鑑定を依頼した。

その結果、ボーイとガールその両方が同じ材質で構成されているらしい――こと。
表面に何らかの塗料が塗られた形跡があること――程度が判明したのみで、年代の特定には至らなかった。

人工セメントならばすぐに見分けがつくであろう、そうでないならば古代の遺物に違いない――ということでアン・ロス博士はこの鑑定を支持し、『Archaeolgia Aeliana』に掲載された自らの論文『SOME NEW THOUGHTS ON OLD HEADS』にその鑑定を付録として掲載している
デズモンドの一件だけでもヘクサム・ヘッズの由来に充分すぎるほどの疑義を抱かれる事になったが、アン・ロス博士の苦難は続く。

キッズによるヘッズ事件


疑り深い諸兄などは
いやさ、話としては面白いけどさ、その1800年程前のケルトの遺物が、子供が草むしりで偶然掘り出す程度の浅さで見つかるのか?

などと容赦ない目で真偽を審議、懐疑するかも知れないが、実は、そんな疑問も消し飛ばしてしまう話が浮上していた。

発見者であるコリン&レスリー・ロブソン。このロブソン家の少年たちが、ヘクサム・ヘッズを掘りおこす以前に、『似たような頭像を作成していた』という事実だ。

この事実はロブソン家のジェニー夫人も後のインタビューで認めている。「どうも、学校の課題かなにかで似たようなのを作ったことがあるようです」と。
(註:ちなみに母と姉はヘッズの発見は1971年5月ないし6月で、世間で語られている1972年より実は1年ほど早いと主張している。占星術専門誌『prediction(1977)』および編集者マイルス・ホドネットによる『Tynedale Life(2008)』でのインタビューより)
こうなってくると、アン・ロス博士は非常に都合が悪かろう――と諸兄はアンロスが担がれたと考え、気の毒に思うかも知れない。が違う。アン・ロス博士がケルト由来説を唱えたのはこの『キッズのヘッズ工作発覚事件』のあとなのである。担がれたどころか、丸ごと飲み込んでいる。なんともはや意味が分からない。

つまり、アン・ロスは「子供たちが工作でヘクサム・ヘッズと似たような頭像を作った」という事実を知った上でケルト由来説を主張したことになる。そしてその主張は『娘のため職場で作った』デズモンド・クレイギーの登場にも揺らがなかった。それほど自信があったということだろうか。

新聞報道の日付けを追えば
ロブソン・キッズ『ヘッズ工作発覚事件』が1972年3月3日。

アン・ロスによる『キチンと調査すべき、と発言』が驚いたことに同日1972年3月3日。

クレイギー『娘のためのクラフト事件』1972年6月。

前述したそしてアン・ロスの論文『Archaeolgia Aeliana, 5th Series, Volume1』が1973年。

途中の波風になんら煽られることなく、アンが一貫してケルト由来説を唱えていたことが分かる。そしてその後もアン・ロスはケルト由来説を捨てることはなかった。

遺物を語るなら鑑定を待て


懐疑的な諸兄は『娘のためのクラフト事件』を知って「なるほど」と納得し、『キッズによるヘッズ事件』を知って、「むべなるかな」と腑に落ちたかも知れない。まぁ真相はこんなもんだよな、と。あたりまえさと、こんなものさと思っていなけりゃ泣けてきます、と。

なのに、なぜ2012年に新刊がでるほどヘクサムヘッズは注目され続けているのか? 終わった事件に何を騒ぐのか?
それはおそらく、その『真相』がどうも怪しいからだ。

新聞に報じられたとおり、ロブソン・ボーイズが頭像の工作を行ったのは事実。注目すべきは、少年たちがその事実を隠し立てしようとせず、新聞に「以前に作った」プロトタイプ・ヘッズの写真まで出したこと。新刊を出したポール・スクリートンはその実物を本人たちから入手している。

もし大人をからかってやろう担いでやろうという意図が当初からあったなら、バレればしこたま説教を食らうことは自明の理であろうし、都合の悪い事実に関しては隠し立てしたり、口を塞いで知らんぷりするのでは?――という視点だ。
つまり「ヘクサムヘッズが本物(本当に掘り起こしたモノ)であるからこそ、工作作品を隠し立てしなかった」説とでも言うべきか。やや楽観的ではあるが、なんとなく分かる気もする。

少年たちにとって『ヘクサムヘッズを発掘・発見したという逸話の真偽さえ疑われてしまう話』であるにも関わらず、彼らが積極的にそれを認め、協力するのは「本当にあったという事を知って欲しいから」ではないか、という話になる。

娘のために作成した――というデスモンド・クレイギーの主張も、関係者からは「売名のため」と白い目で扱われた。
一時ヘッズの保管業務を請けおっていたヘクサム修道院のベティー・ギブソンなどは2011年のインタビューで当時誰もクレイギーの主張をマトモに受け取ってはいなかったことを証言し、ロブソン家の娘ジュディスも「金のためだったのでしょう」とクレイギーの主張をバッサリ。

デスモンド・クレイギー作に関しては、ポール・スクリートンも「細部などが異なっている」ことを指摘している。

レプリカ・ヘッズ。
画面左ののっぺらとした白い頭像がデズモンド・クレイギー作によるもの。
左側の黒光りする悪そうなやつがコリン・ロブソン少年によるもの。
モノとしてはクレイギー作のほうがオリジナルに近い気もするが、少年作のほうは実際に呪われていそうな異彩を放っており、そこはかとなくカウンセリング待ったなし感がある。
現在は長年にわたってヘクサム・ヘッズを追っている調査者ポール・スクリートンが所有。
画像出典:X-zone 24


単純な話、「いやさそもそも鑑定でセメントだと出なかったんだから、まぁデズモンドは嘘つきの死に急ぎ野郎だね。わざわざピックアップする必要も意味もない」と考える諸兄もおられるかも知れない。

が、話は込み入ってくる。

人工的な石じゃないよ」という鑑定を出したのはサザンプトン大学の地質学者フランク・ホドソン教授であると前述したが、ニューキャッスル大学の地質学者ダグラス・ロブソン博士はやはりヘッズを鑑定した際に「いや人工物だよこれは」という鑑定を出している。混合石英粒を含む人工セメントである、と。

これでは何が正しいのか、まったくわからない。
一般的にはフランク・ホドソン教授の鑑定がいい加減だったのではないか、ということで決着が図られてはいるが、現物のヘッズたちが失われてしまった今再鑑定の機会は永遠に失われてしまった。



何処かの知らない誰かの庭へ

地質学者のプライド、考古学者のプライド、あるいは関係当事者のプライドが複雑に込み入った結果なのか、それともみんな『仕事』に無責任なのか、それともヘッズがその性質を変化させているのか――は定かではないが、なんとも複雑な話である。

いやデズモンドの『娘のためのヘッズ説』が妥当だろ」と考える諸兄もおられるかも知れない。

だがたとえば、デスモンド・クレイギーが作った『娘のためのクラフト』がヘクサムヘッズだったなら、『ロブソンキッズたちが作ったヘッズ』は何だったのか? たまたま土に埋もれたクレイギー作ヘッズを発見する以前にソックリのヘッズをつくったというだけなのか? 偶然にも?

逆に発見されたヘッズが『キッズたちの作ったヘッズ』だったとしたら人工セメントだという鑑定結果と矛盾が生じる。ロブソンキッズたちは小石を加工する程度のことはできたが、セメントを駆使することはできなかった。

そして、いずれかの『真相』が正解であると仮定しても、適当に作られたハンドクラフトであったならロブソン家、ドッド家、そしてアン・ロスの体験した怪事件のフォローができない。

ケルトの呪いだの、ポルターガイストだの、オオカミ人間だのという要素というものを、やはり別々――個別の事象として考えるべきなのであるかも知れない。が、さみしい。やはり不気味な石ころに中心においてその原因を求めたくなるのが人情というモノである。

だが、『ケルト由来の遺物』に関して言えば、ケルト由来説――ヘッズがケルトの遺物であったかどうか、に関して個人的には疑問符を浮かべてしまう。

ずぶの素人であるからして無責任な印象論でしかないが、資料を眺めているとどうにも違和感が生まれる。
以下にケルトの遺物とされるモノの頭部をあつめた。その特徴を見て欲しい。



イヌはかわいいが注目すべきはソレでなく、頭像の『目』である。
ヘクサムヘッズの図と比較すると、違和感の原因がひとつ、眼窩にあることが特定できる。



ケルトによる工芸品のほとんどが眼球を凸型で表現しているにも関わらず、ヘクサムヘッズはただぽっかり穴が掘られているだけで眼球の表現がない。フランク・ホドソン教授、ドン・ロビンズ博士をはじめとする研究者による観察、そして「眼窩に銀紙を丸めて入れて眼球がわりにした」という話からもヘクサムヘッズの特徴の一つが深く落ちくぼんだ眼窩であることは間違いない。

かくして他ケルトの遺物と並べてみたとき、ボーイとガールだけが浮いている印象を受ける。

アン・ロスが『娘のためのクラフト事件』で言及した
ケルト文化に精通していないとあのような特徴を持つ頭像は作れない(ゆえにデズモンド・クレイギーによる作品であるわけがない)
という主張の骨子がどこにあるのかがイマイチ不明瞭だ。

立派なヒゲ、後になでつけたオールバックなどがよく見られるケルト頭像の特徴だと言われるが、該当しそうなのはボーイのオールバックだけ。ヒゲはなし。
ケルトのイヌでさえ凸型の目をしていることからしても、凹型の目というのはかなり大きな違和感の元になる。

こうなってくると、ヘッズの出自がケルトであるという出発点すら疑わしくなり、その疑念がポルターガイストやオオカミ男・ヒツジ男の話にまで影を落とす。

『ヒツジ男がやってきたドッド家』が騒動のさなかに引っ越したのは事実。
だがこれにも疑念が向けられる。転居は『怪事件』とは無関係なのではないか――そんな視点だ。

ポール・スクリートンが2011年に行ったドッド家の娘に対するインタビューで「議会が同情的だった」こと、同時に「8人家族というドッド家にとって、町営住宅がかなり手狭になっていた」という事実が娘の口から得られている。

このことから「別の広い町営住宅に引っ越すための口実にヘクサムヘッズ騒動を利用したのではないか」というやや意地悪な目で見られることになる。より広く、より立派な家を得るため、たくましくもヘッズをダシに町議会とメディアを出し抜いたのではないか――。という。つまりは狂言説になる。

(少なくとも、ヘッズを発掘したロブソン家の娘ウェンディは、自分たちの家を襲った怪現象が事実であるとして『Fortean Times』のネット掲示板にWendyDという名で書き込み、「クレイジーな話ではあるのだけれど」と言いながらいくつかの質疑に応答した(2011年9月28日))
疑いだせばキリがないし、おそらく当事者をふくめ万人が納得する『真相』を探り出すのは困難な作業となる。

このヘクサムヘッズを巡る一連の出来事を常識的にあり得そうな――懐疑的視点をふまえて俯瞰した場合、次のような流れであったのではないかと考えられる。


1.デズモンド・クレイギーが娘のためにヘクサムヘッズを作成。ちなみにクレイギーという名字はスコットランド由来で、「もとは『岩場』を意味するので興味深いナァ」――とフォーティアンタイムズに書かれている。

2.娘、なくす。ヘッズは庭に眠る。

3.その後、転居してきたロブソン・キッズがヘッズを発見。「ワオ。以前に作った頭像にそっくりだね!」これは偶然。

4.ポルターガイストで迷惑。話題に。(ちなみにロブソン家、ドッド家ならびにロス家には騒霊につきものの若い娘アリ)

5.隣家、ドッド家が町営住宅から別の町営住宅への転居をもくろみ、騒動に便乗?

6.アン・ロス博士が引きとる。

7.サザンプトン大学、地質学者フランク・ホドソン教授の鑑定。「年代よくわからないっす」いいかげんな仕事。サンプルを取らず、3日間かけて顕微鏡のみでの確認。

8.アン・ロス博士、自説に都合が良いためこの鑑定を支持。もしかしたら同僚であることでホドソン側に忖度が働いた可能性も。

9.ニューキャッスル大学の地質学者ダグラス・ロブソン博士による「いやさ人工物だよ」鑑定。

10.アン・ロス博士、引くに引けない。断固としてケルト由来を主張。オオカミ男来訪。これは夫がアレンデールの狼に呪われていたため、時折うっかりオオカミ男に変身してしまう。人知れず悩んでいる。

11.アン・ロス博士ヘッズを手放す。『ストーンテープ仮説』に都合が良い、とドン・ロビンス博士が飛びつく。ヘッズを手に、怪現象は石の記憶に起因するとの主張をうったえるも世間からは見向きもされない。

12.ドン・ロビンス、なくす。


おおむね、こう考えるのが妥当かとは思われる。

一部、ロブソン・キッズたちが事前に作っていた頭像が「偶然によるモノ」とやや苦しいが、夫がオオカミ男である内部犯行説はもっと苦しい。
ちなみに、鑑定についてフランク・ホドソン教授とダグラス・ロブソン博士の鑑定を別ページに用意しておいたので気になる諸兄は参照されたい。
【別ページ】ヘクサムヘッズの鑑定要旨
この事件は、いいかげんな鑑定と、誤りを認められない研究者、ソレを利用しようとした研究者によって引きおこされた説――ということになるが、騒霊をはじめとする怪現象に関しては、ソレが事実ならよくわからないし説明しがたい。

ポルターガイスト現象に奇妙な『何か』が現れる事例としては同英国1966年の『ポンティフラクトの黒衣の僧侶』がよく知られるが、これも奇妙な話で、手首から指までの手袋がげんこつで人に殴りかかったり、行進曲にあわせて指揮してみたり、はてには高身長の黒衣のなにかが家の中を徘徊する――というはなはだ迷惑なケースだった。

これらの騒霊たちは「体験者ないし目撃者が願望する、あるいは想像する振る舞いをする」という説がある。これに照らし合わせれば、ヘクサムでのケースも被害者たちの想像する「恐怖」の形を律儀に騒霊が具現化した――という事になるのだろう。

これをふまえて、賢明な読者諸兄におかれましては今後
ポルターガイストなどというのは、パイオツカイデーのチャンネーが色々楽しませてくれる現象である。ちなみに靴下だけは脱がない
とか思い込むことによって、騒霊たちは戸惑いながらも律儀にそれを実現してくれるかも知れないので、日々精進を重ねられたい。ようやく人類は騒霊とwin-winの関係になれる。

冗談はともかく、コリン・ウィルソンが興味深い話に触れているのでそれを紹介してこの項を終わる。

ヘクサムヘッズのような頭像は近年ウエスト・ヨークシャーでよく発見されるが、それらの石像の多くは古くても100年程度しか経っていないのだという。
つまり太古に存在したヘッドカルト、石頭像作成の風習が、長いブランクを経てここ100年で急に復活した――ということらしい。
なぜか? わからない。

この話が事実であるなら、もしかしたら、デズモンド・クレイギーも、ロブソン家のキッズたちも、無意識にこのムーブメントに取りこまれていたのかも知れない。もちろんヘクサム・ヘッズの真の制作者も。

この謎のムーブメント――人をその意思に関係なく、強制的に石像作成作業に従事させるソレこそが『呪い』だか『祟り』だかと呼ばれるモノだったなら――さしあたって、労働者諸兄は経団連や製造業界にこの技術を応用・悪用されないために、今後も謎のままにしておくべきであろう。


ともかく、発見から47年の年月が経過し、ヘクサムヘッズは歴史の闇に消えた。ケルト史にその名が登場することもない。
現物は依然として行方不明のままで、話題にもならず、一部の好事家たちが時折、ふと思い出したように言及するだけになってしまった。

ヘクサムヘッズとは何だったのか。あの騒動は何だったのか。
今となってはもう、確たる判断は下せない。

ただ一つ、調査した結果として確実に言えることは、不細工な気味悪い石ころですらパートナーがいるという事実。なのに、我々ときたら。


■参考資料
Quest for the Hexham Heads
tales of the Hexham heads
Archaeolgia Aeliana 5th Vol.1
X-zone.#24 および#5
Fortean Times-#294 #295
forteantimes.forum
図説 ケルト文化誌
ケルト文化 LIFE人類100万年
ケルト神話・伝説事典
図説ドルイド
古代文明の謎はどこまで解けたか〈1〉
アイルランド地誌 (叢書・西洋中世綺譚集成)
ガリア戦記 (岩波文庫 青407-1)
吸血鬼の事典
神話・寓意・徴候
ヨーロッパの神話伝説
石の伝説
狼男伝説 (朝日選書)
csicop.org – spooky_rocks
未確認動物UMA大全
超常現象の事典
月刊ムー #110 #135 #268
超知覚サイコメトラー―難事件を解決した実在の超感覚探偵たち
不思議現象ファイル
Lo!
ミステリーズ―オカルト・超自然・PSIの探究
ボーダーランド
■他資料
世界の超常ミステリー―地球には謎と不思議がいっぱい! (ワニ文庫)―大岩の祟りについて
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