ラブランド・フロッグ――カエル男の長い午後

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冷たきもよし 智慧の如くに

多くの超常的なケースにおいて、懐疑派によって『ネタバレ』が披露されると、一部の先鋭化した信奉派はそれらの行為を「悪質なロマンの破壊行為」と見なす。「夢がない可哀想なやつら」と見なす。

ビジネスとして超常現象を取り扱っている信奉派の旗手たちは『見なす』どころか、最初から見なかったことにさえする。このへんはさすがプロである。
オカクロなどは商業出版してもこうしてサイトに記事を書いても、どのみちサッパリ儲からない――むしろ赤字であるのでカネ絡みのシガラミがなくていい。インボイスで廃業するかもだが。

ともかくも、我々は傲慢な生き物であるからか、少し知識を得ただけで謙虚さを失い、無知な者を探しては「無知!」と指摘して回ることで自らの自己顕示欲だか承認欲求だかを満たそうとする懐疑派も少なくない。「こんなことも知らんのか、あのケースの真相は〇〇なのに。ほんとビリーバーはお花畑だワ!」という感じで。

この態度も良くない。我々人類は本質的に無知のまま生まれ、自らの両手、それが届くわずかな範囲の知識のみを得て、そして忘れて、死んでゆく。
批判すべきは無知ではなく、知ろうとしない態度なのである。

よく理解も把握もできてないのに「なるほどね、完全に理解したわ」と背伸びしてしまう諸姉兄連合がいるが、一応は対話しよう、理解しよう、知ろう――とする姿勢その点においてのみ、まだ善良な態度であるといえる。職場にいたら迷惑極まりないタイプではあるが。

何の話かよくわからなくなってきたが

例えばこのラブランド・フロッグのケースにおいて、オカクロ特捜部として恥じ入って反省すべき点がある。

事件初期72年の段階で、マシューズ警官が「イグアナだったと思う」と発言したことを知っていたがゆえ、最近まで「カエル男だって? ふん、つまらない奴だ、おまえは。あんなモノは目撃者がイグアナだったと認めているじゃないか。誤認だ誤認」といつかの諸兄連合のような不遜な態度を取っていた。

ちょっと知識を得ただけで、傲慢になっていた。さながら池に餌を放り込まれた鯉の如く、提示された『真相』にむらがり、疑うこともなく、ありがたがって、自身の内に取り入れていた。
あまつさえ他の『地球外生命体仮説』論者や『ミュータント・メロンヘッズ説』論者などを見下してさえいた。いや、メロンヘッズ説はいまだに見下しているが、それはいい。おらんやろあんなん。


テスト

ナメるなよ!


冗談はともかく、よくよく調べてみると、「いやあれイグアナだから」としていた確信が大きく揺らいだ。
決して怪人としてのカエル男の実在を示唆なり追認するような話ではないが、なにか、どこか、どうもおかしい。

少しだけこの話をしよう。




1972年、ケース初期の新聞記事『ジャーナル・ヘラルド』1 の中で、マシューズ(後で目撃したほうの警官。当時21歳)は、「あの夜見たのはイグアナだったと考えている」と答えており、これが初出のイグアナ発言となる。

それより以前の新聞記事は3月27日付の『シンシナティ・ポスト』2 一本で、その中でマシューズはイグアナとは明言していないものの、怪物との遭遇時「ヤツは舌を私に突き出した……それは蛇のように分岐していた」と答えており、イグアナなり爬虫類から受けるような印象があった旨の発言をしている。

そこから、2016年まで一貫してマシューズは世間でラブランド・フロッグ熱が再燃するたび「イグアナだった。騒ぐようなことじゃない」と度々発言することになる。
これをして、オカクロ特捜部としても、イグアナ説を採っていた。

だが、『度々インタビューに答えるマシューズの発言』をこのほど精査したとき、今更ながらその内容が時代とともに大きく変容していることに気づいた。
新聞記事やそれ以外のメディアでの発言なども踏まえて、その変遷を見てみよう。


1972年3月27日

午前6時に同じ道路に沿って任務から車で帰宅していた。ラブランドの市の境界近く、最初の目撃から四分の一マイル離れているが、まだ川の近くで、彼は『同じタイプの生物』を見て、ヘッドライトを部分的にソレに向けることができた。
マシューズは、いらいらした怪物が「舌を私に突き出した……それは蛇のように分岐していた」と言った。彼は3発発砲したが、怪物は水に向かって走り去った。彼はその高さを2フィートから4フィートと推定した。

The Cincinnati post 1972年3月27日付

【解説】
舌が割れていた――とする発言。まだイグアナとは明言していない。


1972年4月12日

1週間後、マシューズはケンパー・ロードの同じ場所を歩いていたとき、「約3フィートの身長でカエルのような顔をしたものが私に向かって跳んできた」と言う。
それは攻撃してくる様子はなかった」とマシューズは報告した。「しかし、ソレは走っていたし、自分はソレが何なのかをちゃんと見たかったので、357マグナムのサービスリボルバーでソレを4回撃った

マシューズはモンスターを信じておらず、あの夜見たのはイグアナだったと考えているという。

The Journal Herald 1972年4月12日付

【解説】
発砲の回数が違うが、些細な問題かと思われる。ここがイグアナ説発言の初出となる。


1985年7月18日

マシューズは1983年のインタビューで、その生物をイグアナと特定した。当初は何を見たのかわからなかったが、マシューズは動物園の学芸員に自分が見たものを特定する助力をしてもらった。
イグアナはペットショップで簡単に購入できるとし
あんなことは手に負えないし、大げさに吹聴された。大したことじゃなかったのに

Loveland Herald 1985年7月18日付

【解説】
1983年のインタビューのソースを見つけることができなかったが、やはりイグアナ発言はしたようだ。「動物園の学芸員に自分が見たものを特定する助力~」云々はイラストを見せた件かと思われる。


1999年8月14日

それが彼の方に飛んできたとき、マークは3発発砲し、ソレが「激しく跳ねて川に落ちた」と報告した。

私はそれをまじまじとよく見たが原文:I got a real good look at it,、それは明らかにペットのトカゲ――イグアナかオオトカゲ――で、誰かが放し飼いにしていたものだった。事件が起こったのは2月のことで、ソレはトテス工場(註:ブーツ工場)の近くでぶらぶらしていた。工場からは保温のために温水が流れ出ていた

The Cincinnati Post 1999年8月14日付

【解説】
記事全体にわたり日付などの間違いが散見されるが、これは追跡記事を書いたデビット・ウィッカーのミスかと思われる。
ともかくも、いつの間にか『まじまじと観察』できた事になっている。
工場に関する記述は、「イグアナが暖を取るためにそこにいたのだろう」とするマシューズの推理。


2001年3月1日
X-Projectのデヴィ・ラッセルによるマシューズへの取材。

1972年3月にこの奇妙な生物を目撃した2人目の警察官、マーク・マシューズ元警官の電子メールによるインタビューでは、「この事件には『怪物』や『超常現象』に関するものはまったくない。この事件全体が、常習的に誇張されている……」と述べている。

マシューズ氏は、彼が見たものについて直接の証言を続けている――

それは『怪物』ではなかった。それはレザーのような質感でもなければ、濡れた毛皮でもなかった。身長は3~5フィートもなかった。直立もしていなかった。私が見たその動物は、明らかに誰かがペットとして飼っていたトカゲの一種で、水槽に対して大きくなりすぎたのか、偶然脱走してしまったのか、あるいは単に飽きてしまったのかのいずれかだった。体長は3フィート(約90cm)足らずで、道路を横切って走り、おそらく私のヘッドライトで目がくらんだのだろう。攻撃的な行動は見せなかった。

マシューズ氏はこの有名な話の矛盾点をさらに指摘した――

誰も彼のパートナーであるショッキー巡査の目撃談を信じていなかったので、マシューズは証拠にとその生き物を撃った。
命中したにもかかわらず、トカゲは逃げ出した。マシューズ氏は、トカゲがその傷で死んだか、あるいは寒さで死んだのではないかと考えた。
トカゲが直立し――マシューズ巡査を見守りながらガードレールを踏み越えるという、よく言われるドラマチックなシーンは実際には起こらなかった。

Davy Russellの2001年X-Projectの記事

【解説】
銃弾が命中したことになっている。それは些細なこととして、これを素直に読む限りでは「ああ、やはりイグアナなりのトカゲだったのか」となる。
ガードレールの乗り越えもなかった、サイズは90センチ足らず――等、イグアナ説を大きく補強する内容となっている。

ここまではいい。勘違い・思い違いでカタもつくだろう。
だが最新の発言は明らかに過去発言との整合性がつかない。


2016年8月5日
以下は2016年の『サム・ジェイコブスのカエル男撮影事件』がWCPOで報じられてすぐマシューズ本人がWCPOへと連絡してきた際の発言となる。

当然、私は彼ショッキー警官の言うことを信じなかった……だが、彼の態度から、彼が何かを見たことはなんとなくわかった」とマシューズは言った。

その月の終わり、マシューズはブーツ工場の近くのケンパー・ロードを車で走っていたとき、何かが道路を横切るのを見た。しかし、それは直立歩行ではなく、フロッグマンの都市伝説にあるようにガードレールを乗り越えたわけでもなかった。その生き物はガードレールの下を這っていった。
マシューズは「それが何なのかまったくわからなかった」と語った。

目撃しただけでは誰も信じてくれないだろうから、(捕らえるために)撃ったんだ

マシューズはその生き物の死体を回収し、トランクに入れてショッキーに見せた。ショッキーも自分が見た生物だと言ったという。
それは体長3フィートか3.5フィートほどの大きなイグアナだったとマシューズは言った。そのイグアナには尻尾がなかった。

マシューズは、このイグアナは誰かのペットだったのが、大きくなりすぎて逃げ出したか、放されたのだろうと考えたという。彼はまた、この冷血動物は、3月の寒さの中で暖をとるために、ブーツ工場の温水を放出するパイプの近くに住んでいたのではないかとも考えた。

私が撃ったときは、どうせ半分死んでいたんだ」と彼は語った。

【解説】
ここにきて、完全にイグアナだったし、撃ち殺したし、遺骸は回収してトランクに入れたし、ショッキーにも見せた。なんならショッキーもそれを自分が見たモノだと認めた――。という話に変わっている。




事件の発生した1972年から実に44年が経過した2016年に突然『遺骸をトランクに入れて回収し、ショッキーにも見せた』発言がでたワケであるが、これがどうにも腑に落ちない。

これが『真』であるなら過去になされたマシューズへのインタビュー、そこで記録された発言は『完全に不正確』ないし『虚偽証言』であった――ということになる。

なぜ44年間も『不正確きわまる』情報を公的な場で発信してきたのか。

少なくとも、遺骸を入手していたのならば、わざわざショッキーと協力して目撃イラストを作成し、専門家に見せる必要はない。遺骸を持ち込むなり写真を撮るなりして専門家に判断してもらえば済む話。仮に遺骸を処分してしまった後であっても、わざわざ遭遇した瞬間の図ではなく客観的に観察できる遺骸のイラストでよいはず。

他の要素にも「そもそも遺骸があったなら」を代入して考えると、過去のマシューズやショッキーの発言・行動に整合性がとれない。
遺骸があったなら、長らく2警官が市民や同僚たちの嘲笑を受けずに済んだだろうし、44年間も「あれはイグアナだった」とメディアで訴え続ける必要もない。
総合的に考えて、2016年にマシューズが語った『真実』は虚偽証言であると考えるのがシンプルで妥当ではないか?

ではなぜマシューズは今更になって『遺骸』の話を持ち出したのか?

推測の上に推測を重ねる危うい話にはなるが、マシューズは『怪物と遭遇してビビって発砲までした男』という風聞を払拭したかったのではないか、と筆者は考えている。
当時、彼ら2警官が市民や同僚から嘲笑を受けたことは当時の新聞などでもさんざん確認できる。ショッキーにいたっては、バカにされすぎて傷つき、ケースの初期段階で一切のインタビューに応じなくなりそのまま退職まで無言を貫いた。

一方のマシューズは何度もインタビューに答え、そのたびに「イグアナだった」と繰り返し、最終的には遺骸まで確認したと主張するに至った。『皆が馬鹿にするようなカエル男――は見ていないが、なにかがいた。だから発砲した。それはイグアナだったのだ。私はいたって常識人だ』こう世間に主張することにより「なるほど誤認なら仕方ないね」と名誉を回復しようとしたのではないか。
マシューズが折に触れて「自分はモンスターやビッグフットを信じるような人間ではない」と発言していることからも、『そっち系』――つまり我々のような者と同種と思われるのは迷惑である――という本意がにじむ。

2016年の『サム・ジェイコブスのカエル男撮影事件』の際に、わざわざ自分からWCPOに連絡を入れていることからもマシューズ自身がいまだに72年の事件に高い関心を持ち続けているのがわかる。ラブランドから遠く離れたフロリダ州に移住しているのに――放っておけばよいのに――わざわざ名乗り出てまで「イグアナです!」と強調するモチベーションはどこから来るのだろう?

イグアナ説を補強させてゆく内に極まったマシューズ史上最強の証言『実物を確認した』。

むしろそのせいで我々のような本人の証言に疑問を呈すようになる者が出現してしまったわけであるが、前提条件であるマシューズによる『過去の発言』を知らない者からすれば2016年の『遺骸回収したよ』発言でアッサリと腑に落ちたろう。「ああ、そうだったのね」と。


なぜ急にこのような極端な話に変わってしまったのだろう? そう疑問に思っていたがその鍵はショッキーが握っているかもしれない。

Skeptoid』のライアン・ハウプトによれば、どうも2014年にショッキーが亡くなっていたらしい。


ショッキーが亡くなった事によりこのケースの当事者はマシューズだけになった。例によって推測でしかないが、もしショッキーが存命のときに『遺骸をショッキーに見せた。彼も認めた』――あるいはソレに類するような『イグアナ説の補強(虚偽)』を発信し、万が一いままで沈黙を貫いてきたショッキーに「いや、そんな事実は無かったよ」と否定されると都合が悪い。

よってショッキー亡き後、死人に口無しとばかりにいままでマシューズの中で抑制されてきた『イグアナ説の補強(虚偽)』欲求が爆発したのではないか。ゆえに2016年にわざわざ自分からWCPOに連絡し、『最高にして最強のイグアナ説の補強』を世に広く発信したのではないか。

マシューズはWCPOの記事にて、「このケースについて語るのはこれが最後」と明言しているが、当事者2人が実物をキチンと見てイグアナだと確認した――という最高度の補強を行ったワケで、これ以上の発言は不要とも言えるのだろう。

実際にそうだったのかはわからない。発言の揚げ足取りでしかないし、推測に推測を重ねているし、性格の悪いことであるし、はからずも故人の名誉を傷つけているのかもしれない。

だが、少なくとも過去、他の事件、他の事例、他のケースなどにおいて『目撃者の証言が時代とともに変容している』ことを指摘し、「信用できる目撃者ではない=事実ではないデッチあげだ」と切り捨ててきた懐疑派が、マシューズの発言を無批判に『真』とするのはフェアな行いとは言えないだろう。

少なくともオカクロ特捜部としてはマシューズによる一連の『イグアナだった発言』だけをもって、イグアナ説を真相とすることが妥当――とは到底思えない。

72年当時、最初期のマシューズの証言にある「舌が割れていた」という言を持ってイグアナ説を確定的と表する向きもあろうが、割れている舌を確認できるほどの至近距離で、その存在が『何であるかわからない』というのもイマイチ腑に落ちない話だ。少なくともカエルではないと言えたろうに。
もちろんこれをもって「イグアナではなかった」と主張するものでもないが。

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最初でも最後でもない出来事

過去に出版されていたオカルト雑誌『Az』1989年11号によれば、オハイオ州からインディアナ州東部に広がる約5200平方キロにわたる森林は『フーバー・モンスターゾーン』と呼ばれ、様々な怪物が出没することで知られているという。
怪物の出没に前後してUFOが目撃されたこともあり「宇宙人のペットではないか」という説がまことしやかに囁かれた。飼うのはいいけど放し飼い、外飼いはするな。

ラブランド・フロッグがそこに一枚噛んでいるかどうかは不明だが、巨大なカエルという観点のみでいえば、1987年中国は湖北省武漢付近で北京大学の科学者グループが『口の幅が1.8m(!)で、ご飯茶碗よりも大きな目』をもったカエルを見かけたと言う。3 1993年にはイタリアのプレターレ・ダルカータでも少し小ぶりながらも同じような生き物が目撃された。4
まさにオールドスクールの忍者が乗るやつ――ではあるのだが、これらも結局、捕らえられたワケでもなく未確認生物である。


結局、たくさん取材費を浪費したにもかかわらず、何もわからない。


事件のあった72年からしばらく、カエル男は忌避または嘲笑の対象となっていた。
だが時間の経過とともに町のイメージ・アイコンとして定着し、いつしか住民たちもそれを受け入れ、やがて積極的に愛すようになった。

町のフェスティバルから、音楽祭、演劇、ロードレース、町のマスコット、スポーツのチーム名からアーケードゲームにまで『ラブランド・フロッグ』という名が冠され、その名が使われぬ年はない。

モンスターではある。だがヤツは72年の鮮烈なデビュー以来、ラブランドの住民を誰一人として傷つけず、何も壊さず、殺さず、襲わず、攫わず――いたって無害なモンスターであり続けた。傷つけたとすれば――あの日から笑われ続けた2警官の名誉かもしれないが、これも人間社会の営みの範疇であってカエル男のせいではない。

ラブランドのアーケードにて横スクロールアクションゲームに興じる少年。
筐体には『LOVELAND FROGGERMAN』と書かれているものの、画面から推察するに中身は1993年に日本にて発売されたファミコンソフト『けろけろけろっぴの大冒険2』と思われる。
筐体上面に描かれたカエル男がちっともかわいくない。


画像出典:『haint.blue


そんな無害な存在なら、許容どころか歓迎すべきではないか。むしろ我々人類が彼から学ぶべきことがあるのではないか――。モンスターとは何か? そんな問題提起を受けている気にすらなる。

20世紀を代表するSF作家の一人、アーサー・C・クラークは、ビッグフットの目撃証言の多さについて「あつかましいと言えるレベル」と評したが、それに対してラブランド・フロッグは慎ましいだの遠慮がちだのと評するしかない出没状況である。

数年に一度、目撃証言とともにリバイバルが起き、住人や我らが謹厚なUMA研究家を沸き立たせる――いたってささやかな話題になるが、例によって間もなくそれも沈静化し、例によって町に静けさが戻る。

1972年頃にはラブランドに違法薬物が蔓延しており、あるいはこの影響――そして同時期に周辺地域のKKKがラブランドにて集会をしていた――目撃されたのは白装束たちだったのではないか――。などと立ち止まって検討してみようとすら思えない思いつきが浮かんでは消える。

あれは何だったのだろう。


ひとつ、興味深い話がある。

haint.blue』にてマーク・メイというオカルト好きライターがぶらりとラブランドを訪れたときの事が書かれている。

そのとき、ラブランドにて営業するある商店にてメイは『いいお土産』をもらったのだという。

それはメイが訪れる二年ほど前のこと。店に『1972年の事件に関わった警官』が来たのだ――という話だ。従業員いわく彼は「あれは本物で実在している、イグアナの話は間違っている」と語ったのだという。

これが定年までラブランドで勤務していたショッキー巡査なのか。年老いて、尋ねられ、ようやく語ったのか――どうか。
今となっては確認のしようもない。
だが何か、真相のとても深い部分に触れた気がして少しばかり嬉しくなってくる。

ラブランド・フロッグは何処から来て何処へ行ったのか。あるいは元から居て、いまも居るのか。

懐疑論者の運営する雑誌『Skeptical Inquirer』、そのWEB版に『フロッグ・ボーイ』を扱った記事がある。
これはコロラド州にあるバー・レイク州立公園に出没するカエル少年についての話で、かいつまんで言えば、まぁカエル男の『少年版』ということらしい。オタマジャクシはどうしたと言いたくなるが、それはいい。

記事を書いたのは『美人すぎる懐疑論者』と界隈でHOTな視線を受けている言語学者カレン・ストルツナウであるが、彼女が調べた限りこのカエル少年についての資料はほとんど――全くと言っていいほど存在せず、ただ人々の会話の中にだけ登場する。
彼女は未確認生物学の大家、ローレン・コールマンにまで連絡し「ねぇボウヤ、カエル少年知ってる?」と尋ねているが、大御所コールマンですら聞いたことがない話だった。つまりは口承伝承――結果としては『友だちの友だちの話』を中心に広がったローカルな都市伝説だった。

興味深い点としては、このバー・レイク州立公園は『コロラド州ラブランド』から50kmほど南に位置していることをカレンは指摘している。
つまりは州は違えど同名の市である『オハイオ州ラブランド』と『コロラド州ラブランド』、つまりはオハイオ州からコロラド州に『ラブランド・フロッグ伝説』が移植された可能性はないかしら? ということだ。

伝説が移植されたのか、それともカエル男ファミリーが移住したのか。すっかり住みにくくなったオハイオ州ラブランドに見切りをつけ、新天地としてコロラド州の湖に希望を見出したのか。
あるいはUMA界隈でよく聞く「湖の底に地下トンネルがあって――」か。それともUFOに乗って移動したのか。もしかしたら少年が少年らしく家出したか?

なにもわからない。


かくして、今日、こうしてくだらない想像や妄想、噂の中にカエル男『ラブランド・フロッグ』はのびのびと生き続けている。

懐疑派、信奉派を問わず、多くの人々が日がないちにち、今日も彼のリバイバルを待ち続けている。
気長に、悠然と超然と、なんら期待もせず――でも深い愛情を持って。



■参考資料



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