ラピュタは本当にあったのか―空飛ぶ城塞伝説

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土に根をおろし、風と共に生きよう

前ページでは様々な飛行島を紹介したが、そのほとんどが伝説の中に存在する。
今となってはほとんど忘れ去られ、新しい事実もほとんど出てこない。

エーテル街、マゴニア、クロエラ、などは(いたってコアな)オカルト書籍などで触れられるばかりで、信憑性は薄いと言わざるを得ない。

失われた帝都アガデがラピュタなんじゃね説』に至っては、無責任なことに提唱したオカクロ特捜部が信じていない。
月刊ムーさん、いつかネタに使って下さい。

エノクの街=ラピュタ説について
ともかく、紹介した中で最も深くラピュタ伝説に食い込んだのが『エノクの街=ラピュタ説』だ。

前述したように、エノクは旧約聖書に登場する聖人で、神によって天に連れて行かれた。
そのエノクの名を冠したエノクの街も、80万人の住人と共に天に上がったとされる。

天に上がって、どうなったか?

研究者によれば、エノクの街は地球から遠く離れ、太陽のそばを回っているのだ――と、なんだか凄いことになっている。

なんだよソレ! ふざけるな! 熱くないのかよ! 空気はどうなってんだよ! 重力はどうなってんだよ!」と諸兄から罵詈雑言が聞こえて来そうであるが、オカルト話はそういうもの。諸兄も男なら聞き分けたまえ。

ともかく、エノクの街は天に昇り、やがて新エルサレムとして地上に戻ってくるのだ、と。
聖書に書いてあるのだ、と。

だが本当だろうか?

この話の主な論者は飛鳥昭雄氏である。
この名を聞いた時点で、ゲンナリした諸兄は少なくないはずだ。

知らない方のために説明しておけば、氏は通称、飛鳥理論と呼ばれる驚異的なロジックと、(都合良く現れる)謎の人物からの情報提供による『世界の真実の暴き方』に定評のあるサイエンスエンターテイナーである。
飛鳥昭雄

自称サイエンスエンターテイナー飛鳥昭雄氏。
氏の言説に批判的な諸兄も多数おられるであろうが、『エンターテイナー』という肩書きを忘れてはならない。そして素直に信じてもならない。このポーズを真似てもならない。
画像出典:「飛鳥ゼミナール」飛鳥昭雄のエクストリームサイエンス(20) [DVD]


しかし、論者が誰であろうと、キチンと調べるのがスジというもの。

氏による、『エノクの街=ラピュタ説』は氏の著作である『失われた天空のピラミッド「ラピュタ」の謎 (ムー・スーパーミステリー・ブックス) 』『アスカファイル〈2〉ノアの大洪水と天空を飛翔する町エノクの謎』で触れられているが、その際に聖書が引き合いに出されている。

そして聖書を開いてみれば、なるほどエノクは存在するし、エノクの名を冠した街も登場する。

だが、旧約聖書で「エノクの街が天に昇った」という記述はどこにも見あたらない。

これは氏も説明されておられるが、その記載は『聖書外典、聖書偽典』に書かれているという。
聖書外典や偽典というのは、正式に聖書として取り入れられなかった文書群である。

では外典偽典のどれに書かれているのか。

調べてみれば、これがエチオピア正教のエノク書(エチオピア版)なのだという。

この時点で、なんだか胡散臭さが漂ってくる。
エチオピア正教の歴史は古いが、その古い段階からオーソドックスなキリスト教と距離をとり、独自路線を走っているからだ。
では、そこに書かれているのか、と調べてみれば、エノクの街が『飛んだ』という記載はないらしい。

じゃあどこにあるんだよ!」とオカクロも諸兄のごとく憤りました。役所でもここまでタライ回しにされたことはない。

そして更に調べを進めると、ありました。

エノクの街の飛翔は『高価なる真珠』という書物に書かれている。
そして、どうもコレは怪しい。

『高価なる真珠』は末日聖徒イエス・キリスト教会が使用している聖書である。そう、モルモン教だ。

モルモン教は1830年にジョセフ・スミスが開祖となって始まった宗教で、ほとんど新興宗教と言っても過言ではない。カトリック・プロテスタント・正教会は並んでモルモン教を異端と位置づけている。

そして、『高価なる真珠』はジョセフ・スミスの枕元に立ったイエス・キリストが語った内容を、文面に起こしたモノだという。

これって、つまりは

諸葛孔明は『泣いて馬謖を斬って』いない! 幸福の科学の大川隆法総裁が、諸葛孔明の霊を自分に下ろして言ったことだから間違いない! ソースは幸福の科学出版の霊言シリーズだ! 諸葛孔明は言ったさ『まぁ斬ったには斬ったケド、泣いたっていうか、むしろ、ちょっと笑ったよね』って!

という幸福の科学お得意の霊言と大差ないではないか。ひどいじゃないか。

そして飛鳥昭雄氏の著作では『高価なる真珠』のことには触れられていない。

『街が飛んだ』という部分に関して、ソースをぼやかし、旧約聖書に採り入れられなかった書の中に――というニュアンスで書いている。そりゃ、1830年以降に書かれた文章が採り入れられるはずもない。外典とも偽典とも評価しがたいシロモノだ。

ちなみに氏の著作のなかで『失われた聖典ヤシャル書』『失われた聖典モーセ書』というモノの内容に触れられているが、これも妙なモノである。なぜ失われたモノを参照できるのか。コレは無いモノを参照する宮崎駿メソッドに違いない。
(註1:失われたモーセ書に関して、モルモン教が所有していると飛鳥氏の著作にありました。すみません。でもそれって失われてなくないっすか?)
(註2:失われた聖典モーセ書、モルモン教のサイトにありました。冒頭を抜粋させてもらえば『預言者​ジョセフ・​スミス​に​啓示​された~後略』 と冒頭にオチがあった。霊言モノだから『失われた』と表現したようだ)
うーむ。この説はもうええじゃろ。
ちなみに、諸葛孔明の霊言本を読んでないので、上記のたとえ話は事実と異なると思いますが、霊言本を読んでもきっと事実と異なると思います。

スウィフトは知っていた説について
ガリバー旅行記のスウィフトが何かを知っていた、というのはどうだろうか。

スウィフトが地球外勢力、ないし秘密を握る秘密結社と裏で繋がっており、ラピュタはつまりUFOだったんだよ! という二段論法のMMR的展開である。

これに関しては、真面目な研究を行っておられる学者先生方の研究を参照するのが正道だ。

旅行記の作中でラピュータは『高度に科学的な人々が住む島』とされている。これは最先端技術、ないしオーバーテクノロジー的でワクワクさせてくれるものであるが、スウィフトの狙いが風刺であったことを忘れてはならない。

空飛ぶ島という着想の原点を探ってゆけば、それに行き着くことになる。

その文化的背景にはルキアノス『本当の話』やアイルランド民話『天空船』、フランシス・ベーコン『洞窟のイドラ』などが指摘されており、直接的なイメージとしてはテオドール・ド・ベースの『図像』に空飛ぶ島の挿絵を見ることが出来る。

そしてその『図像』の絵をそのままに、文章にひねりを加えたのがヘンリー・ピーチャムの『ブリテンの知恵の女神(1612年)』である。
『ブリテンの知恵の女神』より

ヘンリー・ピーチャム『ブリテンの知恵の女神』より空飛ぶ島の挿絵。
空を飛んではいるが、雲間から神の手が出ており、街を吊り上げている。この図自体は『図像』の使い回しで文節だけ差し替えてある。
画像出典:Minerva Britanna Or A Garden Of Heroical Deuises, furnished, and adorned with Emblemes and Impresa’s of sundry natures by Peacham, Henry


この図だけでもラピュータ島のイメージにハマるものであるが、書いてある詩句の内容が『オックスフォードの学者コミュニティを讃えるもの』になっている。
スウィフトが批判気味に風刺した『頭でっかちな学者連中』は、ここにインスピレーションの源泉見ることが出来る。

では「知るはずのない火星の衛星」はどうか?

これは『トンデモ超常現象99の真相』で既に書かれている。

ドイツの天文学者、ヨハネス・ケプラー(1571年~1630年)が小冊子『木星のさまよう四個の衛星に関する観測報告』内で発表しており、彼の死後発表された『ケプラーの夢』のなかでも言及されているそうだ。
博学だったスウィフトはこれらに目を通した上でガリバー旅行記を執筆したと考えられる。


サイレント・シティー現象

プラトンもスウィフトも、飛鳥昭雄もともかくとして、宙に浮かぶ都市の伝説は確固として存在する。
では、その伝説の源泉となったものは何であったのだろうか。

様々なものが考えられるが、ここはサイレント・シティー現象に目を向けてみよう。

1880年代の終わり頃、アラスカのグラシエール湾の沖で何度となく都市が目撃された事例だ。

くっきりと街が出現し、寺院や尖塔なども確認できる。なのにまったく音が聞こえない――。現地住民の間では、すでによく知られていた話だったが、開拓者のリチャード・ウィロビーが1888年に見物に出向き、ガイドと共に目撃している。

そしてウィロビーは1889年6月19日、湾の北西上空に現れたサイレント・シティーを写真に収めることに成功している。

この写真は10月11日付けのサンフランシスコ・クロニクル紙に掲載され、大波紋を呼んだ。
ウィロビーのサイレント・シティー

1888年にリチャード・ウィロビーによって撮影されたサイレント・シティー。この写真が物議をかもした。
画像出典:The wonders of Alaska


噂程度だったものが、こうして画像として提示されると俄然人々の興味を引く。

サイレント・シティーは実在した!

とワクワクしてしまうが、たまたま新聞でこの写真を見たW・G・スチュアートなる人物は首を傾げた。
なんか、みたことあるぞ」と。

そしてしばらくの後、スチュアートは気付いた。
これは、自分の故郷であるイギリスの、港町ブリストルの風景ではないか。公園の高台から見下ろした街と瓜二つ!

そして比較画像が用意される。

サイレントシティー比較

比較画像。
「どうだい、俺のブリストルは」
「すごく……そっくりです」
画像出典:世界奇現象ファイル


仮にウィロビーの捏造ではないとして、これを蜃気楼だと考えても、遠く数千キロも離れたブリストルの風景がアラスカに出現するのか、やっぱおかしいよコレ! と真贋論争が巻き起こった。
結局は決着がつかないまま、この騒ぎはおさまったが、これをしてサイレント・シティー現象のすべてがインチキだというのは軽薄だ。

歴史家のアレクサンダー・バドラム。写真家I・W・ティバー。
ロバート・クリスティとロバート・パターソン。L・B・フレンチ。そして白人が入植してくる以前から現地住民はサイレント・シティーを見ていた。

1889年10月31日のニューヨーク・タイムズに掲載されたフレンチの体験談は不可解なモノだ。

やはりアラスカはフェアウェザー山の麓でサイレント・シティーが目撃されているのだが、それは近代的な都市でなく、古代ヨーロッパの街並みであったというのだ。キリスト教寺院や大聖堂、尖塔、家屋も見えたし、樹木もあった。

この不思議な街は25分間ほど出現し続けた後、一瞬肥大化して消えたという。

蜃気楼の仕業だとしても、過去の映像が映し出されるのだろうか、と不思議な気分である。

1889年7月I・W・ティバーによって撮影されたサイレント・シティー写真。 ウィロビーの撮影したモノと違い、街並みの映像がオーバーレイ気味なのがリアルである。

1889年7月I・W・ティバーによって撮影されたサイレント・シティー写真。
ウィロビーの撮影したモノと違い、街並みの映像がオーバーレイ気味なのがリアルである。
画像出典:The wonders of Alaska


グラシエール湾

現在のグラシエール湾。
美しい場所である。こんな場所に住んでいたら、我々はもっと人に優しくなれるかも知れない。諸兄の溜飲も下がるかも知れない。
画像出典:all things cruise.com


上の写真を撮影したティバーは、このサイレント・シティーをグラシエール湾の海面下約210メートルの海底に沈んだ都市が、特種な大気の屈折による光学的な原因によって空中に像を結んだのではないかという説を提唱した。

なぜアラスカの海底にこのような都市が沈んでいるのか、その理由はよくわからない。

同じく、目撃者である歴史家のアレクサンダー・バドラムは大気の温度の逆転によって光学的に複雑な造形を形作る氷河と氷山の蜃気楼ではないかと述べている。


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トランク1つだけで、浪漫飛行へ

ここらへんで、諸兄も「ははん。今回のオカクロの着地点は蜃気楼なんだな?」と察しが付いたかと思う。すいません、その通りです。蜃気楼にメドを付けて見込み調査してました。

とはいえ、蜃気楼って言っても「空飛ぶ街」が浮かび上がるというのは想像しがたい。
なんだかボンヤリしたものが、『逃げ水』みたいにボンヤリ見えるだけでしょう? と。

だが調べてみると、蜃気楼というモノは実に奥が深い。

蜃気楼について様々な事例を紹介している『蜃気楼の楽園―古代文明と神々の謎を解く』という書籍がある。

副題である『古代文明と神々の謎を解く』の通り、さまざまな遺跡や伝承に蜃気楼を絡めて説明しようと試みる内容で、実に興味深い。

以下に蜃気楼の楽園から図表の一部をお借りした。
コレを見ると、蜃気楼は様々な形態があることがわかる。

さまざまな蜃気楼図。

さまざまな蜃気楼図。
画像出典:蜃気楼の楽園―古代文明と神々の謎を解く


焦点によって虚像が逆転したり、伸びたり、浮いたりする。
山頂が逆転した『U』などを見ると、怪鳥コンガマトーやサンダーバードの伝説はここから生まれたのではないかと思えてしまう。
だが『W』は何がどうなってそうなったのか、まるでわからない。実に奥が深い。

ちなみに、原哲夫は『T』を見て北斗の拳の荒廃した街のインスピレーションを受けた。というのは今作ったデマである。これは都市伝説サイトに投稿しておく。

冗談はともかく、こちらの図表には含まれていないが、普通に立っている人間の身長が5~6倍以上に伸びて見える現象もあるようで、宮崎駿はこの大きく伸びた上がった人間を見て巨神兵のイメージを固めた。これは失われた設定資料集に記載されている。というのも、もちろん今作ったデマであるので都市伝説サイトに投稿して混乱を招いておく。

あまり冗談が過ぎると、twitterなどで「みろ記事がゴミのようだ」と言われそうなので自重する。

ともかく、蜃気楼というのがいかに不可解で、奇妙なモノか感じていただけたなら幸いである。

現代人としてもほとんど理解が広まっていない蜃気楼現象であるからして、太古の人々に「正確に見分けろ。デマを言うな」というのも酷な話だろう。
オカクロ特捜部だって蜃気楼の確たる知識がないまま古代に生まれ、不可解な『W』や『T』や『V』型の蜃気楼を見たなら、何かしらの想像力を働かせてしまう自信がある。

いや、アレは蜃気楼なのだよ」と言われたところで、自分の知っている蜃気楼像から逸脱しすぎていると、「うそつけ! さてはお前、魔女だな!」と車輪に縛り付けて鞭打ちたくなるだろう。


というわけで残念ながらかなり調べてもラピュタが実在するという証拠も傍証も掴めなかった。これでは「ラピュタは我々の心の中に存在する」という陳腐なことしか言えない。

魚やカエル、そんな様々な物が天から降ってくるファフロツキーズ現象、紹介した蜃気楼。これらは太古の人々の想像力をイヤがうえにも掻き立てたに違いない。

夜中に飛ばされる無数の『天灯』に、輪郭を感じ、それが巨大な城郭に見えたかも知れない、と山口敏太郎氏も指摘されていた。
天灯

夜空に放たれる天灯。
画像出典:justartifacts.net


調査を進めて偉大なる想像力に触れることは出来たが、残念な結果ではある。

余談ではあるが、この項を書いている最中、テレビシリーズXーFILESが2016年に復活すると聞いて、モルダー捜査官の部屋に張ってあるポスターの文節を思い出した。

『I want to believe』
『私は、信じたい』
信じる、ではなく、信じたい。含みのある、いい言葉だ。

この項でラピュタ伝説はほとんどファンタジーだったと書いてしまったが、それでも良いではありませんか。
オカクロはこれでロマンが失われたとは微塵にも思っていない。信じたい、というスタンスで良いではありませんか。

夜空に想いを重ねて星座が生まれ、雲間に想いを重ねて飛島伝説が生まれた。空に想いを重ねるから「空想」と書くのでしょう。空想から生み出された多くのSF小説が多くの科学者を生み出し、多くの発明の出発点になったのだから、いつかラピュタも現代の空を飛ぶかもしれない。

いつか、40秒で支度したくなるような、トランク1つだけで飛び出すような、そんな旅に出たいと思いませんか。
 
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■参考資料 『ガリヴァー旅行記』徹底注釈(本文篇) (岩波オンデマンドブックス)New Lands (English Edition)失われた天空のピラミッド「ラピュタ」の謎 (ムー・スーパーミステリー・ブックス)アスカファイル〈2〉ノアの大洪水と天空を飛翔する町エノクの謎驚愕のビックリ事件簿―写真が証拠! (二見WAi‐WAi文庫)中世の迷信妖精図鑑―空と風の精蜃気楼の楽園―古代文明と神々の謎を解く蜃気楼文明―ピラミッド、ナスカ、ストーンヘンジの謎を解くタイムトリップ―過去と未来を行ったり来たり (学研ポケットムー・シリーズ (5))空想科学読本7TVムック 謎学の旅〈PART2〉 (サラブレッド・ブックス)World Atlas of Ufo’sThe Wonders of AlaskaSF大百科事典怪奇現象博物館―フェノメナ随筆辞典〈第4巻〉奇談異聞編 (1961年)知っておきたい 伝説の秘境・魔境・古代文明ザ・聊斎志異―聊斎志異全訳全一冊トンデモ超常現象99の真相 ・新旧聖書

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