ワイオミング事件―真実はフィクションの中に

スポンサーリンク
ニュース番組の映像が乱れ、唐突に奇妙な映像が始まった。
『333-333-333 これから特別なプレゼンテーションを行う』
浮遊感のある音楽とともに、映像が視聴者に語りかけた。お前は病気だ。お前は道を見失った――と。
そしてなんら具体的な『提案』もないまま映像は途切れ、事態に気付かないニュースキャスターが平然と選挙戦の行方にコメントする。
電波ジャック、ワイオミング事件。真実はどこにあるか。

From Wyoming with hate.

Wyoming Incident001b
アメリカはワイオミング州。
のどかな中西部――その中でもとりわけのどかなニオブララ郡の小さなテレビ局で事件は起こった。

ローカルニュースの放送中に映像が乱れ、奇妙な映像が映し出された。

不気味な人物と幾つかの文章からなるその映像は、なんらかの『表明』かと思われた。
以下の映像がその時のものである。簡易的な字幕もつけておいた。



この6分ほどの『特別なプレゼンテーション』が放送局が意図しない形で流れてしまった。


当時、この映像をリアルタイムで見た者は嘔吐や頭痛などの体調不良をきたし、病院へ駆け込んだものもいた。
もちろん「あの気味悪い放送はなんだ!」とテレビ局への苦情も殺到したという。

映像に出てくる文章は、短く抽象的ではあるがどこか強烈な印象を見る者に与える。

【YOU WILL SEE SUCH PRETTY THINGS】

【WHY DO YOU HATE?】

【YOU ARE ILL】

【WE JUST WANT TO FIX YOU】

【WHAT HIDES IN YOUR MIND?】

【WE HAVE ALREADY SEEN IT】

【YOU CAN LOSE EVERYTHING】

【NOTHING IS PRICELESS】

【YOU CANNOT HIDE FOREVER】

【WE STAND AT THE DOOR】

【YOU ARE LOST ON THE PATH】

【THERE IS TRUTH IN FICTION】

【ALL GOOD THINGS】

この意味も意図もわからない映像。誰が何のために作成し、電波ジャックという違法に属する手法で世に出されたのか。
『333-333-333』は何を意味する数字なのか。

それらの謎を追うと調査者は真相へと辿り着くまでに、この映像の裏にある奇怪な物語と、数人の関係者――そしてその死を知ることになる。

・この映像の一部はyoucanwatchnowというIDの人物――その人物の兄であるダニエル・ケーブルの持ち物だった。ダニエル・ケーブルはカナダのイエローナイフに滞在中していた時にこの映像を入手した――と見られている。本人が死亡しているため、詳細は不明。

・ビデオは幾つかのパートに分かれており、そのうちのいくつかを繋ぎ合わせたものが上記のビデオだ。それをGMillerなるIDの人物が入手したうえで何らかの形で電波ジャックし、人々に見せたとされている。公開されているパートは6つだが、全部で9つのパートがある。

・このGMillerはビデオの存在を知ると、ある時点から精神錯乱をきたし、支離滅裂なブログ記事を投稿し始め、そしてそれを削除した。(GMillerのブログ

・このGMillerは本名グレゴリー・ミラーなる人物だと考えられているが、ブログ記事を削除したのは別人ではないかとも言われている。

・gmillerのブログにて、ネットフォーラム(Happy Cube)の殺人犯の集まるスレッドへの誘導記事が投稿された。同ブログでドナルド・ウィルソンなる人物が鍵を握るという示唆があるも、ドナルド・ウィルソンはその時既に死亡している。(Niobrara county libraryに掲載されている死亡記事

・ギリシャ神話などに関連するいくつかの不可解なキーワード『Masks We Wear』『Nine Sisters Means』。そしてHappy Cubeの前述スレッドの凍結。

一つの映像からこのような不可解な展開が巻き起こった。これが’00年代中頃の話だった。
なんの意図をもってこれらの作品群が制作され、公的な放送に挿入されたのか。

そしてその裏側に流れるストーリーは、調査する者を真相へと導くのか。

映像の最後ではこう語られている。
「真実はフィクションの中にある」と。


sponsored link

意味深な言葉で、核心に迫らないで

日本でもこの映像がオカルトサイトなどで紹介されると、瞬く間に知名度を上げ、『ワイオミング=電波ジャック』と地名よりも事件の方が有名になるに至った。
詳細が伝わらなかったためか、さまざまな憶測や噂が飛び交うこととなる。

この映像に登場する不気味な人物たちの中に、一部我々の良く知っている人たちが混ざっている――と、そんな信じがたい指摘もあった。

以下に比較画像を用意したので、見て頂こう。

Wyoming Incident002

戦慄である。
著名人である正岡子規はともかくも、なぜアニメ銀河英雄伝説にチョイ役で登場するハイドリッヒ・ラング社会秩序維持局長が。

このラング、一時期2chでアスキーアート化され「久々にワロタ」の台詞とともに人気を博した。

lang001 lang002b2 lang003 lang004 そして、「久々にワロタ。~から困る」の台詞は原作とまったく関係ないにもかかわらず、LINEの銀河英雄伝説公式スタンプに採用され、いたって小規模な社会現象となった。
ロイエンタールの「黙れ下衆!」スタンプと上手く組み合わせて使うのが紳士の嗜みというモノだろう。

lang005
と――ダイナミックに話は逸れたが、こうでもして遊ばないと記事を書くモチベーションが保てない。

と言うのも、前節で触れた『裏話』および『電波ジャック』うんぬんの逸話はすべてデタラメだからだ。

もちろんデタラメと言ってもオカクロ特捜部によるモノではなく、『公式なデタラメ』である。

去年の暮れ頃「次回、ワイオミング事件をやるかも」とtwitterにて告知を行ったところ、「マックス・ヘッドルーム事件も一緒に?」という声を頂いた。実はこのマックス・ヘッドルーム事件もワイオミング事件と関連している。

マックス・ヘッドルーム事件は1987年11月22日アメリカはイリノイ州シカゴで実際に起こった電波ジャック事件で、ニュース番組『The Nine O’Clock News』の生放送中にマックス・ヘッドルーム(註 イギリスの音楽番組に出ていたCGキャラクター)の仮装をした人物の映像が割り込んできた事例である。割り込みは同日中に2度行われた。

マックス・ヘッドルーム事件の映像。 犯行は2時間の間をおいて行われた。 アニメソングを歌ったり生尻を出したりと、悪ふざけの様相が強かった。 当局により「放送に関する高度な専門的知識を有した技術者が犯人である」との見解が出されたが、結局犯人は捕まらず未解決のままになっている。

マックス・ヘッドルーム事件の映像。
1度目は21:16、2度目は23:15から音声付きで放送された。
電波ジャックした犯人は、汚い言葉を使ったり、アニメソングを歌ったり生尻を出したり――と自由気ままに振るまい、悪ふざけの様相が強かった。
のちにFBIにより「放送に関する高度な専門的知識を有した技術者が犯人である」との見解が出されたが、結局犯人は捕まらず現在も未解決のままになっている。


同日23時15分。2度目の電波ジャックの時の映像。英字幕つき

マックス・ヘッドルーム事件の詳細を報じるニュース番組

気の短い諸兄は

このちんちくりん頭の映像が、どうワイオミング事件に関連するって言うんだよ! 俺の怒りがマックス・ヘッドだよ!

と、そろそろ怒り心頭に憤るかもなので説明させて頂けば、ワイオミング事件の『創作者』たちがこのマックス・ヘッドルーム事件の映像に触発され、やってみようと思った――。そう公言している。これが発端ということだ。

もちろんワイオミング事件のクリエーターはテレビ放送に関する高度な専門的知識を有しておらず、結局録画したニュース映像に自分たちの作った映像を上乗せするという手法をとり、それをさも実際にあった電波ジャックの録画映像であるかのようにWEBに放流した。

事の起こりはSomething Awful Forumsというサイトだ。
ここに集まっていた少数の有志により、第1弾のビデオ映像が作成され、Google Videoに投稿された。

この映像はすでにGoogle Videoから削除されているが、他サイトで話題となったためコメント欄を介して第2弾、第3弾と『発見』される。
もちろん、この『発見』はクリエーターグループによるヤラセだ。

第1弾の好評をうけたクリエーターグループは、第2弾、第3弾と進むにつれ動画にどんどん『ストーリー』を付加した

ビデオのせいで精神崩壊を起こしたGMillerなる人物――彼のブログもクリエーターグループによって作られたモノだ。もちろん連続殺人鬼が集まるスレッドも同様である。

信憑性の向上に一役買った『ビデオを所有していたとされるドナルド・ウィルソン』の死亡記事だけは本物で、実在の人物であったのだが、彼はビデオとはまったく無関係である。

ただ彼のホームタウン、ならびに葬式記事の掲載されたサイトが『ワイオミング州ニオブララ郡』だったので、「ワイオミングで起こったことにしよう」と後付け設定に使われた。

2016年になってもyoutubeなどで『ワイオミング事件』を検索してみれば【閲覧注意】のタグとともに拡散され都市伝説化が顕著である。
――が、2007年にyoutube投稿された第2弾のビデオのコメント欄をみれば投稿された2007年の時点で

ワイオミング事件なんてなかったよ? デマだよ、これは。バイラルメディアだの安っぽい映像クリエーターの悪ふざけ
と指摘されている。

Wyoming Incident002b このような『特別なプレゼンテーション』はナンバー6まで制作され、それらを繋ぎ合わせ、なおかつ冒頭と末尾にニュース映像を付け足したのが項の初めに紹介した動画である。

フルムービーと第2弾の映像を見比べていただければわかるが、第2弾はかなり画質が鮮明である。

ここに制作者の苦心なりアイデアなりが見え隠れしており、フルムービー版ではニュース映像の画質に併せてワザと画質を落としているようだ。

ここまで淡々と書いてきたが
全部デッチ上げだって言うのかよ! 俺は信じないぞ! ここに書いてあるネタばらし自体がガセかも知れないだろ! あのベッキーだって良い子じゃなかったんだ、オカクロの言う事なんて信用できるかよ!
と懐疑の極み諸兄もおられるかと思う。疑い深さは天下一品。

たしかにその可能性を否定できない。

ただ、制作にまつわる詳細を知ってゆけば、なんだか疑う気も薄れる。

たとえば、ラングや正岡子規の不気味な顔。これらはどうやって作られたのか? 音楽は?

次ページではワイオミング映像のレシピとともに、この事件と似たり寄ったり事例を紹介しよう。


タイトルとURLをコピーしました