ドゴン族 知るはずのない天体知識を知る部族

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――なぜ、貴方たちがそれを知っているんだ?
人類学者は息をのんだ。肉眼では見えない星、シリウスB。
それは先端天文学で近年ようやく観測された伴星。彼らはそれを知っていた。
だが彼らの天文学知識はそれにとどまらず、他にも肉眼では観測できない宇宙の姿を伝承として彼らは知っていた。
シリウス・ミステリーと呼ばれる論争の始まりである。

シリウス・ミステリー

Dogon2 西アフリカはマリ共和国、サンガ地方。
乾いた大地に乾いた風が吹く、あまり肥沃ともいえない高原地帯である。

1931年フランスの人類学者であるマルセル・グリオール博士(Marcel Griaule 1898年-1956)は現住民族であるドゴン族を研究するため当地に赴いていた。
ドゴン族はおよそ1000年ほど前にこの地方に住み着いた民族で、これまで文明社会とほとんど接触することなく伝統的な生活を営んできた。

これはほとんど古代人の生活と言って良いもので、博士は彼らを調査することにより古代人の生活様式について理解がすすむと考えていた。
そのため彼らと生活をともにする道を選び、その実地調査は実に15年もの歳月に及ぶこととなる。

そうして1946年のある日、グリオール博士は長老(盲目の智者オゴトメリ)から一族に代々伝わるという伝承を聞き出すことに成功する。
それは以下のようなものだった。
宇宙を作られた神アンマは全ての星の中で最初に“ポ・トロ”を造り、そのそばに最も明るい星“シギトロ”を造った。
ポ・トロは宇宙の中心にある。この星は宇宙で最も小さく人間の目には見えない。
ドゴン族は夜空に輝く星々に信仰とも呼べる興味を示しており、この長老から語られた創世伝説もそれを如実に表している。

長老はさらに語る。

シギトロは全天で最も明るい星である。
ポ・トロはシギトロのまわりを50年かけて回る。
ポ・トロは白く、地球にはない“サガラ”というとても重い金属で出来ている。

重要な部分は以上の三点であるが、他にも以下のような伝承がある。
  • 天空で最も重要な星は、肉眼では見えないポ・トロである。
  • ポ・トロの周回軌道は楕円形で、母なる星はその焦点の一方に位置する。
  • シギトロの周りをポ・トロより4倍も軽く、軌道もずっと大きいエンメ・ヤが回っている。
  • エンメ・ヤの周りをニャン・トロが回っている。
  • ニャン・トロにはノンモが住んでおり、遙かな昔、ノンモは地球を訪れドゴン族やほかのオゴ(人類)に文明を与えた
ほうほう、なるほどですね。博士は聞き入り一つ質問をした。
「シギトロは一番明るい星だそうだが、どの星だろうか?」

長老は夜空を見上げ、ある星を指さした。
シリウスだ。

なるほどシリウスは確かに明るい。
おおいぬ座アルファ星。その明るさはマイナス1.5等星と地球から見える天体の中で最も明るく輝く星である。

ではシギトロがシリウスであるなら、ポ・トロとは?

Dogon1

ドゴン族の集落


少し考えて、博士は驚いた。
“シリウスに寄り添う、肉眼で観測できない小さな星”

ポ・トロとは、天体望遠鏡によって近年発見されたシリウスの伴星、シリウスBではないのか。
天文学的には前述のマイナス1.5等星の明るい星をシリウスAとし、その側に発見された小さな星をシリウスBとする。
シリウスBは8.3等星と非常に暗く、米国の天体望遠鏡開発技師であるアルバン・G・クラークが200倍という当時最新の天体望遠鏡を開発した際に、偶然発見された星である。むろん肉眼での観察は不可能だ。

それを天体望遠鏡も持たないドゴン族がなぜ知っている。

そして長老の語る伝承は、シリウスBの特徴を正確に言い当てていた。

ポ・トロはシギトロのまわりを50年かけて回る
現実に、シリウスBはシリウスAの周囲を50年かけて公転している。

ポ・トロは白く、地球にはない“サガラ”というとても重い金属で出来ている
これも事実に則している。シリウスBは白色矮星であり、天体望遠鏡で観測すると白く見え、さらには1立方センチあたり1トンという非常に重い金属製の物質で出来ていたのだ。

ドゴン族の天文知識はそれだけではなかった。
木星に四つの衛星があること、土星には環があることを伝承として知っていたのだ。

どれも肉眼では観察することが不可能な事実ばかりだった。
自分たち欧州が科学の最先端だと自負していたが、ドゴン族はそれを太古から知っていたという。

グリオール博士はこれらの驚くべき伝承をまとめた論文を発表。のちにこの論文に触発されたイギリスの天文学者ロバート・テンプルが実地調査を行い、大著『The Sirius Mystery』を上梓した。
こうして世間一般にまでドゴン族の謎が知られて行くことになる。

伝承と伝説の間に

dogon8

ドゴン族の祭祀。彼らは仮面をかぶり、太古の神への畏敬を表す。古代宇宙飛行士説の論者によれば、これは宇宙人の来訪を再現したものだという。


著作『The Sirius Mystery 』でも触れられる事になるが、やはり人々の関心はどうしてドゴン族が天文学的事実を知り得たかに集約される。

それに対する盲目の長老オゴトメリの回答は以下のようなものだった。

「遠い昔、偉大なる神アンマは宇宙でノンモを造りノンモに似せて人間を造った。
ノンモは人間の祖先と共に方舟に乗って空から大地に降りてきた。 そして正しい知恵を人間に与えてくれた」

ニャン・トロに住むノンモという存在が人類文明の始祖となったのだという。
このノンモはドゴン族の造る彫刻や壁絵などにも頻繁に登場する存在で、半魚人のような容姿をしているが人間の姿にもなれるらしい。
アンマを神とした場合、ノンモの立ち位置は天使のようなものだろう。

そのノンモが“方舟”とともに地球に下り、人類に文明を授けたというのだから、古代宇宙飛行士説の論者はこの話だけでメシが旨いはずだ。

Nommo2

ドゴン族の描いたノンモの図。半魚人というかサカナである。


方舟=UFO
ノンモ=地球外生命体
というワケで、やはり地球は過去に宇宙人の来訪を受けていた! というワケである。

なんだかオカルト的な歴史ロマンに溢れていて、個人的には嬉しくなる仮説ではあるが、ここで終わってはオカクロとしては公正に欠くので冷静を保つ。
来ててもサカナだしなぁ。

グリオール博士が収集したドゴン族神話であるが、その内容は膨大で博士自身が「20年かけて収集したけど、全部は無理でした」と吐露するほど膨大なモノであった。
それもそのはず、ドゴン族の伝承は文章として存在するモノではなく、口頭伝承であったのだ。その上、ドゴン族は血縁集団単位で小さなコミュニティーを形成して生活しており、その集団ごとに伝承に差異が認められる。
語りべによる多様性があるものの、「神アンマによる創世神話」という根幹部分は共通している。

では伝承に伝えられるように本当にノンモはやって来たのか?
ノンモによってドゴン族は高度な天体知識を授けられたのか?

結論に飛びつく前に、様々な仮説を検討してみよう。

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シリウスBは見えたのか

Nommo (Dogons) p348-c

ノンモの図2。ちょっと半魚人っぽくなりました。


特命リサーチがシリウス・ミステリーについて仮説を提示している。
それは、“昔はシリウスBが肉眼で見えていた!”とする説だ。
なんだか身も蓋もない説であるが、見えていたなら知っていておかしくはない。

国立天文台副台長の渡辺潤一理学博士によれば、白色矮星であるシリウスB(ポ・トロ)は遥か太古の時代、赤色巨星であり肉眼での観測が可能であった。
そもそも白色矮星は赤色巨星と呼ばれる太陽の何百倍もの半径をもつ明るく巨大な星が崩壊し、残骸からできた星である。
つまりシリウスBもかつては地球上から観測できる赤色巨星だったというワケでである。

見えていたなら何のミステリーもない話であるが、この仮説には不備がある。

赤色巨星が白色矮星へと変化するのに、少なく見積もっても1万年以上の時間が必要なのだ。ドゴン族が1万年も昔から天体を観測していたならば……と考えてしまいがちであるが、残念ながらそれ以外にも否定される根拠がある。
『白く、金属でできた星』であることを知悉していたという事実を説明できない。それにドゴン族が知っていたのはシリウスBだけではないのだ。木星の衛星や土星の環に関しても説明ができない。

さらに特命リサーチは二つ目の仮説を挙げる。
偶然の一致”説である。
これこそ身も蓋もないようだが、その論拠は以下のようなモノだ。

もとよりアフリカ北部に住む部族の間ではシリウスを神聖な星と崇める傾向があるそうだ。さらにドゴン族にとって、“双子”も神聖かつ重要な意味を持つ。グリオール博士の調査によればドゴンの人々は「一切のものは双子である」と考えているのだという。
その思想が下敷きとなり、シリウスだって双子に違いないという想像が生まれたのではないか、という説である。

しかしこの説も上記の説と同様、『白く、金属でできた星』であることを説明できず、公転周期も知り得るはずがない。木星などは四つ子となってしまうではないか。双子の双子ではあるが、わけがわからなくなる。

そして現代において、最も有力視される説にとりかかる。
それは、イギリスの天文学者I・W・ロクスバーグ博士とI・P・ウィリアムス博士が発表した“ノンモではなく、フランス人に教えてもらった”とする説である。
ドゴン族の居住するマリは1920年からグリオール博士の母国であるフランスが植民地化していた歴史的事実がある。この説ではドゴン族とのファーストコンタクトはグリオール博士ではなく、植民地を訪れた宣教師なり商人だったのではないかとする。
当時マリを訪れたフランス人たちは見知らぬ人々に決して心を開こうとしないドゴン族と友好関係を築くため、様々な近代的な道具を持ち込んでいたと考えられる。ドゴン族の人々は初めて目にするフランス製の品々に驚き畏れたに違いない。

その中でも天体望遠鏡は星々に関心の高いドゴン族の興味を大いに刺激したのではないか。
天体望遠鏡を覗き、夜空に輝くシリウスを観測し、木星を観察し、土星を……。

そしてシリウスに興味を示したドゴン族に、フランス人はシリウスにまつわる当時の最新知識を教えたのではないか。
この説のバックボーンに、1927年にイギリスの物理学者サー・アーサー・スタンレー・エディントン博士が著した『物質界の性質(The nature of the physical world)』がある。
この本にはシリウスBの性質がわかりやすく解説されており、シリウスBがシリウスAの周囲を50年で公転することや、シリウスBは1立方センチあたり1トンであるとドゴン族の知っていたとされる知識が書かれている。
この本はベストセラーとなり、翻訳されてヨーロッパの人々に広く読まれていた。

ドゴン族の元へ赴いたフランス人がベストセラーである『物質界の性質』を読んでおり、シリウスBに興味津々なドゴンの人々に知識を披露した――というのがこの説の要旨である。

この説でほとんど誠実な説明が付いてしまうが、あえて意地悪な考え方をするならばこれも仮説の一つでしかなく、証明する手立てはない。懐疑論者のサロンでは現在、この“ノンモではなく、フランス人に教えてもらった”説がシリウス・ミステリーの種明かしだとされている。

あまり誠実ではないオカルトクロニクルとしましては、“実はドゴン族がノンモ=地球外生命体かもしれない”仮説を提唱しておきます。

伝承って言ったよね?

dogon3

古代宇宙飛行士説によるノンモ宇宙人仮説。中央にテンション高げなノンモがいます。たのしそう。


「なんだよ、ドゴン族の盲目の智者オゴトメリは、シリウスの天文知識は伝承だって言ったじゃないか!」と憤った諸兄のために興味深い事例を紹介しておく。

1957年パプワニューギニア奥地の山岳地帯にあるサウスフォレ地方でアメリカのカールトン・カイジェセク医学博士がクールー病の研究を行っていた。
サウスフォレ地方にはいくつかの村があるが険しい山々に隔てられ村同士の交流はほとんどなく、人々はドゴン族と同様に古代から続く文化や伝統を守って生活していた。
今でも石器を使い、死者の霊を弔うためにその肉を食べる食人の風習が残っている村もある。(カイジェセク博士は後にクールー病が食人のために伝染することをつきとめノーベル医学賞を受賞した)

あるときカイジェセク博士はサウスフォレ地方でも最も奥地にあるアガカマタサ村を訪れた。
村人たちは博士を珍しい客人として歓迎し、アガカマタサ村に古来から伝わる伝統的な民謡を歌った。
そこで博士も返礼として、一曲歌うこととなる。

選曲はロシア民謡の「黒い眸」
村人たちはその民謡を大変気に入った様子で、博士は彼らにせがまれて何度も「黒い眸」を歌わなければならなかったという。

数年後、博士がサウスフォレ地方の別の村に訪れたとき、1人の若い村人が奇妙な歌を口ずさんでいるのを耳にした。

どこかで聴いたことのあるメロディー。
よくよく聴いてみれば歌詞は違うがこの歌は黒い眸ではないか?
博士が若者にその歌はなんという歌かと訊いたらば、若者は自信ありげに「先祖代々伝わる民謡だ」と答えた。

つまり博士の歌ったアガカマタサの村人に聴かせた黒い眸がわずか数年の内にサウスファル地方全域に伝わり、不思議なことにパプワニューギニアの民謡として歌われていたことになる。

日本テレビによる文化人類学者の豊田由貴夫博士へのインタビューで、博士はこのような現象に対して以下のようにコメントしている。
こういう閉鎖環境にある地域では外の文明に対し非常に好奇心を持つ。今までまったく聞いたことのない音楽などに出会った時は「自分たちの先祖が歌っていたに違いない」や「霊魂や精霊が歌っていたに違いない」といろいろな解釈を行う。これは元の文化と違う解釈なので、こういう現象を文化の再解釈と呼んでいる。
この“文化の再解釈”がドゴン族でも起こっており、ドゴン族はフランス人から得た知識を自らの伝承に取り入れ、「先祖代々伝わる伝承だ」と主張したのではないか。そんなことがあり得るのか、となんだかモヤモヤするが、カーゴカルトのような事例もあるので否定することも誠実ではない。

そしてドゴン族の知識について言えば必ずしも正確であったとは言えないようだ。

彼らは木星の衛星を4つだとしたが、現在では大小あわせて66個発見されている。
そして土星に環はあるが、実は木星にも環がある。

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象徴的なドゴン族伝統のマスク。一部の有識者の間では宇宙人的なデザインだと評される。


シギトロの周りを公転するエンメ・ヤも見つかっておらず、むろんエンメ・ヤを回るというニャン・トロも発見されていない。今後見つかれば嬉しくなるが、どうも望みは薄そうである。

もっといえばシリウスBについて言及したのはグリオール博士が接触した一部の集団だけでドゴン族全体がポ・トロを知っていたワケでないし、ドゴン族の天文学的知識は20世紀初頭のまま止まっているという話である。

だが古代宇宙飛行士説の観点からすれば、そんなものは小さい問題であるようだ。

古代にやってきたノンモが詳しく教えなかった、あるいはノンモ自体が間違った知識をドゴン族に教えた可能性だってあるかも知れないじゃないか――という。
残光とも言えない可能性かも知れないが、ドゴン族へのロマンを信じていたい気持ちは理解したい。

もっともシュメールはどうだ、アナサジはどうだ――と他にも古代に宇宙人がやって居ているとする証拠(?)があるとして古代宇宙飛行士説論者の勢いは衰える様子がない。それでこそ、であるとオカクロは賞賛を送り、最後まで真摯に付き合っていきたい。

最後になったが、ドゴン族伝承によれば「アンマはノンモに似せて人間を造った」とあるが、全然似てないと思います。

■参考文献及びサイト 世界不思議大全 トンデモ超常現象99の真相 特命リサーチ Ancient Aliens: Complete Season 1 [DVD] [Import] サイエンス・アドベンチャー〈上〉 (新潮選書) UFOevidence.org crystalinks.com The Sirius Mystery 知の起源―文明はシリウスから来た
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