井の頭バラバラ殺人事件―迷宮の深淵から

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迷宮の散歩者

こと未解決事件において、警察の捜査ミスを批判する向きは多い。
この件にしても警察当局のフットワークの重さアクションの遅さは指摘を受けても仕方がないかも知れない。

「オカクロも広告でサイト表示は重いし、更新も遅いけどな」
と諸兄は憎まれ口を叩くのかも知れないが、記事を書くたびに資料代、交通費で赤字を計上しているオカルトクロニクルとしては広告による微々たる補填ぐらい大目に見て頂きたいものである。

せこい話はともかく、警察は当初、『セオリー』に従って夫人を疑った。
ここにかなりの捜査リソースを裂いたため、目撃証言などの取りこぼしがあったのではないかという指摘もある。

だが多くの場合、バラバラ殺人は被害者に近しい人物によって行われる。そして捜索願いが失踪翌日という早い段階に出された事実をして、夫人に捜査リソースを裂くのは当然とも言える。

だが結果として全ての捜査は犯人逮捕に繋がらず、事件は迷宮入りした。
「捜査なんて0か100か、だ。逮捕できなけりゃ無能と言われても仕方がない」 そんな事を言う警察関係者もいる。

では警察はどのような犯人像を想定していたのか?
残念ながらこれはわからない。プロファイリングなり捜査記録などを公開してくれれば我々のような一部のマニアが自腹調査に張り切るのだろうが、捜査資料は基本的には公にされない。

だが、面白い記事が目についた。タイトルにはこうある。

井の頭公園 未解決事件プロファイリング――闇に消えた犯人を追え

うぐう、これは興味深い、この情報の少ない難事件をどうプロファイリングしているのか――。
とハラハラしながらページをめくってみれば、以下のように書いてある。

「3人の人が見えます……男の人が1人、女の人が1人。もう1人は性別が分かりませんが……3人。男は日本人だけど、他の2人は日本人ではないようです」
見えます? 見えますってなんだろう?
真剣に読み進めると、こんな事も書いてある。

「殺される前にKさんはどこかのお店に行っているようなイメージが浮かんできます。豪華で個室のあるお店……高級中華料理店の円卓のような所にKさんを含めた数人が座っています」
います? イメージが浮かんで? なんだろう?
誰の発言かと記事の最初まで戻ってみれば、【プロファイリング さとう界飛】と書いてある。そして霊能者とも書いてあった。霊視とも書いてあった。

超能力捜査に関してとやかく言うつもりではないが、これをプロファイリングと呼ぶには語弊があるのではなかろうか。
いっそのことロバート・K・レスラーの生き霊をその身に降ろして、シャーマニズム・プロファイリングという新ジャンルを開拓して欲しい。

深く触れてもアレなので概要を端的に書けば、「朝倉喬司による『井の頭公園・バラバラ猟奇事件のトポロジー』を読んで、その内容を想像で補完した印象」である。

読みたいのはこういうのじゃない、と肩を落としていると、今度は

「洗脳」プロファイリング 重大未解決事件の犯人を追え!

というタイトルの本があった。

うぐう、これは興味深い、この情報の少ない難事件をどうプロファイリングしているのか――。
とハラハラしながらページをめくってみれば、以下のように書いてある。

「殺害現場はこの公園だと思います。他の場所で殺害されてここへ運ばれたというよりも、公園の死角になる場所で拉致され殺害され、解体された。夜中、猿ぐつわで声を出せないようにして、殺され解体されている。血を抜くには大量の水が必要ですが、血を抜くところもこの辺のどこかにあるのではないでしょうか」
公園内でバラし、公園の池の水で血抜きをしたという。事件の詳細を鑑みるに、これは少し無理があるのではないか。

「プロの解体業者を疑う説がありますが、私はそうでなく軍事系プロが思い浮かびます。彼らはそういうことがお手の物だから、動物も人間も解体することに手慣れています。被害者がどういう巻き込まれ方をしたのか、原因は本人の周辺人物にかかわる仕事かも知れないし、友達かも知れない」
このような形で根拠を一切提示しないまま、国際的諜報機関とスパイ・エージェント犯行説へと話は及び、以下のように終わる。

井の頭公園では今日も人々のおだやかな笑い声が木々の間から聞こえてくる。

「見せしめとして公園は最高のステージだったのです」
各国の諜報員と交流をもつ苫米地博士は湖面の反射を受け、まぶしそうに呟くのだった。

なんだこれは。
これがプロファイリングなのか。オカクロ特捜部の知っている、統計なり遺留品なりを元に犯人像を類推する科学捜査と全然違う。時代が変わったのだろうか。

ともかく、各国の諜報員と交流があるのなら、ちまちまプロファイリングする必要ないから、ちょっと、やったかどうか聞いてみて欲しかった。

こんなふうになんだかションボリしていたら、この本についてのamazonのレビューに以下のようなことが書かれていた。

「事件、犯罪について書かれた本は多いけど、この本は一番お金と時間をかけないで書かれたものの一つでしょう。読まないほうがいいです」
的確すぎワロタンゴ。

まぁ、事実無根、飛ばし記事で知られる『サイゾー』なり『トカナ』なりの経営者である苫米地博士の言説をマトモに受け止める方がどうかしている――と、こんな事を書くから敵を作るのですね。生意気言ってすみませんでした。
――とオカクロ特捜部は、まぶしそうに呟くのだった。

長ったらしい余談はともかく、実際はどのような犯人像が類推されるのか。コレを少し考えてみよう。

まず、どの説にも共通している見解として挙げられるのが『複数人による犯行』だろう。新興宗教説にしても交通事故説にしても、多人数グループであったろうとされている。
これは『単独犯が短時間でバラバラにするのは不可能』という考えに基づいている。

実際に川村さんが最後に目撃された21日23時から、遺体で発見される23日11時まで多く見積もって約36時間しかない。
この短時間に殺害→解体→遺棄を行うに、多人数の方が効率がよいのは言うまでもない。
ゆえに『何らかの集団に属している』『血抜き、解体などの専門知識を持った』『複数犯』が想定されている。

だが、これらは固定観念かもしれない。

物事の一部分や細部に気を取られて、全体に目を向けないことを戒めて、先人は『木を見て森を見ず』という警句を残した。

だが、この事件では全体像にハマるピースを探すあまり、大きく予断が働いていたのではないだろうか。神は細部に宿るとも聞く。

ここは一つ、警察庁関係者の論文と統計データを元に、冷静に事件を見直してみよう。

(註:基になった資料は警察庁の部内資料、『凶悪事件通報』『主要凶悪事件捜査概要』『警察庁指定事件捜査概要』『解決事件に関する報告資料』による抽出。論文は犯罪行動科学部捜査支援研究室長の医学博士、渡邉和美氏、及び科研の故田村雅幸氏によるもの)

コンセンサスへの懐疑

バラバラ殺人という行為について


戦後から平成8年までに、日本で起こったバラバラ殺人で捜査本部が置かれたものは120件。これは連続殺人も含まれるため、事件数だけで見た場合は123件が起こっている。

バラバラ殺人は顔見知りの犯行を疑うのがセオリー』というのは、データにもしっかり表れており、犯人と被害者に面識のある場合が全体の8割――83.8%を占める。(面識者のなかでも、親族間の事件割合は低く知人関係にあるモノが最も多い

一方、面識がない場合には性目的が5件、金品目的、売春婦とのトラブルが各3件、誤認によるモノが1件となっている。

この井の頭バラバラ事件に関して、『猟奇趣味の異常殺人鬼による犯行』という見方も少なくなかったが、こと日本においてそういった損壊、性目的のバラバラ事件はおしなべて少ない。

一応断っておけば、この統計はその性質上『解決した事件』をもとにしており、完全に全体像――特に加害者像を把握できるわけではない。

ちなみにバラバラ事件の解決率は75%ほど、殺人事件全体の解決率は98.3%(犯罪統計書H8)となっている。

井の頭バラバラ殺人でも『人違い説』が根強く囁かれているが、統計上において人違いは0.8%しか起こっていない。(註:これは1954年に起こった『人違いバラバラ殺人事件』。好きになった女性に拒絶され続け、やがて殺害に至ったという、今でならストーカー犯罪にも分類されるものである。惚れた女なら間違うなと言いたい

それはともかく、良く聞かれる言説のなかに「バラバラ殺人は女性の仕業である場合が多い。解体前の遺体を運ぶ腕力がないからだ」というものもある。が、実際のバラバラ事件では男性の犯行93.8%に対して女性の犯行は6.2%となっており、これも統計からみれば『バラバラ犯人=女性』というのも思い込みの類でしかないことがわかる。

切断理由を見てみれば、『証拠隠滅・運搬の容易』が全体の93.2%を占めており、ここに男女差はない。


そして、犯行に関わった人数を見ると、単独犯である割合が8割。
80%の事例において、『殺害→解体→遺棄』という過程を1人で行っている。

10年区切りの年代別で見れば、この犯行荷担人数は年代を経るごとに増加傾向にあるが、『損壊・遺棄にのみ荷担した』のは4件と少なく、複数犯の場合は全行程に一貫して荷担している場合がほとんどだ。
ちなみに、女性が主犯であった事件は5件で、その中で共犯がいたのは3件と、男性に比べて共犯者を伴う割合が高いのが興味深い

被害者と加害者の関係性の統計では、全期間を通して両者の関係は、面識無しも含めた上でも『愛人・恋人』である場合が31.1%と最も高い。


余談だが、全てのデータをふまえて分析すると――『東京に住む20代無職の女性が、痴情のモツレで無職の恋人・愛人の単独犯に絞殺されてバラバラにされ、水中に遺棄されて時効までに犯人が検挙される』可能性が最も高い。
条件に該当する女性は、危険極まりない状況に置かれていると言える、そんな男はやめて今すぐオカクロ特捜部の所へ来て欲しい。そうすると統計上は14.8%ほど殺され難くなる見込みです。

キリがないので統計分析はこのへんにしておく。

複数犯について



解剖を担当した佐藤教授をして、「複数人による流れ作業が想起された」と感想を吐露しておられるし、世間のイメージもそれに近いモノだろう。

だが、本当にそれで良いのだろうか?

『8割が単独犯』という統計データを大正義にするつもりはないが、同調力の低いオカルトクロニクルとしては、世間の合意と少し離れた場所から事件を見て、あえて単独犯説を唱えたい。

遺体に複数の切り口があった事は項の前半で触れたが、これを見てみよう。
具体的に佐藤教授によって言及されているのは、以下の4種となる。

・乱暴に手ノコをあてた切り口。
・鋭利な刃物で肉を切って骨を露出させてから慎重に切断した切り口。
・骨の一番下までスッキリ切っている切り口。
・途中まで切ってポキンと折った切り口。

と、なっており、大きく分けて3パターンが見て取れるという。
たしかにこれを見る限りでは、複数人が同時進行的に作業したようにも思える。

だが、これは必ずしも複数犯を確定付けるものではない。
佐藤教授も可能性を指摘しておられるが、『学習した』可能性もゼロではない。

様々な切り方を試すうちに習熟がかかり、次第に効率化されていった可能性だ。

この手ノコの使用について、「なぜ電ノコを使用しなかったのか? 」という疑問も浮かび上がる。効率を考えれば、どう考えても電ノコを使用する方が正確かつ手早く切れる。
これについては、『手元に電ノコがなかった』というシンプルな考えと、『電ノコの発する音を気にした』という可能性を指摘しておきたい。

ともかく、『学習』について着眼したとき、我々は過去の事件に同じような流れを見つける事ができる。
単独犯による犯行、『練馬一家5人殺害事件』だ。

この事件では、犯人が最初に斧を使用し、上手くいかないので鋸に変え、さらには包丁――と短時間に様々な経緯を経て被害者一家をバラバラにしている。

『荒川放水路バラバラ事件』でも、共犯者である母親のアドバイスを受けながら、切断方法を工夫した。

切り口が幾つか見られるのは、人間が成長する生き物たるゆえんと言えるのではないだろうか。

解体施設について


遺体からはきれいに血が抜かれており、毛細血管にも血液が残っていなかったという。これには大量の水が必要とされる。
そして人目につかず、複数人が作業できる環境である前提が必要だともされる。

これをして一般的には教団施設なり医療施設、食肉加工施設に着目される。

だが、本当にそうなのだろうか?

過去のバラバラ事例に目を向けたとき、それらの『専門施設』を使用した例はほとんどない。
突出して多いのが自宅。その中でもよく選ばれるのが風呂場だ。
単純に考えて、風呂場は『密室であり人目につかない』ことと『血を水で洗い流せる』という大前提を満たしているからだろう。

でもよう、風呂場だけじゃ、血抜きが出来ないだろ、血抜きがよう
と諸兄は指摘するかも知れない。

これに関しては、佐藤教授の言にヒントがあるように思われる。

遺体は、まるで揉み洗いしたかのように
という言葉だ。
その言葉自体は比喩なのだろうが、実際に洗ったのだとオカクロ特捜部は考える。

洗濯機だ。

これは、魚の血抜きでも実際に行われており、漁業関係者、釣り人、海産加工業者などに知られている。

内臓は内容物があるため排水溝に詰まってしまう可能性があるが、その他の手足――切り分けた部位から洗濯槽に放り込み、洗濯・脱水を繰り返せばキレイに血が抜ける。

こう推定すると、遺体が水切り網に包まれていたのも必然に思われる。
そして発見された遺体パーツも、洗濯機での血抜きに適した部位ばかりだ。

『血抜きには専門知識が必要』とも言われ、医療関係者を疑う向きも根強いが、冷静な諸兄なら指摘してくれるはずだ。
いや、そもそも医療関係者だって、血を入れはするけど、完全に抜くのは本職じゃないだろ。注射器1本分ぐらいならともかくよ」と。

遺体パーツについて


発見されたパーツは27個。そこから推察して、「おそらく全体としては50以上に切り分けられたのではないか」とされ、それに従う形で「短時間で50ほどのパーツに切り分けるのは複数犯でなければかなり困難」とされる。

たしかに困難かも知れない。
だが、不可能ではない。
遺体に似たような処理を施した例を見てみよう。

・【練馬一家5人殺害事件】48歳の男が、被害者宅の成人男性1人を鋸で解体し各パーツをビニール袋に梱包。午前4時半から6時半のわずか2時間。次に取りかかった家族はもう少し時間短縮。

・【福岡美容師バラバラ殺人事件】 30歳の女が成人女性を殺害、簡易ノコギリで切断。髪を刈り込み肉も削ぎ、全てをビニール袋に小分けにして入れ、ガムテープで密封。スーツケースにそれらを詰め込み、自らについた血液をキレイに洗い流した。ここまでの全行程を3時間20分。

・【隅田川コマ切れ殺人事件(おでん屋夫婦殺害事件)】 24歳の男が老夫婦を殺害。最初に取りかかった老人の解体には鋸と包丁を使用し、8時間。次に取りかかった老婆の解体には2~3時間。6センチ~9センチに細かく切り、幾つかのブリキの一斗缶に小分けして遺棄。

あまり事例を挙げても陰惨なだけなので、やめておく。
だが多くの事例で、それほど多くの時間を掛けていないことが分かる。
ここで井の頭公園の事例を見れば、被害者の失踪から遺体発見までが36時間。必ずしも複数犯でないと不可能――というワケでもなさそうだ。

付け加えるならば、発見されたのは手足がほとんどを占め、胴体と頭部は発見されていない。
この事実をして、『遺体が発見された4月23日午前11時の時点で、胴体と頭部は未解体のまま犯人の手元にあった』とすれば、時間的余裕が充分にあった可能性もあるだろう。

細かい説明は避けるが、他のバラバラ事例でも最も解体に時間が取られている部位は、胴と頭部である。
犯人は、とりあえず解体できた部位から遺棄し、それがたまたま発覚したために別の方法に変えたのかも知れない。

記憶に新しい江東区マンション“神隠し”殺人事件でも、犯人は解体の済んだ部位からトイレに流したり、コンビニやマンションのゴミ捨て場に遺棄したりと状況事情に即した様々な遺棄方法を行っている。

梱包法について


遺体は特種な梱包法をされていたとされる。
これは調理人や釣り人、漁師、あるいは医療関係者が内容物の水分や臭いを外に漏らさないために使用する方法で、犯人はそれら職業に関連する者ではないかと推察された。

だが、本当に特種なのだろうか?
以下の図を見て欲しい。

InokashiraMMurder003

わかりづらくて申し訳ない。細部は描くのが面倒なので省略した。

いっそ、一連の包み方を動画に取ってYoutubeに上げ、オカキンという名でユーチューバーデビューをして、好きなことで生きていこう――かとも思ったが、商品紹介やPVのために無茶やるのが『好きなこと』とは到底思えなかったのでやめておく。

各方面を敵に回しそうな冗談はともかく、たしかに少し特種な梱包法ではあるが、調理人や釣り人、漁師、あるいは医療関係者しか知り得ないか? と問われればそんなことはない。

ああ、知ってる」という諸兄もおられるはずだ。げんに上に挙げた職業に就いたことのないオカクロ特捜部もなぜか知っていた。

それほどマニアックな包み方でない以上、「医療関係者だ」「漁業関係者だ」と業種に拘るのは視野狭窄を招くのではなかろうか。

ただ血抜きに洗濯機を使ったならば、『釣り人・漁師』という個性は梱包法との整合性が取れるので記憶に留めておくべきかも知れない。

プロの仕業か


苫米地博士の軍事系プロやスパイエージェント説ではないが、プロでなければ困難な犯行だという話も多々ある。

が、ここまで詳細を見てきたなかで『殺しのプロとしか思えない犯行である』という言説を支持する根拠が見あたらない。
統計的に見てもプロがおこなったバラバラ殺人というものが、そもそも存在するのか怪しい。

むしろ本当にプロならば犯行自体が発覚もしないように思われる。なぜなら、プロだからだ。

そして、事件全体を俯瞰したとき、どうも犯人の矛盾する行動や一貫性の無さが目に付く。

・指紋掌紋を削ってはいるが、結局は残った部位から判別される等、完璧ではなかった。
・完全犯罪を成し遂げるのが究極の目的であるならば、中途半端に『見つかるリスク』を取らねばならない公園のゴミ箱になぜ捨てた。
・ゴミ箱に捨てるにしても、どうして数量を平均化しなかった。(後述
・警察の執拗な捜査でも被害者と犯人との接点がまるで浮かび上がらないが、接点が希薄ないし皆無ならなぜ被害者の身元を隠そうとしたのか。

パッと思いつくだけでもこのような奇妙な点があり、洗練されたものとは言い難い。ちぐはぐな印象がある。
これをプロによる捜査攪乱と取るか、素人の稚拙なブレと取るか。個人的には後者を支持したい。

遺棄したゴミ箱


『一貫性の無さ』で挙げたが、資料を眺めていると幾つかの疑問符が浮かぶ。

その疑問符に答えを求めて、1990年代当時の『井の頭公園におけるゴミ箱の配置図なり施工図』が残っていないか公園管理者等に問い合わせたが「該当する資料が見あたらない」ということで、判る範囲で書かせていただく。
(twitterで協力して下さった方々、ありがとうございます)

遺棄されたゴミ箱の位置と、遺棄されたパーツの数を示した見取り図を作った。

InokashiraMMurdermap001


遺棄された現場は以上のようになっている。
ここで注目したいのがポイントHだ。1袋2袋というポイントが多い中で、Hだけでなぜか11袋もの遺体を遺棄している。
これは、なんだろうか。

同じような包み方をした袋を1つのゴミ箱に大量に遺棄すれば、発覚するリスクは格段に高まる。なのになぜ?
11袋といえば、発見された袋総数のほぼ半分にあたる。

註:一応断っておけば、この捨てられた場所と数量は、当時の新聞や週刊誌の情報をソースとしている。そして、ポイントHから30メートルほど離れた場所に『ゴミ集積所』があり、おそらく、このゴミ集積所で発見された分もポイントHに加算されている

当時のゴミ箱の配置図がわかれば、もう少し踏み込んだ推測ができたかも知れないが、取材力不足で断定的なことは書けない。ただ、当時、井の頭公園全体に配置されていたゴミ箱の数だけはわかった。51基だ。

51基すべての場所はわからなかったが、そのなかの幾つかは基礎や補修跡が残されており、現在でも場所が確認できる。


51基あるうちで、池の周囲に配置されたゴミ箱からだけ遺体が発見されていることから、犯人が池の外周をぐるっと一周回ったと考えるのが妥当である。
それらをふまえて、ではなぜポイントHやDにだけ多めに捨てたのか

地図上でHとBの間――青丸がついているポイントもゴミ箱なのだが、ここからは発見されていない。
青丸に遺棄された袋が清掃員によって集積所へ運び込まれ、発見。とりあえずHに加算――という可能性もあるが、そうだとしても多い。Hと青丸だけで5袋ずつ捨てられたという事になる

詳細な資料がとうとう入手できなかったゆえに、根拠薄弱な妄言でしかないが、犯人単独犯説を採るオカクロ特捜部としては、「予想以上に重かった」んじゃないかなぁと。うん。

犯人が通ったとおぼしき想定ルートは以下のようになる。

InokashiraMMurdermap002a

ここで想像する。

24袋で合計20㎏。これはかなりかさばるし、重い。

運搬に登山やトレッキング用のリュックサックを使用できたなら体力的な負担は少ない。が、それらではいざゴミ箱に遺棄する際、わざわざ背中から降ろし、袋を取り出し、また背負わなければならない。手間も時間もかかる。

ゆえにボストンバッグあたりを使うのが都合が良い。だがボストンバッグでは片側の肩にだけ重量が集中して負担がかかる。
犯人は苦労して井の頭公園まで遺体を運んできたが、公園に着いた時には体力をかなり消耗していた。

そこで、取り敢えず少しでも軽くしようとHに5袋捨てる。そこからは本来の計画通り公園全域に数個ずつ捨てようと思っていたが、まだ16㎏もあり、重い。

ここで、焦りも出てくる。重い重いとチンタラ歩いていては、不審者と思われ人目を引くし、警官に職質されれば一巻の終わり――。

仕方なく、青丸にまた多めに捨てる事にする。負担にならない程度までバッグを軽くしようと思う。もし、なにか想定外の出来事が起きたなら、走って逃げられるようにしておくべきだ――とも思う。ここで6個捨てた。

これでボストンバッグの重量は11㎏ほどになった。

ここからは怪しまれない程度の早足で歩く。ポイントAの200mほど先には井の頭公園駅前交番があることは知っている、ゆえに焦りがある。
犯人は早足でポイントBまで進み、1袋捨てる。

矢継ぎ早にポイントAに2個。

そして逃げるような足取りでポイントDの近くまでやって来たが、警察を恐れ無理に急いだせいで息が上がる。
なんて重いんだ。

犯人は交番から離れた安堵感と高揚、恐れ、怠惰。様々な感情から、計画を変更する。

本来なら公園全域に捨ててまわる予定だったが、一刻も早く帰りたくなる。もう池の外周を回って撤収しよう。そしてポイントDに多めに捨て――。


すみませんでした。
書いてて気付いたが、そもそも重い荷物を持った状態で、HからB方面へは向かわないように思えてきた。犯罪心理に知見があるワケではないが、自分が犯人の身になって考えたとき、荷物が重いうちはなるべく交番から遠いところに捨てたいですものね。


破綻したストーリーはともかく、この『池の外周にだけ捨てた』という事実と『数のバラツキ』に単独犯の臭いを感じません?

だって複数犯なら、2人でも10㎏ずつで重量を分割できるうえ、効率的に別行動をとるであろうから、公園全域にまんべんなく散らばって発見されるのではなかろうか。
そして1つのゴミ箱に大量に捨てる――という、発覚リスクを高める怠惰行為は慎むような気がする。後で仲間にバレてもまずい。

単独犯説を採るオカルトクロニクルとしては、この遺棄状況からそんな印象を受ける。


推定される犯人像


まるでわからない。
ただ、他の事件と比較したり、散らかっていた事実を一つずつ見つめてゆくと、必ずしも『複数犯でなければ不可能』というワケでもなさそうだ。

さしあたって言えることは
・(川村さん失踪の翌朝にあたる)22日金曜日のうち、少なくとも2~3時間を遺体解体にあてることが出来た人物。

・第一発見者の清掃員の証言が正しければ、22日のゴミ収集が終わった15時頃から翌23日の11時頃までに井の頭公園に赴き、遺棄できた人物。(註:公園に入ってから遺棄が終わる所要時間は周回距離と重量から最短で25分ほどとかかったと推定される。複数犯なら15分前後か。

この程度のしかない。
統計上で類推される犯人像は、東京在住――顔見知り――30~40代男性――無職――男女間トラブル――単独犯――被害者1名の単純殺人。
となっている。

もしかしたら、殺害に至った動機は川村さん自身に起因するモノでなく、奥さんに好意を寄せたストーカーによる――。いいかげん項が冗長なので妄言は控えておく。


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未完で未詳で未解決

この事件では捜査範囲を『拡げる』よりも『絞り込む』ほうがきっと難しい。
想像力を駆使してあれこれ語るのは容易いが、結局真相に結びつく『糸』は誰にも発見されなかった。

現地を回っていて、ふとオカルトサイトらしい説を思いついたので、余談代わりに書いておく。

井の頭公園にある弁財天をご存じだろうか。
これは遺体遺棄ポイントGのあたりにあるお宮だ。
弁財天に関する詳細は割愛するとして、この井の頭弁財天の一角に、『宇賀神』という神の像が祀られている。

これはいわゆる人面蛇身。人間の頭にヘビの体を持つ神で、『日本の伝説5 東京』によれば、この石像は井の頭池で人面蛇身に姿を変えて池に沈んでいった娘のために両親から寄進されたのだそうだ。

井の頭の弁財天で見ることのできる『宇賀神』像。下の絵は中国の人面蛇身。画像出典:okakuro-archives

井の頭の弁財天で見ることのできる『宇賀神』像。
下の絵は中国の人面蛇身。
画像出典:okakuro-archives


ここで思い出して欲しい。井の頭公園で見つかった川村さんの遺体はほとんどが手足。発見されていないのは頭部と胴体――つまりこれは『人間をヘビに見立てた、おどろおどろしい儀式殺人』ではないか――。

あるいは、まだ川村さんは生存しており、腕と足だけ切り落とされ、まだ何処かで、生ける宇賀神として――。

可能性は微粒子レベルで存在するのかも知れないが、オカクロ特捜部としても荒唐無稽だと評価せざるを得ない。こういうのは苫米地博士の経営するメディアにお任せしたいとおもう。


2009年。
結局、ほとんど何も解らないまま、事件は時効をむかえた。

事件当時、妊娠していた奥さんは「もう事件を思い出したくない」と住まいを移し、元気な子を生んだ。その子ももう22歳になっているはずだ。
事件が起き、時効になり、やがて風化してゆく。

統計を分析してゆくと、年代を経るごとにバラバラ殺人は隠蔽工作が緻密になり、加害者と被害者との関係性も多様化し、それに準じるかたちで解決にかかる時間も長期化している。

この10年で、加害者は2つ以上の解体道具を使用するようになり、昭和20年代頃にはほとんど無かった『債務回避や金品目的』を動機とするバラバラ殺人が、平成8年頃には合計43.4%と大きく増加しており、その合計は『男女間トラブル』の33.3%を上回り、動機の首位に立つ。

20代男性の半分が女性と付き合ったことがない――とする統計を安田明治生命の研究所が発表していたので、今後も時代と共に動機は変化してゆくのだろう。


だが、被害者家族の心境はきっと、ずっと、変わらない。
川村夫人はこんな事を言っていた。「ずっと、時間は止まったままです

2009年に起こった『島根女子大生バラバラ殺人』を覚えておられるだろうか。
今回オカクロでは井の頭バラバラ殺人を取りあげたが、この島根の事件とどちらをやるべきか最後まで迷った。
この事件は、アルバイト帰りの女子大生、平岡都さん(19)が惨殺され、山に遺棄されたもので、2016年現在も犯人は捕まっておらず、捜査の難航がうかがえる。

NHKの『未解決事件追跡プロジェクト』で、この事件が取りあげられており、そこで捜査員あてに送られた被害者遺族の手紙が紹介された。

手紙では遺族としての悲痛な覚悟が書かれ、「くれぐれもお体をお大事に」と刑事を労り、最後にこうあった。
今後も都のことをよろしくお願いします

世田谷一家殺害事件の残された老遺族は、事件のあった日から毎日カレンダーに×印をつけ続けている。「きょうも、だめでしたね」と。もう16年にもなる。事件が解決する日まで、そのいとなみは続く。

犯人逮捕まで事件は終わらない。
犯人の逮捕によって、全てが元通りになるわけではない。だが遺族は1つの区切りを得ることが出来る。
少しでも情報をお持ちの方がおられましたら、以下のページから情報提供をお願いします。

島根県警:女子大学生被害の死体遺棄等事件情報提供のお願い

現在日本には120件以上の未解決事件がある。
時効が廃止されたことで、いくつかは時を経て解決するかも知れない。webメディアを運営する側としては、デマの拡散に荷担せず、事実を伝えることで協力するようにしたい。それにより、誰かの記憶を刺激できるかも知れない。

世の中悪が栄えた試しはないらしいが、残念ながら滅びたという話もない。これからも事件は起こり続けるだろう。
せめて、1つでも事件が減って、1つでも事件が解決するよう、願うばかりである。

余談だが記事を書き終えたと同時に、殺人のニュースが飛び込んできた。目黒区にある公園の池――『弁天池』からバラバラにされた遺体があがったそうだ。世に悪行の種は尽きまじ。

最良の予言者は過去である」と、ロマンチストが言い、「我々が歴史から学ぶべきなのは、人々が歴史から学ばないという事実である」とリアリストが言う。
どちらにせよ、我々の教科書はロクなモノではない。



NEXT↓続編 井の頭バラバラ事件、24年目の新証言



■参考資料

少年Aの犯罪プラスアルファ
私は真犯人を知っている―未解決事件30 (文春文庫)
未解決事件ファイル 真犯人に告ぐ (週刊朝日MOOK)
殺人者はそこにいる―逃げ切れない狂気、非情の13事件
国家の闇 日本人と犯罪<蠢動する巨悪> (角川oneテーマ21)
科学警察研究所報告. 39巻(2号) (通号 76)1999-03 バラバラ殺人事件の犯人像分析
科学警察研究所報告. 39巻(1号) 1998-08 戦後50年間におけるバラバラ殺人事件の形態分析
警察学論集 52巻(12号) 1999.12 捜査心理学と犯人像推定(22)バラバラ殺人事件の犯人像(上)発生状況とその態様の変化
警察学論集 53巻(1号) 2000-01 捜査心理学と犯人像推定(23)バラバラ殺人事件の犯人像(下)類型別に見た犯人像
犯罪学雑誌 44巻4号 1978.08 バラバラ殺人事件の凶器の解明例
日本のバラバラ殺人
死体の嘘―世田谷一家惨殺事件から『あしたのジョー』まで
殺人現場を歩く
かいぼり新聞 「よみがえれ!!井の頭池!KAIBORI News」no1-10
新潮45 1996/10 1999/10 2007/4
新潮45
週刊現代36(18)1994-5 1994-8 1994-12
週刊文春1998-6-4
不思議ナックルズ13
サンデー毎日73 1994-5
文藝春秋 2010-10

別冊ナックルズ 7ニッポン“タブー”事件簿
おい、小池! 全国指名手配犯リスト付き未解決事件ファイル
日本の伝説 (第5巻 )東京
朝日新聞 1994/7/11 10/12 10/21 1995/1/12
毎日新聞 1994/6/24
読売新聞 1994/05/11 5/12 6/10 11/23 3/9 1995/1/12
他 :週刊大衆臨時増刊 20140321 p152 週刊大衆ヴィーナス 真相究明スペシャル  / 週刊大衆臨時増刊 20121127←ファンタジー北芝 / 怖い噂 201308 衝撃ルポ 未解決事件の知られざる暗部 戦慄の後日譚 奥多摩バラバラとの関係 / 週刊朝日 20091030 p107 真犯人を追え 本誌だけが知っている / 宝島 19960612 あの事件は今後編 p32
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